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573犬が去ってブタが来た 台湾人の戦後感

 黄文雄さんの『世界を変えた日本と台湾の絆』を読む。黄さんは1938(昭和13)年生まれの台湾人。ウィキペディアでは「黄文雄 (評論家)」として載っている。たいへんな数の著作があるようだが、不勉強でほとんど読んだことがなかった。
 ウィキペディアには「黄文雄 (政治家)」も載っていた。ただし、こちらの方は陳水扁政権のもとで政策顧問も務めた政治家。「日本在住の評論家黄文雄と生年・政治的な主張が似ており、しかも双方とも台湾独立建国連盟の関係者であるため、混同されることも多いが、全くの別人である」と紹介されている。その混同していた一人がボクでした。

 作家・評論家の黄さんに戻ろう。ウィキペディア「黄文雄 (評論家)」によると、台湾のみならず、韓国・朝鮮もまた日本による統治が近代化へのステップであったとしている。また満州は中国ではなく、独立国であるという説を唱えている。また、漢民族の衰退について、原因を「儒教の猛毒性」に求め、さらに、中国人の民族性は中華思想に基づく人種差別であり、自己中心的と批判している。一方、韓国人の民族性は「事大主義と従属国根性が染みついた」と批判している。また、香港を潰した中国が危険な賭けに出る可能性があり、台湾の次は沖縄を狙っていると警告している。
 ロシアのプーチンがウクライナへの侵略戦争を始めたことで、黄さんのような見解を述べる日本人も増えてきたが、それまではロシアや中国のような専制主義政権による侵攻の危険性を指摘すると「シーッ」と発言を封じられ、あたりを見回すようなふりをされることが多かった。

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 黄さんが『世界を変えた日本と台湾の絆』の中で述べていることをいくつか紹介しよう。
 大陸の共産党政権は台湾が歴史的に中国の一部と言っているが、史実を無視した妄言であり、歴史を改竄する冒とく行為である。そもそも台湾に住み着いていた人々は、大陸の漢人とは別人種。DNAでさかのぼれば、日本列島、台湾、ボルネオあたりまでは縄文人で括れるのだという。つまり大陸の漢人と人種面で同じといえるのは、国共内戦に敗れて逃げ込んできた蒋介石の一派のみ。彼ら外省人は大陸漢人と同族といえるが、台湾での人口構成では1割以下である。
 ということで台湾人のほとんどは、大陸の漢人を自分たちと同じ民族とは思っていない。明治7年の台湾出兵でそのことが明らかになった。この事件の発端は嵐で漂着した沖縄の船員54人が現地人に殺害されたことだが、現地人は船員を大陸の漢人がやってきたと誤解しての蛮行だったのだ。それほど漢人を憎んでいた。一方の日本である。自国民が殺害されてだまっている政府はない。維新直後時点での日中両国の力関係はネズミと獅子ほどの差があった。それでも勇気を奮って清国政府に掛け合ったところ、「化外の地であるから関知しない。自分で解決すれば」と突き放された。ならば自力救済するとして討伐軍を派遣した。このいきさつはよく知られている。
 この際に清国から50万両の撫恤(ぶじゅつ)銀が支払われている。その性格について清国の新聞が「日本軍は引上げて台湾領有を主張しなかった。これによって清国は、それまで実効支配できていなかった台湾の領有権を世界に向けて主張しやすくなった。日本は討伐で300~400万両を使っていながら、たったの50万両で手を打った。われわれ清帝国は安いカネで大きな外交勝利を得た」と分析している(1874年11月10日「申報」新聞)。
 ではそれまでの領有がどうなっていたか。清の前の明帝国がいわゆる倭寇に手を焼いて弱体化したのは知られている。その倭寇の根拠地の一つが台湾。つまり大陸の実効支配や警察権は及んでいなかった。明が滅んで大陸は清帝国の支配になる。台湾では、豊臣秀吉の外交政略に沿って進出してきた日本人、明の遺臣と称する鄭成功一派、アジア侵略にはるばるやってきたオランダ人やスペイン人が、それぞれ根拠地を築いていたが、支配地区はごく一部の海岸部分で台湾を領土であると宣言できるものではなかった。

 歴史や民族のほかに、台湾が大陸の政権とは相いれない理由を黄さんは、この本で日中を対比して、次のように指摘している。
大陸の漢人政権は「森羅万象、万物、万人のすべてにおいて、「天下は一つに帰する」と考える。そこから「革新利益」として台湾統一などの妄言が生まれる。こうした性癖は毛沢東も蒋介石も基本的に同じ。「大陸反攻」といった非現実なスローガンもこうして生まれる。中華世界では「他人のためにする」ということはまったくない。反省や自己批判は相手にさせるもので、自分がすれば、相手に弱みを握られて人生が終わるというのが、中華の掟である。だから絶対に謝らない。
これと対極にあるのが日本人の性格。ボクなりに整理すれば、律儀で人をだまさない。正直を美徳とし、謙虚で自己主張を控える。悪かったと思う場合は当然、そうでなくても相手を気遣って謝罪することがある。ルールに厳格で、監視する者がいなくても「お天道様が見ている」として狼藉をしない。困っている仲間がいれば同情し、手助けする。独裁を憎み、衆議を重んじ、和をもって決する。ただしこれらのモラルが近頃は緩んでいると指摘する声もある。

 黄さんの分析では、民族的なことなどもあり、台湾の人はもともと日本人と性癖が近い。それは日本統治時代に本格的に目覚めた。そうであるがゆえに、日本人が去り、蒋介石の一派がやってきたときに「犬(日本)が去ってブタ(漢人)がやってきた」と嘆いたのだ。
 黄さんは台湾が独立国の資格を備えているとする。これはまったく正当な意見だと思う。中億共産党が撒き散らすプロパガンダや抱き込んだ評論家などに言わせている陰謀論に踊らされずに、住民の声に真摯に耳を傾ければ、台湾のあるべき姿は明らかだ。
 プーチンは「ウクライナ東部の分離独立」を唱え、習近平は「台湾への侵攻統一」を主張する。しかしそこに住む住民の真意を確認するという民主主義的解決が図られるならば、彼らの思惑とは真逆で、前者ではウクライナへの残留、後者では台湾は独立国となるはずだ。

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