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トランプ大統領感染→復活でコロナワクチン・治療薬業界に転機到来。風向きの変化に投資家は戦略を見直す必要も。

10月2日、アメリカと世界に激震が走りました。トランプ大統領が新型コロナウイルスに感染したというのです。なんということでしょう!と言いたいところですが、ご存じの通り驚異的なスピードで回復し、本人は早くも選挙集会を再開させると息巻いています。
やれやれ一件落着か…。そうも思いますが、この1週間はコロナワクチン・治療薬業界、いわゆるコロナバイオ関連業界にとって大きな変化が起きた週だったかもしれません。

トランプ大統領に対する風向きの変化

「トランプ大統領が感染し入院した」そう伝えられるとアメリカの雰囲気はパッと変わりました。「このまま大統領が亡くなるのでは?」「リーダーがウイルスに倒れるという歴史的な瞬間を刻んでしまうのか」そういった緊張感に包まれました。マーケットはそこまでの下落はありませんでしたが、トランプ憎しで盛り上がっていたメディアも、また民主党も、大統領の回復を願うムードになりました。
一方大統領選を占う賭けサイトでは「トランプ敗北」へとグッと針が触れました。それは高齢による健康上の問題、選挙運動が出来なくなるどころか公務復帰も危ぶまれる可能性、さらにコロナ対策を先頭切っておろそかにしていた大統領が罹患するというネガティブイメージ。それが大きく「トランプ敗北」に傾いたと思わせたからです。
しかし株式市場は賭けサイトほど大きく下に触れませんでした。ウイルスである以上バイデンと民主党にも一定の感染リスクがあり、またトランプ復活の可能性もあったので売り込むには燃料不足だったのでしょう。結果的にはトランプはすぐに復活したので、株式市場は大波に遭わず、大統領選への影響も微減に踏みとどまったという印象です。

救世主としての役割を「治療薬」に変えたトランプ大統領

コロナワクチンを大統領選前に認可し選挙に弾みをつける、トランプ大統領とホワイトハウスはそうシナリオを進めていました。対してFDAは、ワクチンの安全性を見極めるためにワクチン接種から2ヶ月経過を見るべきという指針を出し、すなわち大統領選後に審査がずれ込むためホワイトハウスは反発していました
しかし政治介入に対する世論の批判もあり、ワクチン製造メーカー側も安全性を重視する声明を出さざるを得なくなります。外堀を埋められた形の大統領側はFDAに審査を早める圧力をかけることを断念、FDAは10月6日に上記指針をガイドラインとして正式発表しました
FDAに譲歩した背景として、トランプ大統領はワクチンで大統領選を盛り上げる代わりに、治療薬をアピールする作戦に変更していたようです。トランプ大統領が感染を知る直前の9月29日、リジェネロン($REGN)は抗体カクテル療法でコロナに対して目覚ましい成果が出たと発表。トランプ大統領は早速この抗体カクテル療法を自身に試し、回復につながったということで「アメリカはコロナに勝てる。リジェネロンとイーライリリー($LLY)の抗体カクテルは素晴らしい」と宣伝を始めています

コロナワクチンにネガティブ要因として「審査厳格化」が浮上

さてここからが本題です。FDAの安全性へのガイドラインが発表されると同時に、ワープ・スピード作戦責任者モンセフ・スラウイ氏は「たとえ臨床試験で有効性について良好な結果が得られていたとしても、数百万回分の生産体制が整うまではどのワクチンメーカーもEUAを申請すべきでない」と発言しました。またワクチン申請を審査するFDA生物製剤評価研究センター(CBER)のピーター・マークス所長も「FDAは安全性を巡る重大な懸念が生じた場合、企業に強制的に情報開示を求める可能性があると述べた」と報じられています。(ソースはこちら)。つまり審査の厳格化です。
これら一連の動きは「政治的な駆け引きと医療を切り離す」というメッセージに受け取れます。前回書いた記事で、政治的影響力が低下し医療が力を持ってくると未来は不透明になると書きました。見たところ着々と政治の影響力は低下しているため、少なくとも大統領選が終わって新体制が整うまでは、FDAの権限は強化され我々投資家から見ると動きが遅くなると思います。EUA(緊急使用承認)が通りにくくなる可能性もあります。もちろんワープスピード作戦も厳格化への方針転向が危惧されます。
実際、FDAは自家調製検査法(Laboratory Developed Test:LDT)によるコロナ関連のEUA申請を認めない方針を打ち出しました。この問題は長きに渡りアメリカで議論されていることなので一朝一夕の変化ではありませんが、いずれにしても今までのような「非常事態における柔軟で幅の広い対応」は終わりつつあると考えられます。

