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選択は運命を変えるが、運命は選択に縛られない『The Cosmic Wheel Sisterhood』

ビデオゲームの特徴のひとつは、プレイヤーが選択をできることです。ゆえに選択で運命が変わるゲーム作品というのは多く、人の心を掴みます。

スペインのインディーデベロッパー「Deconstructeam」が開発した『The Cosmic Wheel Sisterhood』もそんなゲームです。本作は、タロット占いで運命を決めてしまう魔女の物語となっています。

◆選択と結果のストレートな繋がりを「魔女」「占い」というファンタジーで包む

ただし、選択によって運命が変化するゲームというのは描写が難しいものです。たとえば『ヘッドライナー:ノヴィニュース』という作品では、主人公がどういう新聞記事を書くかによって社会が大きく変化するというシステムが用意されていました。

よく考えてみてください。新聞記事はたしかに社会に影響を与えますが、はたして一記事がすべての運命を決めてしまうと思えますか? そんな流されやすいバカばかりではないですし、仮にバカだとしてもマスコミに反発することはできるわけです。

選択によって結果が変わるというのはビデオゲームにとって重要な要素ではあるものの、残念ながら世の中はそう単純ではありません。

『The Cosmic Wheel Sisterhood』

『TheCosmic Wheel Sisterhood』はタロット占いによって出来事の結果が変化します。本作では魔女が特別な力を用いて占うというファンタジー要素が存在するため、一見するとこの「選択と結果がストレートに結ばれすぎている問題」を解決できているように思えました。

ゆえに僕はこのゲームを遊んだのですが、しかしファンタジーで誤魔化しても新しい問題が出てくるとわかりました。結局のところ、選択と結果のゲームにはメタ的な視点が出てきてしまうというものです。

◆選ばせるのは開発者であり、選ぶのはプレイヤー

『The Cosmic Wheel Sisterhood』

なぜシャッフルしたカードから運命を選ばなければならないのか? カードに仕込みをすれば任意のものが選べるのではないか? 引き直してはいけないのか? 

それはタロット占いだからです。とファンタジー設定でなんとでも言えますが、次の問題は深刻です。

ではその占いのルールを決めたのは? カードの効果は誰が決めるのか? 本作はカードを作る要素はあるが、それを選ぶ決定権は誰にあるのか?

この答えはプレイヤーでありゲーム開発者としか言いようがありません。主人公が破滅するような選択肢を選べるのはプレイヤーが決めるからであり、タロットカードの効果は開発者が決めたからそうなっているとしか言えません。

たとえば、主人公にはふたりの親友がいます。この関係性を引き裂くことは容易ですが、主人公はそんなことをしたくないはず。でも、プレイヤーだから容易に選択できてしまう。

あるいは、悪魔的な存在との契約のためにとんでもないものを捧げることができてしまいます。主人公は到底そんなことはしたくないはず。ですが、制作者がそういう選択肢を用意しているから選択できるのです。

結局のところビデオゲームは有限であり、選択と結果は開発者が作ったものしか存在しませんし、プレイヤーが選んだものに決定されるのです。選択による結末の変化というのはこういうメタ視点と切り離せないものなのですが、『The Cosmic Wheel Sisterhood』はこれをファンタジーだからと徹底的に無視します。

◆選択と結果のゲームではなく、占いのゲームである

「Fallout」シリーズのようなベセスダのオープンワールドRPGにおいては、プレイヤーが主人公になりきるという視点の落とし込みが行われています。キャラクターを自分で作るので、ゲーム内のキャラクターとしての視点にならざるを得ないわけですね。

『The Cosmic Wheel Sisterhood』

一方、『The Cosmic Wheel Sisterhood』の場合はそういう視点の落とし込みがありません。主人公のフォルトゥーナはあくまでフォルトゥーナです。するとどうなるか。キャラクターがキャラクターすぎるように見えてきてしまいます。

『Undertale』は一部のキャラクターにメタ的な視点を与えました。これにより、キャラクターは(プレイヤーの意図とは異なる形で)それぞれの意志で動いていると描写したのです。

これは劇薬ではあるものの、重要なことです。キャラクターが生きているかのように感じさせる描写にもなるからです。逆にいえば、メタ的な視点になりうるゲームにおいてキャラクターが外の世界を認知しないということは、キャラクターがしょせん作り物でしかないという認識をされてしまう可能性があります。

本作の主人公はタロット占いで運命を決めているような素振りをしますが、実際はプレイヤーが決めています。そう、プレイヤーは主人公を越えた上位存在なのです。宇宙の外の世界があるのに、キャラクターは誰も(それこそ人間を超越した存在ですら)気づきません。

プレイヤーが主人公にとても共感・同調できれば、この点は気にならないかもしれません。しかしそうでなければ、この世界は極めて作られたものに見えてしまいます。彼女たちは単なる傀儡であり、本当に選択しているのはプレイヤーなのですから。

『The Cosmic Wheel Sisterhood』

結局のところ、本作における選択は世界の命運を決めるというより、(運と独自解釈が混ざった曖昧なものという意味で)占いなのでしょう。タロット占いが好きな人はそのルール設定に疑問を抱かないと思いますが、そうでない人は運命がタロットカードに縛られることが疑問に見えてしまいます。

『The Cosmic Wheel Sisterhood』はグラフィックもサウンドもよくできています。フェミニズム、占い、シスターフッドといった要素に惹かれる人にとってはいいゲームとなりうるでしょう。

ただ、選択と結末を楽しむゲームとしてはあまりにも弱く、内向きな作品でもあるのです。


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