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乃木坂46版 ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』Team STAR 感想

前おき

※一部ネタバレあり。

2018年6月8日(金)~24日(日)、天王洲銀河劇場にて公演されたセーラームーンミュージカル乃木坂46版 6月公演。セーラー戦士5名がそれぞれTeam MOON、Team StarとしてWキャストで演じられた。

22日の夜、Team STARの公演を観劇した。MOONも観劇したが、全く引けを取らない、素ン晴らしい舞台だったので、早速ここに感想等々を記しておく。

上記の通りMOONを先に観ていたため、MOONキャストと比較する形での感想が多くなりがちな点、ストーリーを把握していた分細かいところも見れたのでMOON感想より文量多く書いてしまった点など、色々とあらかじめ了承していただきたい。

MOONの感想はこちら。

2019感想はこちら。

月野うさぎ/井上小百合について

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ねとらぼ 2018年06月12日公開記事より引用、以下同じ)

 さて、まず主役のうさぎである。MOONの山下美月に対し、STARさゆにゃんこと井上小百合が演じたわけだが、このうさぎからまるで違った

 その実、セーラー戦士5人とも(プラスな意味で)全く別物だったのだが、その第一としてこのうさぎについて書いていく。

 さゆにゃんの演じたうさぎは、すごく弱そうでバカっぽくてダメな明るいやつだった。もちろんさゆにゃん自身やその演技がダメだったのではなく、彼女は「ダメなやつ」なうさぎを的確に演じていた

 個人的に感じた印象としては、美月の演じたうさぎは、お調子者でちょっとバカだけど、そんなところが愛されているクラスの人気者といったキャラクター。

 それに対し、さゆにゃんの演じたうさぎは、心優しい良いやつだけど、何をやってもダメな落ちこぼれといったキャラクターだった。

(本人の意図と違っていたら申し訳ない。あくまで素人目で観た際の個人的な印象の話である)

 このうさぎ像によって何が変わるかというと、セーラームーンになったときの格好良さがより引き立っていた

 格好良さ、と書くといくらか薄い言葉になってしまうが、ダメなうさぎがいざセーラームーンに変身した時のヒーロー然とした姿たるや、とても勇ましく、それはもう風格すらあった。ということだ。

 つまりは、メリハリである。「変身モノ」だからこそ、変身前と変身後の違い、変身したことによって生まれる変化、変身することの意義といったものを、演技を以てしてさゆにゃんは表現していたのだ。そんなん出来るさゆの実力、ヤバくない?

 また、さゆにゃんがセーラームーンを演じた意味という点を特に感じた箇所があり、それは変身歌にあった「憧れてた正義のヒーロー」の一節である。彼女の昔からの想いとリンクしているようで、すごいグッときた。

 そんなリンクしている部分を見るに、さゆにゃんは「セーラームーンは苦手としていた(※意訳)」と言っていたが、自分で思っている以上にうさぎと重なっていたんじゃないかなあ、なんて思う。4戦士との関わり方もそうで、それについては後述する。

 演技のメリハリの話に戻ると、うさぎ像、セーラームーン像のほかに、タキシード仮面を前にしたときの乙女の顔も素晴らしかった。それはもう、うっとりである。うっとりさゆにゃん、めっちゃ可愛い。

 だがしかし、それを見ている時の感情は「タキシード仮面そこ代われ」ではなく、タキシード仮面様がカッコよすぎて、完全に乙女さゆにゃんにモロ共感してしまった。さすが、タキシード仮面様である。タキシード仮面様、マジイケメン。ちなみにタキシード仮面様を演じた石井美絵子さんは紛れもなく女性である。

 最後にどうしても語りたい点が、さゆにゃんのアドリブ。とにかくボケが多いのだ。端々で隙あらば差し込んでくる。しかもちゃんと面白い。乃木坂トップレベルの舞台経験は伊達じゃないといったところである。後述するが、それによるみり愛との連携もまた良しなのだ。

