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父上を捜せ!

午前8:55くらいだったと思います。

洗濯機を回しつつ一階に掃除機をかけようとしていると、85歳の父上が「信金と郵便局に行ってくる」と言い残し、一人で出掛けて行きました。

掃除機をかけ洗濯物を干し終えて居間に戻ると、母上が「お父さんがまだ帰って来ない」と言うので、時計を確認すると9:50を回っていました。

信金と郵便局をハシゴしたとしても、さすがに1時間はかかり過ぎだろうと心配になり、様子を見に行くことに。

自転車に乗り、まずは郵便局へ向かいました。

と・こ・ろ・が。

通常9時から開いているはずの窓口の入口は閉まっていて、新型コロナの影響で10時〜15時までの時短営業との看板が置かれていたのです。

ATMは稼働していましたが人影はなく、この緊急事態宣言下に窓口の営業時間の確認を怠り、父上を一人で行かせてしまったことを激しく後悔しましたよ。

次に信金に向かいましたら、そちらは9時から開いていたようで、ATMの列の後ろに控えていた担当の方に、父上の背格好を説明し、それらしき人物が来なかったか尋ねましたが、答えはNO。

年齢と名前を訊かれたので伝えると、念のため交番に届け出たほうがよろしいのでは?と。

もしお見掛けしてお困りのご様子でしたら、保護して交番に連絡を入れますよと提案されましたが、大事にするのはためらわれ、お礼を述べた上で、もう少し捜してみますと言って信金を後にしました。

足腰が衰えている父上、そう遠くへは行けないはずなので、信金の少し先にある、父上お気に入りの洋品店や、帰りにいつも休憩すると言っていた公園など捜しましたが、見つかりません。

交番に届け出るべきか迷いましたが、一旦帰宅し、仕事中の兄上に事情を説明したところ、交番は最終手段にして、もう一度くまなく捜索することに。

私は自転車、兄上は徒歩で捜しに出ました。

再び郵便局へ向かい、窓口でかくかくしかじかと事情を説明しましたが、やはり父上らしき客は見かけていないとのこと。

ここでも交番に届け出たほうがと勧められましたが、やんわりと断って、父上が立ち寄りそうなところをほうぼう捜しました。

それでも見つけることができず、いよいよ交番のお世話になろうかと思っていると、母上からメール。

「お父さん、見つかった」

急いで自転車を飛ばして帰宅し、母上から事情を訊いたところ、すぐ近所の路地裏で動けなくなってうずくまっている父上を兄上が発見し、少し前に車で迎えに行ったとのこと。

5分程して兄上に連れられた父上、真っ白な顔をして帰宅。

取り敢えず居間の椅子に座らせてお水を飲ませると、安心したのか2時間近くもどこでどうしていたのか語り始めました。

滅多に行かない郵便局へ先に行ったところATMしか開いておらず、取り敢えずお金を下ろそうとするも操作の仕方がわからず。

諦めて近道をして信金に向かう途中で迷子になり、闇雲に歩き回っているうちに足が動かなくなり、力尽きて道端に座り込んでいた、と。

1時間近くそうしていたら、兄上が捜しに来てくれたので助かったと言っていました。

お兄ちゃんが来るまで誰も通らなかったの?と訊くと、通るんだけど一人も声を掛けてくれなかった、こんな年寄りが道端に座り込んでるのにじろじろ見るだけで何もしてくれない、薄情ものばかりだと憤慨していましたよ。

(そりゃこのコロナ禍だもん、見知らぬおじいさんに声を掛けるなんてしないだろし、父上は年齢より若く見えるし表面上、病人っぽさもないもんね…)

そんなこんなで無事に保護され帰還した父上ですが。

予定どおり午後に訪問看護師さんがみえたので、玄関先でこのことを説明したところ、お出かけになる際はお一人ではなくご家族と行かれるようやんわり勧めてみますとのことでした。

しかし父上、今日はたまたま調子が悪かっただけだから大丈夫、まだまだ家族の世話にはならない!と言い切ったそうな。

全く懲りていない模様。

近々理学療法士さんに来ていただき、足腰を鍛えるリハビリを始めようかという話が進んでいたのですが、看護師さんが仰るには、こうなってくるとそれも考えものですねと。

足腰が鍛えられる→体力がつき行動範囲が拡がる→迷子になる確率も上がる→家族の負担増

ということのようです。

迷子札は断固拒否、携帯電話を持たせても使い方が覚えられないし失くす可能性大。

代われる用事はなるべく代わってあげるか、それを嫌がるようなら、こっそり後からついて行って様子を見守るほかありません。 

悩みの種がまた一つ増えましたが、父上もそれだけ歳をとったのだなと受け入れて、家族だけで抱え込まず、周りの方々のお力もお借りして対処していければと思います。

※この記事は父が亡くなる一年前、2020年に書いたものです。

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