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開発秘話モノのインタビューは「因果(いんが)」を徹底的に深掘れ!

記事やプレスリリースにおいて、ヒット商品の開発秘話、苦労話というネタはけっこうあります。ただ「だからこの商品はヒットした!」と明確に打ち出している記事やリリースは案外ないものです。おそらくインタビュー時に開発者に「いやあ、別にこれって明確な理由はないんですよね。いろいろやったし、いろいろな人が関わっているんで」とかなんとか言われたのでしょう。しまいには「私だけの手柄じゃないんで」と、結局誰が開発者なのか分からないような話になってしまっているケースも散見されます。

そりゃそうです。会社の新商品やサービスは一人の社員の力で生まれるものではないし(企画を考えたのは一人ということは結構ありますが)、ヒットの要因も機能、サービス、社会背景、さまざまあります。たまたま健康ブームだったからということだってありえます。

しかし、それでは読み物になりません。小説にしろ記事にしろ、読み物とは複雑な要素で構成されている世の中の現象を、一つの世界線で切り取って見せるものです。例えば本マグロの断面を見て、「このマグロは脂が乗っている」というけれど、たまたまその断面だからであって、別のところを切ったらそうでもない可能性があるのと同じです。赤身の美味しさだってマグロの魅力の一つです。しかし、同じマグロでも断面によって見え方は異なる。その中のどの断面を見せるのか? 我々がやるべきことは、最も美味しそうに見える断面を探すことなのです。

では、美味しそうな断面を見つけるためにはどうすればいいのか。

そこで重要になってくるのが、インタビューです。

断面というのは作るものではなく、切り取るものです。

つまり、後からこちらで創作することができないということです。創作したらそれは捏造です。

あくまでも事実でなければならない。

後付けで作れない以上、インタビューで引き出すしかないのです。

いわゆる、言質(げんち)をとる、というやつですね。

ではどうやるのか。

徹底的に、なぜ?、なぜ?、を繰り返していくのです。

実例をご紹介します。

とある健康食品をヒットさせた社長のインタビューでのことです。

話を聞き進めていくうちに、利用者の口コミで売れ始めたということがわかりました。

最初は卸業者やスーパーのバイヤーなどから相手にされなかったけれど、消費者が最初にその商品の効果効能に気づき、その要望に応える形で次第に小売店に置かれるようになったという、まあよくある話です。

正直、売れた理由=口コミ、だけでは弱い。もっと何かあるはずです。ああ、だからこの商品は売れたんだ。口コミにつながったんだ。そう思わせる説得力が必要です。口コミだけでは偶然です。偶然で売れたのでは再現性がなく、読み手に実益がありません。ヒットさせたければ偶然を待つしかないという身も蓋もない結論になってしまうからです。

そこで私がとった行動は、口コミの大元を突き詰めることです。もちろん、本当の最初の一人など特定できるはずもありません。そうではなく、この人の口コミがきっかけでブレイクしたというストーリーが作れる、口コミの起点となる人物を明確にできれば、そこから何か突破口が見出せると思ったのです。

そうしたら、社長の口からある芸能人の名前があがりました。その方は今でいうマツコデラックスのような辛口で知られるタレントで、言葉は辛辣なのだけれど嘘はつかないと評判の人です。その人が、とあるテレビ番組で紹介したら、翌日に通販サイトのサーバーがパンクするほど注文が殺到したというのです。

なるほど、有名タレントが番組で紹介したのがきっかけ。悪くないエピソードです。しかし。それでも十分ではありません。なぜそのタレントはその健康食品を良いとすすめたのか?どこで知ったのか? しつこく聞いていきました。すると、そのタレントがその健康食品を知ったのはいきつけの高級飲食店だということがわかりました。そこのオーナーがその健康食品の愛用者で、自ら摂取し続けたことで持病が完治。「すごく良いから使ってみなよ」とすすめていた芸能人の常連客の一人にそのタレントがいたというのです。

いい線です。しかし、それでも十分ではありません。まだまだ通販番組の宣伝文句のレベルです。私はさらに、そのオーナーはなぜその健康食品を知ったのか?と聞きました。当時、宣伝してくれたタレントと親交を深めたという社長。社長は記憶を懸命にたどり、そのオーナーの甥っ子が大学病院の内科医で、その医師から勧められたのだという、20年以上も前のエピソードを思い出したのです。

ビンゴ!です。医師がすすめることほど、強力なお墨付きはありません。彼らは国家資格保有者なので嘘はつかないという前提になっているからです。しかも、おじさんの健康を気遣って勧めたという善意が発端。それが、巡り巡って有名タレントの発言につながり、爆発的な口コミに発展していき、現在のヒットにつながったのです。まさに大河の一滴です。

このエピソードなら、「そうか、本当によいものなら、必ず消費者に届くんだ」「ただし、漫然と待っているだけではなく、その良さを科学的に理解できる人に最初にアプローチすることが必要なんだ」という気づきを与えることができます。ここまで書いて初めてネタになるエピソードなのです。

つまり、売れるものには売れる理由がある。そして、世の中の現象には全て因果(いんが)があるということです。

因果とは原“因”と結“果”のこと。昔のアレがあったら今のコレがある。

そういう関係のことです。

私はインタビュー&ライティングでは、これを大事にしています。

どんな形であれ、因果関係を明確にする。

因果関係のはっきりしない文章はどこかボヤっとしてしまいます。

例として出した健康食品の因果は、

原因=専門知識を持つ医師がその水の良さを知っていた
結果=巡り巡って爆発的な口コミにつながった。

でした。
結果は誰の目にも明らかです。
しかし、原因は掘り起こしてみないとわかりません。

インタビューの役割の一つには、この因果の「因」を見つけ出す、ということでもあるのです。

ここをしっかり意識して聞いて書くだけでも、原稿の仕上がりはかなり違ってくると思います。


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