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「従業員が退職をチラつかせる、あなたが事業主ならどうしますか?」

社会保険労務士の山地です。


もうお忘れかもしれませんが第2号のブログで、人が仕事を辞めようとするときはなにか理由がある。いろいろある退職理由の中で、避けるべきものの代表が「育児や介護」だとお伝えしました。

今回はいろいろある理由のひとつ、「人事評価」にまつわるお話です。

以前、大阪で社会保険労務士向けのセミナーに参加したときのことです。
セミナー中にワークがあり、一緒にワークをしていた隣の席の社労士さんが私にふと、こんなことをもらしました。

「ウチの職員が最近、仕事辞めようかどうしよう・・? みたいな、私を試すようなことを言ってくることがあって・・どういうつもりなのか、わからないんです。」

私はその社労士さんとは初対面ですから、雇用されている職員さんのことを当然知るはずもありません。私はほんの数秒考えてから、こう言いました。

「職員さんは自分の存在価値がわからなくなっているんじゃないでしょうか。」

すると、

「 ? ・・・あっ!! (何かに気付いて驚いた表情で)  ありがとうございます!!」

と、いきなりお礼を言われました。

これだけでは、なんのことかわかりませんよね。(笑)


人が仕事を辞めたくなる理由のひとつ、それは「適正な評価がなされていない」ときです。

職員さんが「仕事辞めようか、どうしよう?」と言うのは、職員さんはここに居てもいいのかどうかわからなくなっているのです。自分はこの社労士事務所の職員として、果たして先生(社労士さん)やお客様の役に立てているのか、自分の働きぶりはこれでいいのかどうかがわからないのです。

ちゃんと役に立てているとわかれば自分はここに居てもいい、と自信を持って働けるでしょう。しかし、誰の役にも立てていない、自分は居てもいなくても同じだと感じたならば、ここに居場所はないと思ってしまいます。


人は誰しも価値ある存在でありたいと願うものです。


この社労士さんは「一を聞いて十を知る」という感性の持ち主でした。私が解決策を提示するまでもなく、ご自分で気づかれました。ですからワークの途中でもありましたし、それ以上あえて私は何も言わず、たずねもしませんでした。

おそらくこの社労士さんは職員さんが仕事をするのは当たり前だし、実際職員さんは仕事もきちんとされていたのでしょう。だから、取り立てて評価するということをこれまであまりされてこなかったのだと思います。

だとしたら、この社労士さんがするべきことは職員さんに対して、「ありがとう」「ご苦労さん」「(仕事で成果を出したのなら)よくがんばってくれたね」など、キチンと言葉にして本人の働きぶりを評価することなのです。


企業規模を問わず、多くの企業にありがちなことだと思いますが、仕事はできて当たり前、やるのが当たり前と思っていると特別褒めるとか良い評価をするということをしません。

反対に仕事ができていなかったり、結果が出なかった時だけ指導したり、本人に反省を促したり、または叱咤激励したりしがちではないでしょうか。


もう今から10年ほど前のことですが、私は社会保険労務士試験に合格した直後で当時は労働局に勤めていました。前回お話した「雇用調整助成金」の書類の審査に毎日明け暮れ、毎晩遅くまで残業していました。

当時はリーマンショックで今のコロナと同じように、これまで助成金など申請したことのない小規模な事業所をはじめ、もともと労務管理がきちんとできていない事業所からの申請が多く書類の審査に手間取ることは日常茶飯事でした。

ある日直属の上司が私のところにやって来ました。

手には私が審査した書類を持っています。「山地さん、ご苦労さん。〇〇会社さんのこの書類、大変だったね。ありがとう」と言ってくれました。

その会社の書類は不足や不備が多く、何度も事業所に確認の電話をしたり、必要な証拠書類を取り寄せたりして審査にかなりの時間を費やし、ようやく支給決定にこぎつけた手のかかる案件でした。

毎日次から次へと申請書類が到着し山積みになっていく中、一刻も早く支給しなければいけないので、みんな緊張した面持ちで職場はある意味殺気立っている感じさえしました。

忙しいのはみんな同じですし、人のことを気に掛けている余裕なんて正直ありません。それでも上司は私のした仕事をきちんと評価してくれました。

こんなに忙しくても、ちゃんと見ていてくれる。これでいいんだ。

これが安心感につながり、もっとがんばろうとモチベーションが上がったのは言うまでもありません。


評価は毎日しなければいけないわけではありません。タイミングよくここぞ、というポイントを抑え良い評価であれば、ただ感謝の気持ちを表現するだけでもいいのです。時間もお金もかかりません。

自分はもしかしてなんの役にも立たない、不要な人間なのではないか?と誤解されることのないように、貴重な戦力を失わないために事業主の皆さんには「適正な評価」をぜひ実行していただきたいと思います。

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