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詩歌ビオトープ030:近藤芳美

詩歌ビオトープ30人目は近藤芳美です。

そもそも詩歌ビオトープとは?
詩歌ビオトープは、詩の世界を一つの生態系ととらえ、詩人や歌人、俳人を傾向別に分類して、誰と誰が近い、この人が好きならこの人も好きかもしれないね、みたいなのを見て楽しもう、という企画です。ちなみに、傾向の分類は僕の主観です。あしからず。

この人は1913年、朝鮮馬山浦で生まれました。12歳で帰国し、広島県に住んでいたそうです。高校生の頃短歌に興味を持ち、広島で療養していた中村憲吉を訪ねたことがきっかけでアララギに入会、中村と土屋文明に師事しました。

大学卒業後は建設会社に入り、設計技師として働く傍らアララギの活動もしていたそうです。

終戦後の1947年には加藤克巳、宮柊二らと「新歌人集団」を結成、同年に評論「新しき短歌の規定」を発表して大きな話題となりました。この評論の中で彼は生活の実感に基づいたリアリズムを重視するべきだ、と主張したようで、このことでアララギ内部から政治的だ、という批判を受けるようになります。

そうして1948年には第一歌集「早春歌」と第二歌集「埃吹く街」を上梓、戦後派歌人の旗手として注目されます。

1951年にはアララギ系短歌結社として「未来」を結成。岡井隆や河野愛子らも参加したほか、道浦母都子や石田比呂志ら多くの社会派歌人を育成しました。「未来」は今でも歌壇の一大派閥といえるのでしょうね。「塔」とどちらが大きいのだろう。

また、新聞短歌欄の選者としても知られ、朝日新聞の朝日歌壇では1955年から2005年まで50年にわたって選者をつとめました。

ということで、今回も小学館の昭和文学全集35を元本に読んでいきます。

本書には「早春歌」から64首、「埃吹く街」から104首、1968年刊行の「黒豹」から3首の合計171首が収められていました。

で、僕の分類ではxが17、yが5で「音楽的かつ自然主義的」な人になりました。

読んで思ったのは、アララギっぽいというよりも、石川啄木に似た感性の人だなあ、ということです。その意味では、土岐善麿にも似てるのかもしれない。そのあたりは、「未来」の結成につながってゆくのでしょうね。

たとえば、この歌

寂しき時は停車場にひとり来て雑踏に吾がまぎれたりしか

で、特に「早春歌」は、奥さんとの恋人時代の歌が多くて、ちょっとこの歌がすごいと思いました。

近々とまなこ閉ぢ居し汝の顔何の光に明るかりしか

これはきっと、キスする瞬間ですよね。ドキッとしました。実はもっとドキッとした歌もあったんですけど、それはここには上げないでおきます。

で、特徴的だなと思ったのは、この人の歌って根本に人間があるんですよね。写実的な歌でも、それはいつも誰かのポートレイトなんです。自然をただ自然として詠ったものがほとんどない。

夕ぐれは埃の如く立つ霧に駅より駅に歩む労働者

枯草の夕日に立てり子を産まぬ体の線の何かさびしく

で、一番好きだと思ったのはこの歌です。

漠然と恐怖の彼方にあるものを或いは素直に未来とも言ふ

もしかしたらこの歌が結社の名の由来になったのでしょうか。「或いは素直に」という表現に、何というか、この人らしい知性が表現されているような気がします。その態度が、ときに片方からは「政治的だ」と言われ、もう片方からは「傍観者だ」と言われるのでしょうね。

ということで、31人目に続く。

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