杉浦光夫『解析入門I・II』について

noteを巡回してたら次のような記事を見つけた。

うーん……まあ……うーん。いや、反論するほどの話ではないんだけどね。でも杉浦光夫、難しくないすか。

僕が学部生の頃、最初に読んだときには第2章の途中で挫折したよ。第3章がまた、なんにも予備知識ないと意味わからんのだ(わかってると神)。だからたいていの学生は第4章の積分にたどり着けんのではないか。

一部では杉浦本、『辞書』って呼ばれてるんだよなあ。たしかにまあ、数学の初等的に重要なところはほぼ網羅してる。代わりにどこが重要なのかのガイドがないので、教師に教えてもらいながら以外の方法でこれを勉強するのは、よっぽどじゃないと無理じゃないかね……

杉浦本雑感を軽く載せると次の通り。

1)第1章第3節までは神。素晴らしい。無駄なところはひとつもない。そっから先第8節までは、たしかに後々重要になるけど……みたいな微妙なトピックスが多い。とくに級数の収束判定、このタイミングでやるかな……みたいな。じゃあどのタイミングでやるんだよって言われるともにょるけど。あとlimsupとliminfをあんま重視してないよね、この本。

2)第2章はランダウ記号が初学者には壁になる。この点では微分は高木貞治の本の方が読みやすかった。

3)第3章については以前記事を書いた。

ここで言及した内容が書いてあるのが第3章で、そのために整級数展開とその複素微分についての一般論が必要なんだね。ここは循環論法なしで三角関数の理論を作るためには超重要なのだが、そのことを知らないとたぶんなんでこんなことするかわからなくてバグる。大きな挫折ポイントなので最初は飛ばしていいかも。

4)第4章は積分のかなり雑多な知識集。最初の方だけ読んで後は飛ばしても、そんなには問題ないかと。スティルチェス積分とか後で埋めればいいような話だと思うし。測度零について扱ってる話は、ルベーグの積分理論をさっさと勉強してしまった方がよい。

5)第5章、マニアックすぎんだろ! いや、確かにここの知識使ったことあるけどさ。でもマニアックすぎる。飛ばしていいと思う。

6)IIの方に移って、第6章。陰関数定理と逆関数定理の証明はちゃんと読むべきだと思うけど、後はまあ、さほど重要ではないと思う。

7)第7章は地獄。というか、変数変換公式はどう言いつくろおうと地獄でしかない。だが避けて通ると正規分布の密度関数すらまともに積分できないので、結論としてはいいからやれ。そして死ぬがよい。

8)第8章……ストークスの定理まとめって感じだよね。僕は畑違いなので使ったことほとんどないけど、物理の人には重要なのではないかな。知らんけど。

9)第9章。美しい複素解析の理論が展開される。うん、すごいと思う。19世紀数学の成果がこれでもかと詰まってる。……19世紀数学に興味のあるひとはどうぞ。僕は楽しかったよ?

以上が杉浦光夫レビューになります。結論としては第1章第3節まで読んで第2章を苦労しながら読んで第4章を途中までがんばって読んで第6章から第8章までを死にそうになりながら読むといいんじゃないかな。後はお好みで。一応、使えない知識はどこにもない。まったく無駄がない本なので、死ぬ気で真っ正面からチャレンジするというなら止めない。だがその先は地獄だぞ、とだけは言っておく。

以上、若いのへの忠告でした。

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