コロナワクチン薬と株式について

さてワクチンについてはご存じの通り
バイオンテック・ファイザー連合 / モデルナ / アストラゼネカ
の3社が先頭集団を形成しており、 
ジョンソンエンドジョンソン / ノババックス / キュアバック
あたりが少し遅れて追随しており、その後に
メルクその他が追っているような状況です。
9月以降、認可本命と言われていたイギリスのアストラゼネカが副作用問題で足踏み。モデルナが治験体制の整備に手間取りました。ここ2週間でバイオンテックの株価だけ他より伸びてきた理由は、
1. 治験の進行状態が一番スムーズである。
2. ファイザーの力を持ってしっかりとしたデータと生産体制を用意できる。
3. アメリカ政府から資金を入れていないため政治的圧力と距離を置き、同時にFDAの顔を立てることもできる。
4. 売り先を既にヨーロッパやアジアにも確保している。
こういった点でワクチン承認と販売開始に一番近いと思われているからでしょう。元々ファイザーの自己資金で開発しており政治的なプロセスにも手間を取られませんし、加えて実績ある大企業の力で太鼓判を押したワクチンであれば、FDAもスムーズに審査することができます。
もしmRNA式であるバイオンテックのワクチンが認可されれば、モデルナ・キュアバックも同じ結果になる可能性があります。逆もまたしかりです。
アストラゼネカについてはアメリカでの治験が止まっており、しかしイギリスでは進んでいることから、イギリスで先に認可されアメリカは時間がかかる可能性はあります。

mRNA以外の方式では、今のところジョンソンエンドジョンソンが好位置につけているでしょう。ワクチン接種の頻度が少なくて良いという話もあり、来年のワクチン販売勢力争いは、英のアストラゼネカ、米のジョンソンエンドジョンソンという構図になるかもしれません。
一般論でいえば、mRNA式は安全性は高いが効き目が弱い、ウイルスベクターやDNA式は効き目は強いが副作用が心配という構図なので、mRNA式以外のワクチンが早期認可されるか否かは、先行mRNA組の売上を左右することになりそうです。当然、自社が認可されて他社が遅れれば市場を長く独占できる可能性が高まります。株価に影響するでしょう。mRNA式ワクチンは超低温での輸送保管が必須のため、先進国用のワクチンと言われています。WHOやCEPIが進める世界向けのワクチンの本命もmRNAにはなり得ませんので、どこが成功するにせよ最終的には複数のタイプのワクチンが流通することになります。

