波野發作『十三日間日本一周(上)』クロスレビュー

S評出品作:波野發作『十三日間日本一周(上)

評価 椋:可 持田:良 高橋:× 東郷:△ 高瀬:△ 


椋 康雄 評価=可

今回読んだなかで一番「はやい」と思ったのは『十三日間世界一周』でした。16 ビートなのか32 ビートなのか。「ロードムービー」という言葉あるけど紀行文ではない「ロード随筆」というのはありそうでない気がします。といってブログにはたくさんありそうでもあり。今回自分の世界と一番違う作品だと感じました。


持田 泰 評価=良

「ルーザーのドライブ」はヴェンダース『パリ、テキサス』好きな僕も別途で書いてみたいスタイルで、ドライブは「巡礼」にも似て、その自己観照から不意にわきあがる嫌悪や激昂や哀惜や無力感などの様々な心理が風景と一緒に流れ去り、内省と外景、追憶と速度の交差こそが「ロードムービー」一つの型であろう。ただその意味での真摯さを作者に求めるのは酷であり、作者はおそらくは気質として絶望ができない。がために、明日には明日の風が吹くというお気楽さがある。彼はつまり元気なのである。最初から巫山戯ているし作品に小細工をいろいろ仕掛けている。そこが作者の強かな気風ではあろう。彼は「駄目だもう死んじまおう」なんて「死んでも」思うまい。だから彼が辿る日本の地方郊外の風景に頽廃を託すこともなく学生気分のお気楽な珍道中になる。「人々の景色など何も見えない。人々の暮らしも何も見えない。俺の人生もよく見えない」通りに三段落ちで巫山戯てしまいたがる精神の視界には「観光」が広がるのである。その状態を僕は「良し」とした。文章全体は短文を基調に読みやすい。ただ構成全体は小手先に逃げており、またときにダンディな表現を気取りながら嘘を節々でこいている。全体事実はあるがセンチメンタルに告白をそらしていて、この作の本筋は「リストラされ離婚されて都落ちする中年男がシンナー中毒のメンヘラ女に中古車で会いに行く旅」であり、見出された「幻滅」の底にある、本当のところの真摯な哀しみは、たまに浸る感傷的な「自由の主張」で誤魔化すことで、作者自身が言い淀んでいる。ただし、それは作者の優しさでもある。彼は何事も誰のせいにもしないと決めているかのようだ。カズオイシグロ「日の名残り」を葉山嘉樹「淫売婦」で脊中から刺したような激痛を伴うようなものになる可能性もあるが、ただしそんな作品は氏は書くまいし、書く気もないだろう。であれば徹底的に巫山戯きる方向へ舵を切ってもらいたい。本作を良としたのは小細工は僕の嫌悪するところでありながら、今回の参加作の中で「女」を描き「肉親」を描いてちゃんと「人の居る」作品と思えた。息子で簡単に泣いた。もっとも本当に書くべきところは「別れた妻」かもしれない。


高橋 文樹 評価=× 

長すぎる。回想が多いため、ロードムービー形式というダイナミックな格好を生かしきれていない。下巻でこの主人公はスカイマークに乗って東京に帰ってくるのでは、とさえ思わされる。


東郷 正永 評価=△

唯一、本人にお会いしてから後に読んだ作品でしたが、これはご本人の雰囲気とは少し違う、意外というか、「あっ」といいたくなるような内面をえぐる感じがあって、読むことがエキサイティングな体験になりました。それと、作品内のスケールに使っている「現在時刻」が、時々空白があることによって想像をかき立てられます。。ビュトールの「時間割」って小説を思い出しました。これ、いいですね。どっかでパクリますね(笑)。ただし、文章自体が多少こなれてないところが見受けられます。ほんのちょっと見直すだけで、誤字も含めて随分よくなるはずです。これは自分もあるかもしれませんが。


高瀬 拓史 評価=△ 

旅は瞑想に似ている。旅行と回想が交互に切り替わる心憎い手法がぎこちなく、読者を疲弊させる点を評価。オグとの互いを気遣う微妙な距離感が優しい=嘘くさいので減点。

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