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紅玉いづき『雪蟷螂』

まず、このアカウントでアイドル以外の話題をするつもりがなかった。そういうつもりでアカウントを作った。

だけど昨夜、あまりにも耐えられないことがあって、どうしてもアイドルから離れたい、と思った。
一人きりの部屋で無音の中にあっても、離れることはできなかった。私の頭の中には、たくさんのアイドル音楽がひしめいていて。

だから久しぶりに、小説を読もう、と思った。
映像ではだめだった。テレビもインターネットも、「ながら見」ではだめだったから、小説しかなかった。

紅玉いづきの『雪蟷螂』(読み:ゆきかまきり)は2009年2月刊行のライトノベルだ。なぜその作品を今頃読むのかと言えば、私の心の現在地が雪の積もる街の中にあったからだ。
『雪蟷螂』の物語の舞台は、雪嵐の舞う険しい山脈の中である。作中の言葉で言えば、

その地では、絶望は白い色をしている。

私の今の感情が「絶望」なのかどうか、私はまだ私の心の内が整理できていないから分からないけれど。吹き荒ぶ雪氷が肌を掠める痛みと今の心の痛みは似ているような気がした。

カマキリは、交尾中にメスがオスを喰らうらしい。
それになぞらえて、作中に登場する雪山の部族・フェルビエの女たちは「雪蟷螂」と呼ばれる。愛する者を喰らわんとするほどの激情を持つ女たち。

フェルビエと対立する部族・ミルデは「死人狂いのミルデ」と呼ばれる。死後の身体を呪術によりミイラとし、永遠の生へと昇華する風習を持つ。

フェルビエは、喰らえば一瞬。刹那の恋。
他方、永遠の愛を与える、ミルデ。

「刹那」と「永遠」も、アイドルオタクにとって永遠のテーマの一つであると思う。
その存在に永遠を求め、刹那の時間に身を焦がす。ライブってそういうものじゃないかと、私は思っている。
永遠であってほしいと願う。けれど、永遠などないことも分かっている。それでもなお、今この瞬間よ永遠であれ、と。

一人の「雪蟷螂」の恋を辿りながら、彼女の身を灼くような激情に似た感情を私は知っている、と思った。
3.13、あの日だってそうだった。
あれは恋ではないけれど、刹那で、永遠の激情だった。

「雪蟷螂」アルテシアは、父に一つの問いかけをする。

「春は、美しいですか」

厳しい冬を超えた先に、美しい春が待っていることを、願ってやまない。



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