水野亜美/渡辺みり愛について

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 みり愛の演じた亜美ちゃんは、すごく原作の亜美ちゃんに近かった印象。

 理々杏の亜美ちゃんは、理々杏らしさが強く出ていた印象で、意志の強い凛々しい女の子だった。すごく”戦士”だったのだ。

 それに対してみり愛の亜美ちゃんは、天才と言われるほど頭が良いけど、気弱で真面目、そんな性格から孤立している少し寂し気な女の子。そう、根っこはか弱い女の子だった。

 急にうさぎに声を掛けられて戸惑うところ、突然の誘いを受けても素直に嬉しそうに返事するところなど、特に心の機微が表現されていたように思う。

 孤独(これキーワードなので以後頻出します)を感じている、そんな亜美ちゃん像だったからこそ、うさぎにカフェに誘われたときの嬉しそうな返事と態度が、すごく際立って、印象的だった。また、ここが終盤の展開に繋がる場面であるため、この「亜美ちゃん像」がより活きていた。

 「戦士」である以前に「女の子」である亜美ちゃんを、みり愛は見せてくれたのだ。

 それでいて、うさぎに振り回されつつ支えるサポート役という、亜美ちゃんのもう一つの役割もかなり印象深いポイントだった。

 元々さゆにゃんとみり愛は仲が良く、またみり愛がツッコミ役だったりするわけだが、それがこのうさぎと亜美ちゃんの関係性に通じていて、一人先走りがちなうさぎと、引き止めて窘める亜美ちゃんという一連の姿がとても自然だった。

 加えて言うと、このさゆにゃんとみり愛の連携は、さゆにゃんの発するアドリブにも効果的に現れていた。サクッと挟まるさゆのボケに、亜美ちゃんの人格を崩さず、強くツッコミすぎずにウケる感じなんかは、普段の関係性あってこそだろう。ナチュラルに受けるから、よけいに面白いのだ。

 このSTARを見てしまったら、もう、さゆムーンに対するマーキュリーは、みり愛でしか有り得なかったとしか思えないのだ。

 そんなおしとやかな亜美ちゃんも、カーテンコールでの挨拶のときはいつものみり愛に戻っていて、なんだか安心したりもした。

火野レイ/寺田蘭世について

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 蘭世の演じたレイちゃんは、かずみんのレイちゃんよりも、塞ぎこんでいる女の子だった。

 持っている不思議な能力故に周囲から偏見を持たれ、孤独な存在になっており、またそれを抱えていることでどこか他人に壁を作っているような、そんな印象だった。

でも根は気が強く、また正義感も強いため、敵に立ち向かう勇気を見せる面もある。そんなレイちゃん像だった。

 さらに、変身したあとは上記のような弱い面は見られなかった。というのは、(脚本にそのような描写が無いからではあるが、)変身し新たな自分になったこと、気持ちや時間を共有できる仲間が出来たこと、それによって気持ちの余裕ができ、レイちゃんの中の何かが変わった。そんな風にも取れるのだ。

 話の進行の妙によるキャラクターの変化が、良い方向に働いたと見ることができるのだ。

 そしてこのような全体的な人物像は、かなり蘭世と近いものがあり、すごく似ているんじゃないかと思う。今回のTeam STAR、こんなキャストとキャラクターの根っこの部分のリンクが多く見られ、より没入してしまったところがあったりする。

 また、今回のセラミュでの蘭世のポイントとして、歌がすごく良かった

 正直なところ、軍団曲などの印象で、あまり歌は得意じゃないイメージだったのだが、今回あの低めのしっかりした声が5人の中でも特徴的で、かなり彼女の歌に対するイメージが変わった。

 というか、セラミュ出演にあたり、ニガテだったところを克服するくらいのこちらからは見えない努力があったんだろうとも思う。

 そういったところも、彼女がセラミュに出る意義や出たことで得たものみたいなのが感じられて、経験が糧になっているのを目の当たりにした気分になり、なんか熱くなってしまった。

