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日本語でソネットを書くということ その3 ソネットはなぜイギリスで変化したか

さて、イタリアからイギリスに輸入されたソネットは、ミルトンやシェイクスピア、スペンサーらによって、新たな押韻構成で読まれることになりました。

では、そもそもなぜ、イギリスで押韻構成の変更が試みられたのでしょうか。

その答えは、英語とイタリア語は違うからです。当たり前の話ですが。

英語は母音が5つなのですが、イタリア語は母音が7つあります。なので、英語よりもイタリア語の方が韻を踏めるバリエーションが豊富なのですね。で、イタリア風ソネットのように押韻のパターンがabcdの4つないしabcdeの5つしかないのは英語では厳しい、というので、イギリスではabcdefgの7つまでパターンが増やされた、というわけです。

さらに、シェイクスピアは弱強五歩格というリズムを取り入れています。シェイクスピアは、演劇の脚本もすべて弱強五歩格なのだとか。日本でいうならば、脚本がすべて七五調になっているようなものでしょうか。

ちなみに、フランスはフランスで、ヨーロッパに昔から伝わるアレクサンドロス・ロマンスに端を発するアレクサンドランという調べでソネットを詠むことが多いそうです。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/アレクサンドラン

フランス語とイタリア語は英語とイタリア語ほどの違いはないのでしょうが、それでもやっぱり、自国風にアレンジはしてるのですね。

つまり、もしもその起源であるイタリア風ソネットこそが本物だというのなら、ミルトンやシェイクスピアをはじめとしたイギリスのソネットだって多くは偽物でしょう。

歴史的に見ると、イギリス人は本来のソネットから韻のパターンを増やし、調子を変え、さらに構成まで変えているわけですからね。これはなかなかやりたい放題やってくれてるとも言えなくはないですよ。僕がイタリア人なら「シェイクスピア風ソネットなどはソネットにあらず!」って言いますけどね。

でも、もちろん、実際は別にイギリス人は何も悪いことはしていないのです。当たり前のことをしているだけです。問題はイギリス人が何を変えたのではなく、何を残したか、ということでしょう。

そもそも、なぜソネットがイタリアやイギリスで流行ったのかを考えてみましょう。それは恐らく、ソネットが短かったからです。(僕ら日本人には短歌や俳句というもっと短い詩があるので、ソネットが短いといわれてもピンとこないのですが)

詩といえばオデュッセイアやイーリアスを頂点とする長編叙事詩が当たり前だと思われていたところに、それと同じような定型だけど、たった14行で終わるソネットなるものが現れたから、みんな「おもしれー!」となった。

つまり、ソネットという詩型の魅力というのは

A)14行という短さ
B)その言語に適した定型
C)前半と後半における物語の展開

にある、といえます。だから、押韻のパターンが4つでも7つでもどちらでもOKだし、8行目で展開しても12行目で展開してもいいし、10音節でも11音節でも12音節でもいい。問題はこの3つのポイントをおさえていることであって、別によその国の言語に合わせたルールに従うことはそれほど重要ではないわけです。

みんな定型詩というとBの部分にこだわるけれど、僕は実はBが要素の中では最もフレキシブルなんじゃないかと思います。

まあ、そういうわけで、それでは実際日本ではどのようなソネットが書かれてきたのでしょうか。

その話は、また次回。

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