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420人質外交に屈する

アメリカ政府から起訴されていた中国通信大手華為技術(ファーウェイ)の副会長兼最高財務責任者である孟(もう)晩(ばん)舟(しゅう)被告が、2021年9月24日中国政府差し回しの専用機で凱旋帰国した。人質外交による忌まわしい前例になるだろう。アメリカの裁判所による正しい裁きが下されるはずという見方は裏切られた。
アメリカは民主主義の代表を任ずる法治の国。専制主義の牙城、人治で知られる中国とは法に関する価値観がほぼ真逆。人権、民主主義の価値が至上であり、自国民を人質とした卑怯な要求にも断固応じないのが、アメリカという国の強さのはずだったのだが。
孟晩舟被告が逮捕されたのはカナダ国内。アメリカは法に基づき身柄引き渡しを求めていた。中国はアメリカではなく、カナダを脅すことにした。カナダ人二人を拘束して人質とし、孟晩舟との交換を持ちかけたのだ。カナダ人に国家機密法違反の容疑をかけているが、それは後付け。狙いをつけた者を拘束し、拷問で犯罪自白をでっち上げるのがソ連以来の共産党の伝統である。一方のアメリカの刑事裁判は厳格な有罪立証を要する。孟晩舟被告の身柄引き渡しの後、裁判が始まる。しかも三審制だから、判決確定までには何年かかるかわからない。カナダ人人質はすでに3年も拘束され、今後も何年続くか分からない。カナダ政府が中国の脅しに屈してしまった。これが結末だが、既視感がある。
2010年に尖閣沖で日本の巡視船に体当たり攻撃した中国の改造漁船員を海上保安官が逮捕した。その直後に中国政府がしたのは謝罪ではなく、開き直って日本人駐在社員のでっち上げ逮捕(民主主義国の方概念では)。しかるに当時の民主党の管(かん)政権は、怒るのではなく、中国政府の顔色を伺い、船長を釈放。専用機で中国に凱旋帰国させ、共産党政権下での英雄になるお膳立てをした。これには落ちがあり、管(かん)政権は「不起訴は現地検察官の独走」として責任をなすりつけ、証拠となる衝突のビデオテープを日本国民の眼から隠そうとした。そして国民としての倫理観からビデオを公開した保安官を懲戒解雇したのだ。中国が人質外交の有効性を習得したのは疑いない。民主主義国側では使えない手段であり、使用は一方的でしかも効果抜群であると。
全体主義を特色づけるのは、「単一政党」「支配的イデオロギー」「テロ実行さえ辞さない公安警察」「情報の国家独占」「国営企業や計画経済などの独占経済」である。ボルシェビキ、ナチス、ファシスト、そして中国共産党に完全に共通する。幸いなことに前三者のボルシェビキ、ナチス、ファシストはすでに打倒されている。残る中国共産党をどうするかが世界人類の共通課題なのだ。全体主義、専制主義は、その路線の左右を問わず、人類に悲劇をもたらすというのが国際的な理解だ。例えば欧州議会は、独ソが不可侵条約を結んだ(1939年)8月23日を「スターリニズムとナチズムによる犠牲者を追悼する欧州の日」と定めて、追悼儀式を行っている。悪の芽を摘むのを先送りすればするほど、必然的に起きる災厄の規模は比例して大きくなる。理不尽に生命、財産を奪われる悲劇を繰り返さないよう心を強くしなければならない。

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