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合コン補欠要員

ワタクシ、学生時代は専ら補欠要員でした。

と言っても、部活の話ではなく、いわゆるひとつの合コン補欠要員でした。

通っていた短大にはいくつか学科があり、ワタクシは英語学科の英語科専攻。

英語学科にはもう一つ、秘書科もございまして、英語科専攻の学生とは一線を画す、華やかさがありました。

まず、スーツ通学。

学内でそのような規則があったのか定かではありませんが、常に色とりどりのスーツを身にまとった学生が、キャンパス内を闊歩しておりまして。

英語科専攻の中でも、常に小汚いジーンズに首のよれたTシャツで通学していたワタクシの目には、彼女たちの姿は眩しく映りましたよ。

その短大は幼稚舎からある私立学園の中の一つで、半数以上がエスカレーター式に進学してきた学生でした。

公立高校から推薦もなく一般入試を経て入ってきた学生とは、入学当初から自然とグループが分かれておりまして。

ワタクシ、今ひとつ馴染めずにおりましたが、たまたま入学後の一泊二日のオリエンテーションで同じ部屋に宿泊した、GOちゃんと仲良くなりました。

GOちゃんは高校から学園に入学したそうですが、女子校の独特なノリはあまりなく、とてもサッパリしていて、物事をハッキリ言うタイプの子でした。

そんな彼女、秘書科専攻のお友達も多く、割と頻繁に秘書科の学生が主催する、有名大学の学生との合コンに参加しておりました。

何度かお誘いを受け、参加したことがあるのですが、何しろ突然声が掛かるので、オシャレも何もあったものではなく、下手したらスッピンのままということもありましたよ。

当然、汚いジーンズによれたTシャツ、スッピンのワタクシ、男子に相手にされることは皆無でした。

そんなある日、講義を終えて最寄駅行きのスクールバスまでの時間を学食で潰しておりましたら、GOちゃんがやってきて、

「セッキー(ワタクシのあだ名)、今日これから時間ある?」

「家に帰るだけだけど…何?」

「今日、◯◯大学と合コンあるんだけどさあ、一人行けなくなっちゃって、人数足りなくて」

この頃には自分が合コン補欠要員であることを自覚していたので、ため息をつきつつも

「だって、毎度のことだけど、私、この格好だよ?」

「いーのいーの!セッキーがいてくれるだけで助かるんだから!」

人付き合いが今ひとつヘタなワタクシ、GOちゃんには色々とお世話になることが多く、その日も結局断り切れずに急遽、参加することになりました。

周りは皆、いつもより素敵な服を着て、お化粧もバッチリで、合コンでイケてる男子を捕まえるッ!という気合に満ち溢れておりましたよ。

ワタクシは気後れして、自分に自信もなく、そういう時はいつも、いちばん端の席に座るようにしていました。

その日もいつものように隅の、幹事席からいちばん遠くの末席に座りました。

こんな地味で華のないワタクシに話しかけてくれる男子など当然おらず、かと言って自分から話しかける勇気もなく、美味しいものを食べてテキトーに飲んでればいっか…と思いました。

