100日怪談 99日目

僕はあの後、引越し先の家を片付け、部屋をそれぞれ綺麗にした後の部屋を見る。
殆どは洋室なのだが、どうしても一つだけ開かない部屋がある。その部屋はどうも和室のようで、襖には御札らしきものが1枚貼られている。両親は買う前に事前に見たらしいのだが、この「部屋」だけは開けてはいけないらしい。僕も理由を聞いてみたのだが
「あの御札の部屋は、大家さんと開けてはいけない事を旨に契約した。」と父親は話していた。
そんなに開けたら不味いものでもあるのか?
そう考えていると御札の部屋から黒いふわふわとしたものが見える。
「僕はいつからこんなものが見えるようになったのだろう。」
見た目はまるで黒いホコリの様なものが周囲を漂っている。
「ゔゔぅ…」
まるで男の低い声で唸る様な音を聞く。
唸る様な声と共に隣には校舎の屋上から手招いていた黒猫がいつの間にかいたのだ。
「よぅ、坊主。お前居たのか。」
きっと睨んだような鋭い瞳が僕の行動を見透かすように覗き込んでいる。
「こりゃまた厄介な場所に来たもんだね。ここの家、『いわく付きの家』なんて近所の人から恐怖の対象となってるからな。」
黒猫はムッとした顔をして僕を見ている。
「なんでそんな言われ方してんの?」
僕は黒猫の方を見て不機嫌そうな顔をする。
「あ、そっかお前知らないのか、そりゃここの土地にはな…」
「ご飯だよぉ」
母親の一声で黒猫は話す目前でどこかへ行ってしまった。
「ねぇ、なんでここの家には御札はられてんの?」
ご飯中に両親に聞いてみた。
「あ、あぁここの家、借家にしては安かったんだよ。そ、そうだよね、母さん。」
「そ、そうよ。そういえば次の学校行く日決まったからね。」
「あ、あぁ」
どことなくよそよそしい会話で、食事をするのも気が気では無くなった。
僕は再度、寝る前にあの御札の部屋へ行くことにした。
次に言ってみるとうっすらと御札が切れて襖の奥が月明かりで明るく照らされている。僕は見た瞬間、ゾッとしたのだ。
奥に居たのは男では無く、女の人だった。中は御札だらけで、壁に貼っている御札は黒い血で天井まで染まっていた。布団に疼くように血を吐きながら首を長い爪で血が出るまで引っ掻いていた。その女は僕を見たのか
「ゔゔ…ゔぅ……薬をく…ださぃ」
「た…すけ……て」
唸る様な男の人の声の正体は女の人だったのだ。
その女は白目は無く、眼球は全て黒く蠢く虫で埋め尽くされていたのだ。
「う、うわあぁぁぁ」
僕は後ずさりして、自分の部屋に駆け込み、布団を頭から被った。
見てしまった。月明かりに照らされたあの光景が忘れられない。
「よぉ、昼間はどうも。」
黒猫が鋭い眼光を光らせ、僕の布団の上から前足を頭に乗せる。
「入ってもいい?」
僕は恐怖のあまり、震えながら黒猫を布団の中に入れる。僕は小声で黒猫に聞いてみた。
「ねぇ、あれはなんなの?」
「あれねぇ……ここの家の家主だよ」
僕は唖然とする。
「あの人が…家の…家主?」
黒猫は静かに頷くと、淡々と話す。
「あぁそうさ、あの人は最後、あの御札の貼られた部屋で亡くなってたんだ。彼女は『障碍』って呼ばれてた。昔は忌々しい存在としてあの家では扱われてたらしいな。いまじゃ『障害』って言うんだろ。そして、あの家は1度解体されたんだよ。問題はその後、死体は供養されず、そのまま『人柱』として埋められたんだ。彼女はずっとこの土地に骨ごと埋まってるってわけ、あの女はここにいる。」
僕は恐怖どころか悲しくなり始めた。
「彼女は悪い人なんかじゃなかった。」
僕はいつの間にかしゃくりながら泣いていた
黒猫は相変わらずの目つきで僕の方を見る
「同情しない方がいい。明日にでもあの部屋開けて、畳ごと剥がして出してやれ。」
僕は涙ぐんだ顔を黒猫に向け、頷いた。
目覚まし時計はジリジリと鳴る。
はっと目を覚ましたが、頬を1粒の涙がつたってゆく。
急いで服に着替え、僕は御札の部屋を思いきり開け、壁に張り付いた御札と畳を剥がし、床下の梁が見え1部だけ空いているのが見える。僕は力一杯土を手で剥がす。
「んうっ。」
僕は無我夢中で手で土を掘っていた。両親は何事かと御札の部屋を見ると土まみれになった僕と白骨化した死体に虫が這っていたのを両親が見て
「うっ」と嘔吐く様な声を上げ、警察に通報した。
その後、僕と両親は警察署へ行き事情聴取をされたが、証拠も何も無かった。けれども一つだけわかったことがあった。『彼女は昭和の初期から大正の後期の辺りに亡くなっていた』その後、この家が建てられたとの事だった。
3日後、お寺からお坊さんを呼び、彼女を供養するのに庭に供養塔を建てることにした。
その日の夜、彼女の供養を終えた僕はうつらうつらしながらベッドへ向かい、泥の様に眠ってしまった。
「そこの者、供養してくれたことを誠に感謝致します。ありがとう、この家に幸多からんことを。」と声がした方を向くが、綺麗な身なりをした女性がカタコトの日本語で話し、僕の目の前に現れ、深いお辞儀をしてからふっと消えてしまった。彼女がゆっくり眠ってくれることを僕は祈る。

100日怪談 99日目終了

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