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筒井あやめはゼロで待てる

ハッキリ言って天才である。

少なくとも、バラエティ的素養を強く求められがちな現代のアイドルとして、とりわけコント番組『ノギザカスキッツ』に出演している乃木坂46・4期生として、希有な能力を彼女は有している。

そんな筒井あやめちゃんの能力を「ゼロ」と表現したい。

「何も無い」ということではない。彼女は「ゼロに成る」ことが出来る。

それはこれの執筆時から見て前回の『ノギザカスキッツ』にてよく分かる形で発揮された。

まずはそれを取り上げ、かつ他の場面でも見られるあやめちゃんのゼロが、いかに長けた能力であるかを見ていこう。

麗しのレイランド様~コンビニ編~

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『~スキッツ』#3にて放送された、清宮レイちゃん演じるレイランド様を主役としたコント。レイランド様のバイトしている店に訪れた女性客を軒並みオトしてしまう内容だ。あやめちゃんはコンビニに訪れた女性客の一人として出演した。

そのポジションがまず重要である。彼女は並んでいる列の2番目。早川ちゃん、あやめちゃん、森田さんという順序となっている。

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コントでは、レイランドによってまず早川ちゃんがオトされる。

当初は怪訝な目でレイランドを見ているが、彼がレジのスキャナで華麗に商品を読み込み、そっと頭を撫でられ、クッと顎を上げられ、あすなろ抱きで見事KO。お会計に財布を丸ごと置いて去って行く。

そんな異常な状況に対し、終始森田さんが大外からツッコミを入れ続ける。そんなシチュエーションである。

そして続いてあやめちゃんの番(展開は大体同じ)……というわけだ。

この状況、2番目の客(2番目にオトされる人)の振る舞いが非常に難しい事に注目して欲しい。

それは「あやめちゃんは1番目の客(早川ちゃん)がオトされる様子をずっと見ていた」ためだ。つまり、本来「それを踏まえて警戒を強めている」となっているのが自然である。

続いてレジに向かうあやめちゃんは「レイランドのやり口をもう知っている」。

早川ちゃん扮する客も当初は警戒していた以上、あやめちゃんも最初からオトされてしまいそうな状態ではない。同じく怪訝な顔をしているべきだ。

もしこれがお客さん役のメンバー達が毎回舞台袖から入場する形式ならば、それぞれが新鮮なリアクションでも状況的に自然である(前の客の様子を見ていない)。

しかし、構成上ツッコミである森田さんがその場にいなくてはならず、それ故に全員が板付きで始められる「列に並んでいる」という設定にする必要があり、実際行われた形になってしまった。

この状態で2番目の客を演じるメンバーに問われるのは、「全て見ていながら自分の番でいかに新鮮なリアクションをするか」(オチも展開も読めている流れにどう入るか)である。

その点、あやめちゃんは実に頼もしかった。求められているソレを見事にクリアーしていた。

以下の画像をご覧いただきたい。

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早川ちゃんがオトされている真っ最中(それを森田さんがツッコんでいる最中)、あやめちゃんは終始ゼロで待ち続けている。ボケとツッコミに挟まれていながら、彼女はそれらに影響されることなく常にゼロの状態を保つ。

普通ならば、この様子を見て何がしかのリアクションをする(驚きや戸惑いが表情に出る)ことも考えられるが、一切動じていない。

もはや「無視している」ですらない。ひたすらゼロで待ち続けている!

