君が憂う日も空はblue

いよいよまりなの中学生活は、終わりが見えてきた。結局あまり馴染めてはいない。高校受験も頭を過ったものの、なんとか欠席日数を進学に障らない程度に抑えて無事に内部進学した。成績も公立にいた中1は酷かったが、転校してからは何とか進学できる程度の評定は維持していた。秋口に「高校生活に期待すること」という作文を書いて、冬に面接があった。ここでも確か、もっと積極的にみんなと仲良く、みたいなことを書いた。ひとまず、受かりそうなポジティブなことは書き連ねたけれど、今更ホントにそんな事ができるとは思えない。まぁ究極の理想論だけれど、それで高校進学できるなら良いか。そして、部活と受験に忙しい近所のアキとは疎遠になってしまった。

学校にうまく馴染めない理由は私にもあるから、まぁ仕方ない、と素直に思う。だが同時並行で家庭不和が悪化しはじめ、まりなの心は休まらない。もともと危ういところはあったが、色々なことが引き金となり、さらにイザコザが悪化してしまった。この頃、まりなは大好きな山田太一さんの「岸辺のアルバム」の小説を父の本棚から勝手に拝借して読んだ。自分の家と同じ家族構成の70年代の関東近郊の家庭に、ほんの少しシンパシーを感じた。そして繁くんみたいに暴れて家族に思いを全部ぶちまけてやろうか、とふと思う。そして繁くんは、母の件で受験にいまいち身が入らず、大学受験にも失敗している。それはまずい。繁くんのようになるわけにはいかない、と自分に喝を入れ直す。まりなはこの頃、アイドルだけでなく色々なドラマや小説を活力にしていた。

そんなある日、小さい頃からまりなやユイトを可愛がってくれている母の友人、エリカちゃんがまりなと母をSMAPのライブに誘ってくれた。ライブの日、母は仕事で自宅にいなかった。まりなは塾で午前中に一コマだけ数学の授業を受けてきた。少年サッカーの練習からユイトが昼過ぎに帰宅した。その途端に大きなイザコザが起きてまりなは、怒りに我を失いそうになる。仕事帰りに駅で合流した母には、行きの電車でユイトが帰宅してからの顛末をまくしたてる。原因は父なのだが、父への怒りのあまり電車で若干ヒートアップするまりなを母は、ウンザリしたように制する。母を不快にさせることはもちろん望んでいないが、まりなはとにかくこの現状が我慢できず、怒りが理性に負けてしまう。あんたの旦那がどれだけクソか聞きやがれ、と強く思う一方、アウトプットしたからケロッと忘れるわけでもない。ネガティブな感情は、自分の中に蓄積されてしまうようだ。顔つきも険しいらしく、母は「アンタね、どんな醜い表情してると思う?鏡で見てみなさい!」と言ってくる。あんな嫌な光景を目にして気持ちはそう簡単に切り替わるものではない、とまりなは自分の未熟さに言い訳をして、全てを父のせいにした。怒りモードのせいで、せっかくのライブの道中は、険悪な雰囲気だ。そうこうしていると東京ドームに到着する。ドームシティーに入りしばらく歩くと、ドームが近づき、だんだん非日常感が増してきた。警備員さんのグッズ並びの列への誘導の声やお客さんの話し声のザワザワがまりな達を包む。そしてグッズ売り場付近ではBGMでSMAP の曲が流れている。一様に皆が幸せそうな顔をしており、この場所にネガティブな感情は似合わない。何てったって、もうすぐSMAPに会えるのだ。チケットもそう簡単には取れないらしい。ようやくまりなも気持ちが切り替わってきた。テンションが上がってきたまりなは、グッズのうちわを買いに向かう。前回は香取慎吾だったから、今回は木村拓哉にしよう。買ったうちわを列から外れてまりなを待っていた母にブンブン振ると「キムタクにキャーキャーいう女子高生って・・・」とツッコまれたが、気にはしない。エリカちゃんと、彼女の妹も合流して、いよいよライブが始まる。映像も面白く、演出はスターらしくカッコ良い。まさに非日常に誘われてうっとりした。最後のアナウンスが流れると、まりなは明日から頑張ろう!という気持ちになっている。

翌日も父から「お前、もうすぐテストなんだろ?お前の成績だと行ける大学なんてあるか?ママも何でテスト前のお前をライブに行かせるんだよ、考えなしだな・・・だいたいSMAPのライブなんてママもお前も、俗っぽいんだよ・・・。」などと言われた。いつもならここで私が楽しかった気持ちを台無しにするな、とまりなが発狂して事がさらにややこしくなる。だが、昨夜5人からもらった幸せはまだ持続しており、何も気にならない。不思議と大嫌いな化学と数1の勉強もいつもに比べて、身が入った。自分の意図しないところで信じられないぐらい嫌なことは日々、あるけれど、楽しくて素敵な瞬間だって時々はある。だから、完全にマイナスモードに入るのはやめよう、と自分を奮い立たせる。落ち込み切る前にできる最大の癒しは、やっぱりエンタメに触れること、だ。まりなはライブに行ったことをキッカケに、落ち込みそうになる度、家にあるMyojoの最後のページの木村拓哉の連載を開くようになった。遠い存在の大スターの並々ならぬ人間としての強さをを励みにしつつ、まりなの高校生活は進んでゆく。