鉄オタ 国境を越える④ マレー半島の東側を行く
マレー半島を縦断したい─
鉄道が好きかどうかに関わらず、一定数の旅行者はそんな憧れを持っている(と思う)。沢木耕太郎の『深夜特急』でもシンガポールへと南下していく旅の様子が描かれている。島国育ちの日本人にとっては陸路で国境を越えるという体験は新鮮だ。
御多分に洩れず半島縦断に憧れた。しかし、旅行記の多くがペナン島やクアラルンプールのある西側ばかり。確認してみると東側にも鉄道は走っている。どうせならと東側をタイへ北上していく計画を立てる。
時刻表を確認してみると、ジョーホル・バル(Johor Bahru)を20時25分に出発し、国境近くの町、ワカバル(Wakaf Bharu)に翌日12時半過ぎに到着する列車があった。時間にして16時間、約700kmの旅だ。
予約はマレー鉄道の公式サイトから。遠く札幌の自宅から発券までできることに感激しつつ、最後の一席をなんとか購入。座席表をみると連日満席近い。鉄道が移動手段として機能しているようだ。
夜8時前、夕食のナシゴレンの辛さもひかないうちにジョーホル・バル中央(JB Sentral)駅に到着。駅の売店で水とポテトチップスを買い込んで改札へ。予約時に表示されたQRコードかざして通過する。
エスカレータでホームへと下ると、ディーゼルエンジンの唸りが聞こえてくる。銀色の煤けた客車が今夜の宿だ。乗車するのは6号車。車内は通路を挟んで両側に寝台が並ぶ。褐色のカーテンを閉めれば自分だけの世界ができあがる。
20時30分、定刻通りにジョホール・バルを出発。せっかくなので扉の開くデッキへ。昼間の蒸し暑さが嘘のような夜風が心地よい。満席と聞いていたものの、発車時点では他に家族連れが1組。ここから16時間の旅が始まる。
人の声で目が覚める。いつの間にか眠っていたようだ。
ヒジャブを被った女性が多く乗り込んできた。静かだった車内が騒がしくなる。ただタイの夜行列車と違って、海外からのバックパッカーはあまり見かけない。
次に目が覚めるともう夜が明けていた。カーテンを開けてみると雨が降っているのか山々が白く霞んで見える。周囲の木々が列車に向かって迫ってくるように生えている。
食堂車も連結されており、せっかくなので朝食を食べに行く。
気だるそうな顔をしたウェイトレスにナシゴレンとコピを頼む。まだ眠気の残る頭にコンデンスミルクの甘さが染み渡る。横のテーブルでも家族連れがナシゴレンを食べている。
途中の駅で大勢人が降りた。下の寝台が空いたので、荷物は上段に置き広い下段で本を読みながらくつろぐ。雨が上がり、太陽が顔を出す。列車は相変わらずジャングルの中を走り続けている。濡れた葉の緑が輝く。地面から白い湯気が上がっている。
12時37分、ついにワカバル駅に到着。ワカバルはマレーシア北部の街コタバルへの玄関口。
(ちなみにコタバルは日本軍が1945年12月に奇襲上陸したことでも知られている。)
ここで降りる人も多く、改札には列ができている。写真を撮りながら列車を見送る。列車は次のトゥンパ(Tumpat)まで向かう。
太陽が真上から照りつけ、白く光る道がまぶしい。痩せた茶色の犬が改札近くに寝そべっている。駅前には赤いタクシーが数台止まっており、声をかけて乗り込む。今日の宿泊地コタバルの街へはあと少し。
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