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父に思いを馳せる⑦

手術ができるかどうか精査するために入院していた父。
「娘さんも同席して、精査の結果を伝えたい、と主治医が言ってる」と父から連絡がきた。
入院して20日目、2022年9月13日、この日は仕事を休んで病院へ行った。

主治医からの話は、

・外科手術適用不可。
・次の選択肢は、抗がん剤治療をするか、何もしないか。
・何もしなければ余命半年〜1年、抗がん剤治療をすれば余命1年〜1年半。
・抗がん剤治療は延命でしかない。
・抗がん剤治療の効果や副作用は人それぞれ。
・抗がん剤治療をするかしないか決めてくれ。

ということだった。

私は、父の余命が「半年」ということに打ちのめされて、頭が真っ白になった。

主治医に聞きたいことは山ほどあるけど、高圧的な主治医のご機嫌を損ねないように、何をどう聞いたらいいのか分からない。

お父さんはあの時、私の横で、どんな気持ちで主治医の話を聞いていたんだろう。

主治医の話が終わり、抗がん剤治療をどうするか、父と話すために談話室のようなところに移動した。

談話室はガラス張りになっていて、近くにある自然がいっぱいの大きな公園がよく見えた。
自然が見える反対側には工事現場があった。
「工事現場よりは自然が見える方がいいだろう」と思って、私はさりげなく、自然が見える側の席を父に譲った。
すると父はあえて反対の工事現場の方を見ながら、「あれは何の工事をしてるのかな?〇〇があるから〇〇の工事かな?」と言いながらそこをずっと見ていた。自然いっぱいの景色は全く目に入らないようだった。

父の仕事はいわゆるブルーカラーの職種で、工場や現場でずっと仕事をしていた。

「自然が見える景色の方が良いに違いない」というのは私の価値観であって、父は全く違う価値観をもっていることに気づかされた。
そうだよね、ずっとそういう仕事してたもんね、と思い、
私が決めつけてる「父はかわいそう」という父の世界に少しヒビが入り、
「余命半年」という状況なのに、力が抜けたというか、少しだけ、気が楽になった気がした。

父はこの後、「抗がん剤治療をする」と自分で決めた。
「まだこの世に未練があるから」と言っていた。

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