弱小企業の旗色が悪くなったワクチン業界

これは個人的な意見が多々入った話です。もし仮に先行しているワクチンがFDAの認可を得られた場合、今大量に進んでいる弱小企業のワクチンは(少なくともアメリカにおいては)苦境に立たされると考えています。もう一度、ワープスピード作戦リーダーのコメントを見てみましょう。
「たとえ臨床試験で有効性について良好な結果が得られていたとしても、数百万回分の生産体制が整うまではどのワクチンメーカーもEUAを申請すべきでない」
つまりどれだけラボで良好な結果が得られた、あるいは治験で効果が見られたといっても、数百万回の生産体制が整っていないと認可申請出来ない訳です。もちろん有望なワクチンであれば大手のバックアップが最初から得られるかもしれませんが、よっぽどオリジナルのノウハウがないと大手企業も生産体制を取らないでしょう。またこれは契約書一枚で済む問題とは思えず、ラインを確保しないといけないでしょうから、EUAを申請する前にお金を出して実績のあるワクチン工場ラインを押さえる必要があると想像します。
ワープスピード作戦で既に国から予算を受け取っている会社や、元々大企業なメーカーとガッチリ組んでいれは大丈夫ですが、弱小企業でそれを満たせるところがどれだけあるか不明です。もしいくつかのワクチンが認可されてしまうと、FDAも無理にワクチン認可を急ぐ理由が無くなるので、治験が遅れている企業、規模が小さい企業の不利を私は予想しています。加えてたとえ生産ラインを押さえていたとしても、ワクチンの効果を大規模に治験して効果を証明するというハードルも越えないといけないので、今ファイザーやモデルナが行っている規模の治験をどれくらいの会社ができるでしょうか。不透明です。
しかし、今後何らかの理由で
・先行認可されたワクチンが需要に間に合わない
・または副作用などでワクチンの信頼性が怪しい
ということになり、プラス
・独自の技術かつ大きな予算が既に付いた企業
が申請する場合は、ワンチャンあるかもしれません。そうでないところは結構無理ゲーではないかと思っています。
なぜなら「有効なワクチンがもし認可されてしまった場合、未知のものに投資するよりもそのワクチンの増産と実施に資金を振り向けた方がアメリカにとっては有効なので、他の弱小ワクチンを積極支援する理由が無い」からです。資金調達が弱いとふるい落とされます。

コロナ治療薬について

治療薬については既にいくつかEUA認可されたものがあります。ひと言で状況を説明しますと、
レムデシビル    ⇒効いているが治療の決定打にはならず
デキサメタゾン   
重症患者対象での効果限定
ヒドロキシクロロキン
EUA取り消し
血漿プラズマ療法  
⇒いまいち効くか怪しい雰囲気
抗体カクテル療法  ⇒現在一番効果があるが作れる数は少ない
こんな感じで進んで来ています。前々回の記事で、
"治療薬が話題になるには「低コスト大量生産可能」か「劇的に回復する」ものが必要です"
このように書きましたが、抗体カクテルが劇的効果を出したことによりコロナ治癒への光明は差した状況です。
しかしもしコロナワクチンが完成し、例えば来年の後半には多くの人がワクチンを接種するような状態になった場合、治療薬のマーケットは先細りになります。10月1日に下記のようにツイートしたのですが、このような見解です。

加えてコロナワクチンの場合は
「国が国民に無料で実施します!」
と各国のリーダーがアピールするケースが多いですが、治療薬については
「無償提供します」「お金儲けしません、安く提供します」
と製薬メーカー側がアピールしなくてはならないことが多いです。

先に書いたような、FDAによるEUA審査厳格化も発表されています。

よってコロナ治療薬マーケットで株式投資の短期リターンを期待するのは難しいのが現状です。もし今回出てきた抗体カクテルが決定的に効くのであれば、将来ワクチンが行き渡って患者が減った後は、抗体カクテルとレムデシビルがあれば事足りてくるかもしれません。それらの開発会社はOK、それ以外は特筆すべき強みが無いと需要がないという結論になる可能性もあります(つまり後発は先行薬を越えていかないといけません)。
現状投資先で言えばギリアド、リジェネロン、イーライリリーですが、治療薬のパテントさえ持っていれば、将来は薬を高く売れるようになってくるでしょう。はたまたもっと良い治療薬が出て変わる可能性もありますが。いずれにしても治療薬はFDAの認可イコール売上増大を保証しないので、ブームを見極めて注意深く扱う必要がありそうです。

今回はちょっと長くなりましたがトランプ大統領感染というターニングポイントがあり、またワクチン認可が11月以降にずれ込んだ転換点となる週でした。
ワクチンも治療薬も「1つ確実なものが出来てしまうと、後に続く製品の認可のハードルは高くなる」というのが今考えないといけないテーマです。そしてそのXデーは迫っています。
ここで一度投資戦略を振り返り、いろいろ見直してみてはいかがでしょうか☆

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