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宇宙と繋がる案件

宇宙と繋がりたいという願望

2社目に入ってある程度無難にこなしていたあたりで、禁断の呪法に手を出し始めた。
3日間の断食で感触を掴んだと思ったら、今度は21日間連続に挑戦したのだ。

そのすごい人(笑)が仰せになるには
「21日間断食したら宇宙と繋がる」なのだそうだ。

「宇宙と繋がる」っていう言葉が美魔女界隈では結構頻繁に飛んでいるワードだったりもした。
まぁご大層なもんだで「宇宙と繋がる」って誰が信じるんだ?って普通は思うだろう、
だけど俺は「普通」じゃなかったので、スピ的なセンスで魔に受けた。
「真に受けた」の間違いだが、魔でも間違いない。

ローフードであれば断食前後にふさわしいという。

ローフードというのは野菜を肉とか動物性のものに見立てて調理した素材である。
俺にしてみればローフードという単語は耳慣れない、初めて聞いたもの。
特異な調理法で、消化に良い食品なので、一時期その調理にハマったことがある。
まぁいわゆるヴィーガンというやつだね。
断食前後の期間にはこういう動物性じゃないのだけは食べて良いのだそうだ。
いわゆる我慢の期間であるが。
消化の良いものを食し、極力胃に食べ物を送り込まないことで、
胃をスッキリさせることで浄化を促す。
断食=宇宙と繋がる=すごい俺になれる
という難解な公式が組み上がったのである。
要するに俺は宇宙と繋がりたかったのである。そうすりゃ会社辞められて
スーパー起業家になれるのだと。

その当時、起業家として打ち出せるコンテンツというのは俺には何もなかった。
だから、それを作る必要があった。
断食21日間クリアすれば、その経験がもしかしたら「継続力」のコンテンツの礎に、
起業を打ち出すコンテンツになるかもしれんのだと…。

俺は悪魔が微笑む方の決断を断行した。

その頃の俺の信念?「一刻も早く会社を辞めたい」という気持ちはあったさ。

そもそもの断食のルールについてここに記しておくと、
・前後食としては、肉や魚など動物系は禁止。野菜や海藻中心。
・断食前後の期間は緑茶、コーヒーなどのカフェイン、お酒などアルコールは禁止。
というものがある。

この制限が長かったので、21日の断食だが、前後込みで35日は費やしたはずだ。

平日はほとんど会社で時間が無く、時間さえあればとにかく起業塾の課題だった。
そのためにも食事の時間をすっ飛ばすという荒技を行ったわけだ。

睡眠は十分取ったつもりだったが、毎日が非常に眠かった。
会社に行くまでの電車がとても辛い、乗り換えの時は駅を延々と歩いたし
やたらと上り下りが多かった。その結果で疲れがなかなか抜けきれない。
断食21日間の最中でもあったので、断食に必要な資材は
全て持った状態で出社を繰り返していた。
酵素ジュースが入った瓶に栄養食品を何点か。
特にジュースが入った瓶がとても重すぎて、それが身体に負担をかけてきた。
毎日の移動がやたらと複雑でイライラが募っていた部分も当然あった。

そうした負担を乗り越えた末にようやく会社に到達する。
かつて山登りした経験があった俺ではあるが、
それでもなんとも言いようがない疲労が身体全体を襲っていた。
なにしろ毎日どんだけ寝ても寝足りないのだ。

そして「一刻も早く会社を辞めたい」という気持ちは、
俺にとって最悪の形で実現することになった。

断食中は毎日がこの繰り返しだったので、疲労が限界にきていて
常駐先の会社の業務中に居眠りしてしまった。

俺が業務を終わらせて帰宅したその後に電話がかかって来た。
何だろう。

かけてきたのはエージェント企業だ。
内容は、俺が業務中に居眠りをしたことの事実確認を取られた事だった。
俺が?いつ??そんなはずない。
全く、覚えていない。
弁解したが全く無駄だった。
常駐先の監視カメラにしっかりとその姿が映っていたから言い訳ができない。

