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父に思いを馳せる②ER編

病院に着き、早く父のところへ行きたいのに、時間外の入口がどこなのか分からず大学病院周りを右往左往する。
やっと入口を見つけ、受付を済ませるも、しばらく入口の椅子で待たされる。なかなか中に入らせてもらえない。
早く父のところへ駆けつけないと、会えずに、死んでしまうかもしれないのに!!!
と気持ちばかり焦り、叫びたくなるが、受付の方たちは日常を過ごしているだけなので、のんびり雑談をしている。

とても長く感じた入口の椅子での待ち時間を経て、看護師さんに連れられ家族控室へ。廊下を挟んで目の前にERがあり、そこで父は処置を受けているとのこと。

医師のK先生がERからこちらに来て、状況を教えてくださる。

「脳、肺、お腹、肋骨、肝臓、骨盤等すべて傷ついていて、かなりひどい箇所もあり、いま、命が危険な状態です。この後こちらで処置をした後、手術室に移動して手術をします。」

父の状況はひどいのに、不思議と安心感を感じたK先生の説明。「お父さん、このまま死んじゃうんですか?」と半泣きで聞くと、ひとこと、「がんばります。」と言って、ERに戻って行かれる。
看護師さんも何度か来て、このまま娘さん1人だと無理だと思います。他にご家族呼べませんか?と聞かれるも、誰もいない。母も、妹も、来ない。父の職場のHさんから電話があり、病院、行こうか?と言われ、県外で2時間弱はかかるので申し訳ないと思いながらも、お願いする。父と20年近く絶縁状況のおじさん(父の兄弟)にもダメ元でお店に電話してみたら、また夜、連絡する、という返事をもらえた。1人じゃなくなるかもしれない。

控室で祈っていると、輸血を運んでくださる方が走ってやってくる。ERから看護師さんが出てきて、血液型やロット番号をお互い確認し合い、その血液をERに運んでいく。いくつもいくつも番号を確認していたので、すごい量の輸血がされていくんだ、お父さんは、すごい出血してるんだ。と思いながら、献血してくださる方たちや、医療従事者の方たちの存在に胸を打たれる。自分の人生に、起こるはずないと思っていたことが、目の前でどんどん起こり、繰り広げられていく。自分の人生が、宙に浮いて、現実のものと思えなくなってくる。

するとK先生がまた来て、
「血圧が保てなくなり、かなり危険な状態です。手術室に移動するまで待てないので、このままここで手術します。」
と言い、戻っていく。
泣いて、泣いて、1人で泣いて、祈ることしかできなくて、「お父さん、がんばれ」と何度も唱える。お父さん、死んじゃったらどうしよう。廊下を挟んで向かい側のERからは病院の機械音たちが鳴り響く。

気づくと若いお母さんと小さい男の子が廊下の先にいる。男の子がケガをしたのかな?お母さんかな?処置が終わった後なのか、2人ともけっこう元気そう。元気そうでなにより。本当に、よかったね。

しばらくしてから看護師さんがまた来て、
「これから手術室に移動できそうです。移動の時、一瞬だけ、お父さんに会えますが、姿を見ますか?ただ、見えないようにはなっていますが、お腹を開けたままなので、それでも大丈夫ですか?」
迷走神経反射で失神しやすいことを伝え、私が倒れないように看護師さんに体を支えてもらう。ベッドに寝てる父がERから出てくる。
最後に父に会ったのはいつだったんだろう?思い出せないくらい前で、しかもその時も、父と話すのって決して楽しいものじゃないなって、嫌々だった気もする。
私の目の前で少しベッドを止めてくださり、お父さんのおでこを触ると、ひんやり冷たい。でも、まだ、生きてる。
父が私の前から遠ざかってしまった後、
恥を捨てて、
「お父さん、がんばれ!お父さん、がんばれ!」と大声で叫び、その場で泣き崩れる。

すると廊下の先にいた男の子も、「がんばれー!」と真似して叫んでくれる。
お母さんに、コラ!と言われていた姿が、泣き笑いにされてくれた。

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