胡蝶
一
森の奥には国があり
其処には人の住む場所ありき
人の住む場の何処には
誰にも知られぬ森ありき
森の中を彷徨ひし者
怪しき胡蝶の羽根を見つけむ
汝の願ひを叶へ給ふ
我に叶へられしことあらば
森彷徨ひし若き騎士
一羽の蝶を見つけたり
羽根黄金色に輝きし
妖しき蝶は囁けり
汝の望み叶へ給ふ
我に叶へられしことあらば
騎士笑み浮かべ答へたり
ならば我、力を求めむ
蝶答ふ、汝に力
与へるは適わざれども
汝に意志を与へ給ふ
其は蛹、其は蕾なり
身の程超へし力を持たば
其方の身滅ぼさむ
身の程超へし力を持たば
其方の身滅ぼさむ
二
王となりし騎士、姫を恋ふ
隣の国の王女なり
姫、微笑みて答えたり
「其の力、我に示せよ」
王、隣国を焼き尽くし
己の力を示したり
王、屍を踏みしめて
愛する姫を抱き寄せり
王に抱かれし姫の前
青き光が輝けり
其の羽根の粉を振りながら
妖しき蝶は囁けり
汝の願ひを叶へ給ふ
我に叶へられしことあらば
姫、笑み浮かべ答えたり
ならば我、永遠を求めむ
蝶答ふ、永遠を
与へるは適わざれども
汝に御子を与へ給ふ
其は蛹、其は蕾なり
ただし正しく導かねば
其方の身滅ぼさむ
ただし正しく導かねば
其方の身滅ぼさむ
三
二人の王子生まれたり
王、死の間際子に告げたり
兄は父の国を治め
弟は母の国を治めよと
忘るるな、王は告げたり
守るべきものは国なり
国を守るは力なり
力は得たり、永遠を
弟、母の国を彷徨ひ
たどり着きしは森の中
黒き蝶を見つけたり
妖しき哉、蝶は告げたり
汝の願ひを叶へ給ふ
我に叶へられしことあらば
弟、鋭く答へたり
我は兄の国を求めむ
蝶答ふ、汝に国を
与へるは適わざれども
汝に力を与へ給ふ
其は蛹、其は蕾なり
ただし意志を持たざれば
其方の身滅ぼさむ
ただし意志を持たざれば
其方の身滅ぼさむ
四
弟は兄の国へと攻め入りたり
兵どもを従えて
兄、ただ為す術なきままに
弟の兵に征服さる
勝鬨上げし弟の前
妖しき蝶が舞ひ降りたり
蝶は問ひたり、汝の望みは何ぞ
弟、答へたり、永遠と
蝶、答へたり、其は適わじ
自然の摂理に反する故に
弟は剣振り降し
蝶を二つに切り落としたり
我が王なり、摂理なり
我が蝶なり、大輪の
此の世に咲きし花なりと
弟の世は束の間のこと
下剋上を知らぬ者なし
彼の国、王を追ひ払ひ
今やどこにもあらざりき
其には今も森が在り
怪しき胡蝶が舞ふと云ふ
汝の願ひを叶へ給ふ
我に叶へられしことあらば
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