通学路

 私の故郷は、昔から林業が盛んな町だった。私が一番心に残っている故郷の風景は、小学校の通学路である。家から子供の足でも10分そこそこの通学路には、わくわくする場所がたくさんあった。家を出るとすぐそこに、町で唯一の、町内の子供からお年寄りまで何かあれば大きな検査を受けられる病院があった。次に、古びた駅を通る。近くの高校の生徒が寄贈した木製ベンチが設定されていて、改札からは、春には桜の花びらがひらひらと舞っているホームが見えていた。その向かい側には郵便局があり、脇道からの狭くて急な坂道をとことこ降りて行くと、父の勤めていた製材所が現れる。父は工場の中にいたから、木造の工場の上の方に作られた窓に背伸びをして、私は父を探していた。道を挟んだ工場の向かいには高い石垣があり、その上には急な土手があった。そこには秋には彼岸花が見事に咲いて、その少し後には、土手に植えられていた栗の木から、実が道に落ちてくるのでよく拾って帰った。父の工場のそばには、同じような製材所が何軒もあって、今にもこちらに転がってきそうな大きな丸太が何本も積んであったり、独特の形をした加工後の木片がコロコロと落ちていた。そしていつも必ず、機械や、フォークリフトの作業音が響いていて、どこからか煙が上がっていた。工場を抜けると、最後に川沿いの広い道に出る。きれいな川は、夏は鮎釣りや川遊びの人でにぎやかだった。そして鉄橋がかかっていて、頭上を電車が走っていた。

 実家に帰ると、かつての通学路を散歩することがある。昔はあんなに長くて、ランドセルを背負って歩くのに精いっぱいだった道のりは、今ではとても短く感じる。だけそこは、今でもやっぱり木の香りと木を加工する機械音がしていて、私はこの先もずっと、何回でもこの場所に帰りたいと思う。

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