時間の経過とともに、席替えというか、自然と男女とも狙った相手の隣に移動していき、いちばん隅の席にいたワタクシの近くには誰もいなくなり、ポツンと一人になりまして。

残ったお料理と、飲み放題プランだったのでお酒を追加で頼んで、黙々と飲み食いしておりました。

すると一人の男子がワタクシの隣にやってきて、

「楽しんでる?」

と、声を掛けてくれたのですよ。

しかし彼は男子側の幹事でした。

一瞬でも期待した自分が恥ずかしくなり、このように答えましたよ。

「うん、まあお料理も美味しいし、お酒もそこそこ飲んでますよ。気にかけてくれてありがとう」

「あんまり楽しくないってことだね、それ」

図星だったことと、酔っていた勢いもあって、

「まあ、そうだね。でもいつもこうだから」

するとその男の子、ドカッとワタクシの隣に腰を下ろし、

「幹事としては、来てくれた皆に楽しんでもらわないとね!」

そう言いながらお酒を注文し、結構な時間、ワタクシの隣に居続けたのです。

お互いお酒が進み、いい加減ヨッパになり、なぜか互いの腕時計を交換するという謎の行動をとりました。

「そろそろ幹事席に戻ったほうがいいんじゃん?」

そのように言いましたら、おっともうそんな時間か、と言いながらコースターの裏に電話番号を書いた彼、それを渡してくれまして。

「この腕時計は人質ね。返してほしければ、そこに連絡するように!」

そう言って、幹事席に戻って行きました。

程なくしてお開きになり、帰宅したのはよかったのですが。

酔いが覚め、彼と交換した腕時計が自分にとってとても大切なものだということに気づき、こりゃ返してもらうためには連絡を取らないとなと思いましたよ。

合コンは金曜の夜に行われたので、翌日には連絡を入れ、後日、短大近くのファミレスまで来てもらい、腕時計を返してもらう約束をしました。

月曜になり、いつものように電車とバスに揺られて通学し、教室に入ろうとすると、合コンの女子側の幹事だったNちゃんが机に突っ伏して泣いており、その周りを彼女と仲の良い友達が取り囲んでいるという、謎の光景が飛び込んできました。

教室に入ろうとしたところ、後ろから肩を掴まれ、振り返るとGOちゃんでした。

「オハヨー!なんかあったの?Nちゃんが…」

と言いかけると、GOちゃんが酷く慌てた様子で、

「シーッ!セッキー、ちょっと、ちょっと来てくれる?」

と言いながらワタクシの手を引いて、キャンパスのいちばん端にある学食まで連れて行かれましたよ。

そこでいきなり、GOちゃんが

「ごめん!この間の合コンのことなんだけど」

GOちゃんによると、そもそもあの合コンは、幹事の男の子と、女子側の幹事だったNちゃんをくっつけようとして企画されたものだったとのこと。

聞けば二人は別の合コンで知り合い、Nちゃんが一目惚れをして、けれどなかなか彼にアプローチできずにいたそうで。

二人が幹事になってもう一度合コンを開けば、打ち合わせと称して二人きりになれるチャンスもできるし、仲が深まるのではないかという、周りのアイディアで開かれた、と。

もちろん、女子側の参加者は全員そのことを承知で、知らなかったのはワタクシのみ。

「セッキーにも言っとくべきだった。ゴメン」

GOちゃんは平謝りをした後、続けて訊いてきました。

「セッキーはどうなの?あの彼のこと?」

「どうもこうも…酔ってたし、あんまりよく覚えてないというか、好きも嫌いも…」

「もしセッキーが彼のこと気に入ったんなら、N子に遠慮する必要、全くないからね!こういうのに後も先もないんだからさあ」

「いや、ホントに気に入るも何も…」

「でも、会う約束してるんでしょ?腕時計まで交換しちゃったし…それに彼はセッキーのこと気に入ったと思うな」

そんなところまで見られてたのか…と思いましたが、事情が事情なだけに、幹事の彼がワタクシの相手をしているところを、女子全員がヒヤヒヤしながら一部始終見ていたことも頷けます。

「N子はさあ、ハッキリ言って、美人でモテるじゃん?だから自分からオトコにアピールしたこと多分一度もないのよ。大体あんなところで泣くなんてN子は大人気ない。何度も言うけど、こういうのに後も先もないんだからね!」

後日、幹事だった男の子にファミレスで会い、腕時計を無事にお互いの元に返したわけですが。

GOちゃんの言ったとおり、その場で交際を申し込まれました。

しかしあれ以来、Nちゃんとそのグループの子たちとギクシャクしていましたし、波風を立ててまで彼と付き合いたいとは思えず、丁重にお断りをしましたよ。

以来、補欠要員からも外されたようで、合コンのお誘いはパッタリとなくなったのでございます。

やはり空気が読めないのが、敗因でしょうか…?

にしても、あの幹事の男の子、ワタクシのどこら辺を気に入ってくれたのでしょうね?

Nちゃんのことを猛プッシュするのではなく、そのことを訊くべきだったなあ…。

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