見出し画像

闘う気満々なウクライナ愛国者

目立ってはいませんが、タイでもウクライナ情勢の報道が散見されます。

そのほとんどは、AP通信やCNN、BBCなどの外国報道機関から記事の提供を受けて、報道されています。それゆえ、欧米系の主張が反映されやすい…。だから、このような勇ましい記事がタイでも報道されているのでしょう。

ウクライナのキエフに住む52歳の女性が、狙撃中を構えて「ロシア兵がこの街に侵攻してきたら、躊躇せずに撃つ」と話している記事。元記事は英国の有力メディア、Metro.co.uk からです。

このウクライナ人女性、マリアナさんには3人の子どもがいます。

そのマリアナさんが抱えている狙撃銃。1,300ユーロ(約17万円)で購入し、政府が開催した2週間の射撃訓練も受けたそうです。いや狙撃銃だけではなく、防弾ヘルメット、多数の銃弾、野戦用ブーツなども準備したのだとか。もちろん、食糧などもすでに備蓄を済ませており、長期戦になっても耐えられる。というのです。

一部のタイ人が好む、「愛国者」。自国領土を、他国にはぜったいに奪わせないという、強い意志がそこに感じられます。

すでにロシア軍は、ウクライナ国境に10万人を超える兵力を終結させているそうです。

ウクライナには、ロシアが2014年に侵攻し、武力によって奪取されたクリミア半島の苦い経験があります。クリミア半島地域では、親ロシア系の人たちが多数派で、ロシアは「彼らを迫害から守る」という理由でクリミア半島に進軍しました。今回も、ウクライナ東部の一部地域(ドンバス地方)では、ウクライナから分離独立し、ロシアとの連携を強化したいとする親ロシア派が少なくありません。そのためここ数年かけて、ロシアがこの独立分離派を極秘裏に支援し、独立運動を活発化させてウクライナからの分断を画策してきた、と言われています。これはクリミア半島でロシアが実行した手段と重なります。

「正当防衛」という言葉があります。

相手が先手を打って攻撃してきたら、自衛のため反撃することも止むを得ない、という考えです。私自身、この考えは好きではありませんが、容認せざるを得ない、という気持ちでいます。そして状況によっては、私自身も自ら武器を取って自衛行動を取るかも知れません。

でも、「正当防衛」に至るまでに、対立を緩和するさまざまな機会があったはず。

2014年のクリミア半島併合以降、ロシアは西側諸国との関係を強めるウクライナに対し、着々と領土分断を図る次の一手を練ってきた形跡があります。一方で西側諸国は、ウクライナのEU加盟、NATO加盟に向けた働きかけを継続し、ロシアへの圧力を強めていました。ウクライナのNATO加盟は、ロシアが徹底的に反発すると知っていながら、西側はロシアを刺激し続けたのです。ロシアから見れば、これは許容できないことだったでしょう。

西側諸国は、主張します。「ウクライナのEU加盟やNATO加盟は、ウクライナ自身が決めることだ」と。

それは、その通りでしょう。しかし、これまでの歴史上の経緯を無視して、いきなり「本来は…」とか、「…する権利を有する」と正論を主張することは、それなりにバランスを崩す危険が伴います。軌道を修正するにしても、いきなり急転回したならば、船や車は横転するものです。

できれば、ロシア軍が国境に集結する前に、今のような真剣な外交交渉が行われるべきだった…。

今更こう指摘しても遅すぎますが、少なくても、マリアナさんが狙撃銃を使わずに済むことを、切に希望しています。国を愛することは立派だと思いますが、じゃあ、愛の対象となる国っていったい、何でしょうか。国って、領土のこと? 国民のこと? 政治制度のこと?

相手国の主張に耳を傾けるのなら、お前はもはや愛国者ではない…。

「愛国」を大切にすることが、このようなヘイト的な考えを生み出すのなら、「愛国」はとても残念です。そうではなく、「愛国」が他者への寛容、理解につながっていけるように思想的な発展をしていくことを、私は切に望みます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?