そして彼女は、そのままゼロでレジに向かうことが出来る。

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そりゃ森田さんもツッコミを入れずにはいれないというもの(咄嗟のツッコミではなく台本通りだとした場合、あやめちゃんはなお凄い)。

あやめちゃんは徹底してゼロでい続けることで、上記の2番目の難しさをクリアーした。「1番目の一部始終(の影響)を自分の番には全く残さない」という方法を取ったのだ。

そうして、既に一度行われていた「最終的にはオトされる」というオチまでの流れを自然に組み立てた。

繰り返しの白々しさを打ち消し、天丼の旨みだけを残したというわけだ。

このような、あやめちゃんのゼロ。それが更に活きた『ノギザカスキッツ』もう一つの名場面を続いて取り上げる。

オーディション

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(このコントは非常に秀逸で、芸人オーディションという設定の下「既存芸人のネタをパクっている」というボケを中心に据えることで、既存芸人のネタをそのままやることに説得力を持たせる一方、メンバーは例が存在するネタの模倣だけをこなしつつ「まずコント出演そのものを経験する」ことを達成出来ているのだ)

このコントでは、あやめちゃんは髭男爵のネタをパクったコンビ「レイあや」で登場した。

そしてキメたのが「筒井カッター」。見ていただきたい。このゼロを。

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そもそも「ひぐちカッター」というギャグが特殊である。爆笑を取るものでもないが、スベり芸とは言えない独特の空気を生む(ないし、空気を変える)ギャグである。

更に言えば、髭男爵のひぐちくん自体特殊なキャラクターである。当時の社会風刺に描かれるような「とぼけた貴族」的なキャラクターを演じており、ネタの中では性格も何も掴めない。それこそ、「ワッハッハ」と笑う場面ではただ空虚な笑顔を浮かべて首を揺らしている。

それを基にした「レイあや」において、あやめちゃんもまた同様のキャラクターを演じなければならない。

そこで彼女は徹底してゼロでい続ける。

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(可愛い)

そしてゼロで繰り出すことが求められる「筒井カッター」もゼロで行う。

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ギャグをやって恥ずかしがるでもなく、「これで笑いを」という欲が透けて見えるでもなく、彼女はゼロでこの技を放っている。

「筒井あやめ」本人の感情が漏れ出ることでコントに支障が出るような状況に全く陥っていない。それは彼女が全体に渡ってゼロで徹底していることの賜物だ。

もちろん、このコントではいずれのメンバー達も徹底してキャラクターに入っており、「他のメンバーと比べて圧倒的に優れている」という結論を出すことは出来ない。

それでも彼女の能力の高さの否定材料にはならないだろう。その"高い能力"の一つの解が「ゼロ」であるのだ。

(今回は詳しく取り上げないが、『乃木坂46時間TV』にてマツミンによって巻き込まれ誕生したアヤミンもまたゼロによって完成されたものだ。)

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なんでそんなに黄色いんだよ

ゼロに関する考察

あやめちゃんのゼロについて個人的に感じたのは、ぺこぱ・シュウペイ氏の振舞いと同一のものではないか、という見解である。

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(左)

シュウペイ氏もまた、ゼロの使い手である。

「全肯定漫才」とも呼ばれるぺこぱのネタを見たことがある方もいると思うが、ネタ中のシュウペイ氏によるボケは、結論から言って松陰寺のツッコミ(から派生する)フレーズへのフリである。

やはり松陰寺のツッコミ(から派生する)フレーズがネタの中心であり、松陰寺の方がセリフ量が多い=松陰寺が一人で喋る時間が非常に多い。

そうなった時、シュウペイ氏は松陰寺のツッコミ(から派生する)フレーズが終わるのを待たなければいけない。

その間のシュウペイ氏の様子をご存じだろうか。

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彼は常にゼロで待っている!その「ジャマしなさ」が凄いのだ!

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(これは松陰寺が長々と喋っている間、前段のボケを"キープ"のまま待ち続けている)

漫才という形である以上、ステージに2人だけで立ち、観客の注目を浴びている状態である。その状態で、あれだけ相方の時間をジャマせず何もせずいられることはかなり高度な技術である。ただボーっとしているだけだと認識していたのなら、すぐに改めるべきだ。

(あのスタイルになった初期、松陰寺のセリフに対しシュウペイ氏は驚く表情を作る等リアクションを取っていたが、後に現在の形となったそうだ。検討した結果の最適解があの「ゼロ」であったと言えるだろう)