1度目はなんとか警告レベルで済んだ。
次やったらアウトだという警告を受けた。

いつ寝たんだ?眠気が襲ってきたのは事実で、眠気を誤魔化そうとしたが
意識が眠気に抑え込まれて、ねじ伏せられてしまった。

何度もしくじるわけにはいかない、と焦りが大きかった。

眠気が襲ってきた場合は、通常であればコーヒー飲んでカフェインを摂取したり
いくらでもやりようがあったが、断食中はカフェインを飲めない。
眠気が来たら水を飲むか、酵素ドリンクで誤魔化すしかない。もしくはトイレに行って寝るか。

地獄のようなこの事態を助けてほしいと思い、
異業種交流会で知り合った、短眠できる身体を実現できる整体を頼ろうとしたが
首の位置を変えるような施術は容認できない、
というふうに懇意にしている整体の先生に止められたこともあって
短眠できる肉体を実現できるに至っていない。

断食していたとしても、短眠できる身体があれば…。
原因は明らかに身体の疲労の蓄積なので、睡眠をしっかりとることで和らげられれば、
と思ったのだが、それがままならなかった。

毎日重い荷物を背負って会社に出社しているのだ、ノーダメージで済むわけがない。
しかし断食21日間はまだ道半ば。途中で辞めるわけにはいかない。
ここで俺が屈したら会社の奴隷に、悪魔のような奴らの言いなりの人生で終わる。

重い荷物を背負って会社に行く、というスタンスは変えなかった。
眠気を少しでも感じたらすぐにトイレに行くよう心がけて、時間をかけてでも眠気を取る。
しかしあまりにも長時間離席すると怪しまれないだろうかー
そうした疑心暗鬼が命取りになった。
トイレから何食わぬ顔で席に戻って業務を続け、眠気が襲ってきたが
なんとか堪えていく、堪えていく、堪えて…

次の瞬間には目がぱっちり覚めていた。まるで、よく寝た後であるかのように。
―やばい、バレてないだろうな。
顔をつねったりしながら寝ないように細心の注意を払うが、やはり眠いものは眠い。

どうにかこうにか眠気を堪えて帰宅したその日、
また見慣れた番号から俺に電話がかかってきたー

―その翌日、俺は常駐先の会社から解かれ、
エージェント先の会社に軟禁されながら業務を行った。
もう庇いきれない、ということでこういう事態になった。
その日はとても息苦しかった。俺の処遇は数日後に言い渡されると。

もしこの当時、毎日リモートワークだったら、断食やっていたろうか?
そんなこと気にしても意味がないだろう。
断食やらないと決めたからリモートワークになったのだから。
誰のせいでもない、俺のせいなんだ。

その辛苦の果てに、断食21日間をなんとか達成することができた。
21日間何も食べなかったのは自己最高記録、勲章だ、
SNSでそのことを報告して、あちこちから称賛を受けたが、
本来の俺はずっと傷ついたままで、そのことを知る者は誰もいなかった。

ただ一人を除いてー

―宇宙と繋がるー、今考えてみれば、眠りの世界に誘われたのは、
ある意味宇宙と繋がったと言えるのかもしれない。
全てを完結するのが疲労、病気というもの。

俺が21日間の断食を得て勲章を得た。
しかし同時に会社をクビになって、コストも赤字を叩き出した。

勤めていた会社は関係悪くしてクビになるし、結果として赤字まみれ、
起業塾での成果物で何ができたかと言えば21日間の断食レポートを書けただけ、
と言った具合で散々だった。

「なんでやったんだ?」って問われても俺は何も言い返せない。
ある意味俺の内面が全て浄化されたかのように現れた、と言えばそうだったのかもしれない。

どうやったら宇宙と繋がれるかって?
おそらく自分の内面がどういう構造になってるのか、
というのを理解するのが大事。

もともと人間は「宇宙と繋がっている」。
形而上学的に言えば「上の如く下も然り」
なので、今目の前に見えているものが、自分の上のものからもたらされるもの。

今見える現実が「自分の上の状況がカオスだから起きてるんだ」
とわかった時点で俺は「宇宙と繋がる」ことができてると思う。
カバラとかいくとわかりやすいんじゃないの、そういうの。

なので俺は深く考えなくていいと思っている。

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