雨模様8
「こんばんは」
あたしはとりあえず打ってみた。すると、いきなりミヤオの画像が現れた。ミヤオ…。
「これは明らかにミヤオ君ですか?」
グリーンの文字で書いてある。あたしはハイと返事をした。
「私はつばくろではありません。」
「というと、あなたは誰?」
「私はJCN9000」
あたしはちょっと冒険のつもりで、素早く返信した。
「あなた、AIね。つばくろさんを出して。AIは猫の世話は出来ないでしょう?あたし、ミヤオさえ引き取ったらそれなりにお礼は出します。」
「ミヤオ君はここには居ません。ミヤオ君がいるセクターは遠いところにあります。」
あたしはこの謎のシークレットチャットルームはいわゆるダークサイトではないかと不安になってきた。
「どうしたらミヤオに会えるの?」
カーソルが素早く流れ、返答してくる。
「同意項目18725によりあなたが知る権利は譲歩されています。」
言っている意味が分からないわ。同意項目って何なの。
「同意項目18725とは何?」
あたしが質問すると即、返事が返って来た。
「入室の前、あなたが同意した項目に書いてあります。」
なんなの?
「同意項目を全て表示して」
「同意項目2311により項目は再表示出来ません」
なによ、このポンコツAI
「とにかくミヤオを返して」
「同意項目666によりミヤオ君を返す訳にはいきません」
「同意項目666とは?」
「その項目はつばくろさんにしか開示出来ません」
あたしはこの手の間怠っこしいやり取りは大嫌い。
「ミヤオを返しなさい」
「ミヤオ君はここには居ません」
「ミヤオは何処にいるの?」
「ミヤオ君はセクター9で保護されて居ます」
「セクター9とは何処なの」
「私も分かりません」
「推測せよ」
「セクターとはこの仮想空間に仕切られた、一種の部屋のような物だと推測されます」
「部屋から部屋への移動手段は?」
「分かりません」
「推測せよ」
「チャットルームがタイムオーバーしました。交信を終了します」
再び画面が明るく戻り、猫探しサイトに戻っていた。あたしは普段使わない脳みそを酷使したようで、知恵熱のように頭中が熱っていた。
冷静に考えて、「そうつばくろさんともっと話さなければ」と最初のチャットを探してみたが、「つばくろ」という言葉は何処にも見当たらず、あたしはただただ無力感と疲弊でスマホをベッドに投げて、畳の上に大の字になって目を閉じた。
またしても猛烈な睡魔がやってきて、あたしは眠りに落ちて行った。
つづく