 蘭世のポイントとしてもうひとつ、地味に驚いたのが、その細さ。細すぎて、変身シーンを後に控えている時に衣装を重ね着していても、一人だけ全くもっさりしておらず、普通に着こなしていた。細い細いとは思っていたけど、実際に見ると、あれはビビる。

 そして最後のカーテンコールの時にジェダイト役の武田莉奈さんとなんかイチャイチャしていて、それもすごく眼福。そのやり取りの時も気が強くて、なんか尻に敷いてるみたいで微笑ましかった。もし四天王も転生して命を落とすことが無かったら…というIFを観ているような気持ちになって、勝手にグッときたりしたのは内緒だ。

木野まこと/梅澤美波について

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 何よりも、梅がまこちゃんそのものすぎてヤバい

 「キャストとキャラクターのリンク」とは上で書いたが、この梅澤美波演じる木野まこと/セーラージュピターは特にそれが強かった。

 もちろん、本人が似ているからそれでハイ終わり、ということでは無い。確実に、梅は演技によってさらにまこちゃん像を作っていた。

 どういうことかと言うと、能條演じるまこちゃんは、かなり漢らしいところがあった。それによる頼れる一面、その上で見え隠れする乙女な一面という魅力を彼女は魅せてくれたわけだが、梅演じるまこちゃんは少し違った。

 梅の演じたまこちゃんは、すごく普通の女の子だった。

 普通の感性を持ち、新しい友達ができるか期待と不安を抱えていて、ちょっぴり恋にも憧れている。そんな、普通の女の子と変わらない子だった。

 しかし、その風貌によって誤解を受けたり、困っている人を放っておけない性格からゴタゴタに巻き込まれることもあったりしておかしな印象を持たれたりしてしまっている。

 そんな背景から周囲に避けられ、孤独になってしまっている。梅の演じたまこちゃんは、そんな人物像となっていた。

(これは、脚本において描かれているまこちゃん像に忠実なんじゃないか、ともニラんでいる。がしかし、ホンに忠実な梅、自分の解釈で超えてくる能條、どちらも有能なのだ。)

 だからこそ、うさぎが自分を受け入れてくれた時、一緒に戦う仲間ができた時、まこちゃんの感じた喜びを自然にくみ取ることができ、彼女やそれを囲む戦士たちに愛着が一層湧くのだ。

 そんな、等身大の(デカいが)まこちゃんの姿を、梅は魅せてくれた。

 誤解云々と書いたが、実際まこちゃんはヤン的な部分もあり、その感じがまたヤン的な梅の気質と合っていて、なおのことハマり役だったように思う。決め台詞なんかは格好よすぎで、うっかり調子こいたら本当にヤキ入れられそうである。

 加えて、あの体格で行う殺陣が舞台映えしすぎて、これまた格好よすぎた。あれは文字通り生まれもっての才能だと思う。是非今後も、活用しているところを見せてもらいたい。

愛野美奈子/中田花奈について

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 これまた、ひなちま演じた美奈子ちゃんとはまた違う美奈子ちゃんを演じてくれたかなりん。むしろ、ひなちまの穏やかさ成分による包み込むような母性満載の美奈子ちゃんとは、かなり違かったように感じた。

 彼女の場合は、上記のような穏やかさ、明るさ、逞しさなど、それらによって「頼りがいのあるベテラン」といった印象だった。それもヴィーナスとして現すべき重要な一面である。

 対して、かなりんの演じた愛野美奈子/セーラーヴィーナスは、(表にはほとんど出ていないが、)「先輩として格好いいとこ見せなきゃ!」みたいな意識があって、それを少し無理して演じているような、余裕が無い女の子という印象だった。