そして、あやめちゃんが用いるゼロの技術もまた、シュウペイ氏を彷彿とさせるものである。

ネタ中の要素をジャマしない「ゼロ」という最適解に彼女もまた到達している。

「ネタ」そのものを総体として、徹底してその成立を善としている。それを成り立たせる密かな要素として、シュウペイ氏のゼロ、あやめちゃんのゼロがあると言えるわけだ。

あやめちゃんは喫茶店に行きたい

さて、ここからは上記以外のあやめちゃんのゼロが活きた場面を少々挙げよう。

『乃木坂どこへ』#13にて、新橋ロケが行われた最初回のオープニングでの一部始終に注目したい。

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ここでは、前回のロケ地争奪戦にて早川ちゃんが勝利……と思いきやプロデューサーさんの介入によってまんまとロケ地が「新橋」になってしまった。

実際オープニングではまず早川ちゃんに話が振られ、彼女は「マチュピチュ」や「ボリショイ」を逃したその不満を静かな怒りと共に吐露していた。

続いて振られたあやめちゃん。彼女もロケ地争奪戦で「喫茶店」を希望に挙げたが、決勝戦での対決に敗北し念願が叶わなかった。

あやめちゃんは決勝で敗北したとは言え、早川ちゃんと同じく怒りを露わにしてもいい立場である。しかし彼女は違った。

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さも「そうだなぁ……」と悩んでいる素振りを見せ、

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わかりきっていた「喫茶店」である。簡潔かつ完全なる古き良きフリオチ。

huluなどで映像を確認できる方は、それぞれで「新橋…(何かあるかな…)」「(喫茶店。)…やっぱり。はい。」と口をぼそぼそと動かしていることにも注目していただきたい。完全に"入っている"。

それを実現したのが、やはり「ゼロ」であるわけだ。悩む顔にせよその後にせよ、わざとらしさが表情に全く浮かんでいない。

こうした王道のボケを白々しくなくさらりと入れ込む手腕。当時にして若干15歳の中学3年生である。将来が期待できるどころか、末恐ろしくさえあるというものだ。

あやめちゃんは喫茶店に行きたいのに

逆に、ゼロからの表情を作ることも彼女は得意とする。

それは回を遡って、#12のロケ地争奪戦でのことだ。

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決勝に残った4人のうち、選んだロケ希望地は筒井:喫茶店、早川:東京タワー・鎌倉・マチュピチュ・ボリショイ、柴田:沖縄、金川:北海道札幌市であった。

最終戦開始の前にそれぞれの希望地を確認した際の、あやめちゃんの表情の変化が実に小気味よい。

あやめちゃんから順に改めて発表する。彼女以外のメンバーが挙げた希望地はいずれも国内外の観光名所であり、メンバーからの支持を集めた。

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「喫茶店」

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「東京タワーと、鎌倉と、マチュピチュと、ボリショイです」(一同拍手)

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「沖縄です」(一同拍手)

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「北海道札幌市です」(一同拍手)

そしてこう。

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ここまでのゼロとは打って変わってのこの表情。いや、ゼロを体得しているからこそのこの表情。あやめちゃんが不満を顔に出すことは珍しいが、それに違和感を感じさせずに笑えるにはゼロあってこそだ。

それこそ一つ前の新橋でのくだりもそうだが、彼女は自分のゼロを既に応用する形で操っている。

繰り返しになるが、敢えてもう一度。将来が期待できるどころか、末恐ろしくさえあるというものだ。

まとめ

というわけで、彼女は「ハプニングを味方に付ける」とかではなく、既に自ら「オモシロを造り上げることが出来る」のである。

しかもそれは一人で注目された場合だけではなく、複数人でのコントなど"場"を良くするものであるのだ。

現在にして若干16歳。乃木坂さんはとんでもない逸材を囲い込んでいる。

そんな彼女の末恐ろしさを味わうことができる番組は何か?そう、『ノギザカスキッツ』さ。

小粋にキマったので以上。




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