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710某国にはうかつに出かけないように 人質外交とはこういうものだ

 アメリカのプロバスケット選手であるブリトニー・グライナーさんがようやく解放された。ただし無罪放免などではない。アメリカで賦役中のロシア人武器商人との交換であった。
 アメリカのバイデン大統領は早速「我々は長い間、この日を目指して努力してきた。綿密で激しい交渉だった」と記者会見で述べている。グライナー選手は今年の2月17日、モスクワ空港の入国審査で違法薬物を隠し持っていたとして逮捕され、懲役9年の判決を受けて収監されていた。これに対してアメリカの政府・国民はでっち上げの違法逮捕と猛反発していた。
 交換で釈放されたロシア人はビクトル・ボウト氏。死の商人として国防、治安、裏社会では超著名人とのこと。民主主義社会を壊そうとするテロ組織に武器を売りさばいており、アメリカが長年証拠を集め、ようやく逮捕起訴に持ち込み、2012年に25年の禁固刑が確定していた。
 この二人の交換は常識人の判断基準では釣り合いが取れない。スポーツ選手が自己使用する電子たばこのカートリッジに微量の大麻があったということだが、これが羽田空港だったら、入国禁止でお引き取り願う程度だっただろう。ロシアは最初からボウト奪還の交換要員として著名人をねらっていたと考えれば合点が行く。交換要員としての彼女よく目立つからうってつけ。身長2メートルを超える大女というだけでなく、黒人であることから「アメリカ市民の人権を守る」という世論に乗せやすい側面もある。
 ロシアの国営メディアはボウト氏釈放を大々的に報道している。「ロシア外交の大勝利である」と。ロシア政府の筋書きを自白しているようなものだ。国際的犯罪者をロシアの英雄というのだから
 ロシアが交換要員を確保したのが2月中旬。それから釈放まで9か月も交渉が長引いた一因は、間違いなく逮捕直後のプーチンによるウクライナ侵攻だろう。ロシアの人質担当部局もプーチンの開戦を事前に知らされていなかったということだろう。そんな状況でアメリカがおいそれと不釣り合いな交換交渉に応じるはずがない。
 
 中国の人質外交を語るのは日中青年交流協会の鈴木英司元理事長。読売新聞(12月10日)紙上でいきさつを語っている。在日中国大使館幹部だった人物から「中朝関係の情報」を聞き出したことがスパイ防止法違反になるとして2016年に逮捕されて有罪判決。刑期を終えて今年10月に帰国した。
鈴木さんは会食の中で北朝鮮問題があったというだけで機密情報のはずがないと語っている。「日中友好に尽くす人々が拘束されるのおかしい。私の服役も腹立たしい」と語っているが、日中友好についての彼我の認識が違うと考えるべきだろう。
中国共産党の認識では、彼らのために一方的に貢献するのが友好的態度。有効団体が相互の対等性を主張するなど身の程知らずと考える。中国史を貫く中華思想、朝貢外交を勉強していれば、日中友好をかざすほど不当拘束されるリスクは高まる。
鈴木さんを拘束したのにはさまざまな思惑があったはずだ。その一つに日本で逮捕された本物の中国スパイとの交換要員としての役割があっただろう。ただ日本政府が中国スパイの摘発をしないので、交換要員としての役割が回ってこなかった。それで刑期満了まで拘束が続いた。そいう見方もできる。

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