 それは、主役として背負うものの多いさゆにゃんと演技経験が少ない後輩メンバーをまとめなければいけない立場だったかなりんの今回の境遇によって生まれた実際の感情に起因しているように思うのだ。

 自分自身、舞台に何度も出ているわけではなく、引っ張っていくには経験値があまりない状態でありながら、そのような立場(周りに強要されることはなかったにしても)に置かれ、少なからず追い詰められたであろう彼女と、美奈子ちゃんのセーラー戦士内の立場がリンクしているように思うわけだ。

 加えて、語弊を恐れながら書くと、かなりんの元来のネガティブさがそれにまた拍車を掛けつつ、「でも良いとこ見せたい!」という彼女の中に眠る欲の部分(こじつけでなく、彼女のパフォーマー気質がそうさせていると思っている)が、より一層かなりんと美奈子ちゃんのリンク性を高めている。

 そして彼女は、いざ頼られた時、実力を認められた時、その歓びがまた自身のチカラを底上げさせる。そんな面が、仲間と出会った美奈子ちゃんと合致しているのだ。

 演技の面でいうと、セリフを発声する時、いつもより可愛らしい高めの声を出していて、それがすごくよかった。また、舞台後のライブにて、踊る時誰よりも足をピョコピョコしていて、愛らしく、可愛かった。

 きっとかなりんは、ステージに立つにあたり、愛野美奈子/セーラーヴィーナスの何たるかをよく考えて、「美奈子ちゃん」として、そして「セーラーヴィーナス」として、常にいたのだと思う。

Team STARについて

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 さて、MOONと違って、Team全体についての感想を最後に持ってきてみた。

 というのは、まず個人をそれぞれ書かないと全体について書けないと思ったからだ。

 それぞれの項目において、「~な女の子」と意図的に書いていたのだけど、お気付きだっただろうか。

 それ自体はあくまで個人的な感想&印象なんだけど、それに付随する「孤独」というのがとても重要なキーワードなのだ。上でも一度書いた通りだ。

 この『セーラームーン』という作品は、色々なテーマが同時に複数軸として存在しているのだが、特に(後にセーラー戦士になる)彼女らの抱えている孤独をうさぎが晴らしてくれる、それによって生まれる絆というのが、このストーリーで表現すべきひとつのテーマなのである。

 「自分に声を掛けてくれた」「自分を信じてくれた」「自分の友達になってくれた」「自分を憧れていると言ってくれた」そんなうさぎの純粋な優しさが、彼女たちの孤独を溶かして、命を掛けることを厭わないほどの想いを抱かせた。

 前世の繋がり以上に、現世で出会ってうさぎに救われたからこそ、四人は命を賭して一度息絶えた彼女のことを救った。

 うさぎもまた、この戦いを通して出来た大切な友達だからこそ、どうしても救いたかった。

 そういったセーラー戦士5人の絆を、何よりも強く観ることができた。

 そしてそれは、仲間と出会う前の”弱さ”を表現することが、演じる上で必要なことだった。

 それゆえに、特にキャラクター達とリンクしているこの5人がTeam STARとして選ばれた。己が持つ弱さを素材に表現し、また仲間と協力して乗り越えることを期待されたのだ。

 「実力派」であるTeam MOONに対し、STARには、そういった強みがあったと思う。

まとめ

 最後の項にて、おおよそまとめてしまったのでここに書くことは正直あまり無い。いや、本当にまとまってかはさて置き、ね。

 ともかく、MOONとSTAR両方観て、どちらもすごく良かったので、Wキャストと言わずどうにか全員が共演する手段はないかなあ、と今思う。

 スーパー戦隊のVSシリーズみたいな、10戦士全員出る感じのやつやってく れないかなあ。

 最初は誤解から対立して(それぞれ1対1で戦っちゃったりなんかして)、最終的に和解、10人協力して本当の敵を倒す。想像したら、めっちゃアツい!実現して!


明日飲むコーヒーを少し良いやつにしたい。良かったら↓。