雨模様14
あたしは呆然としながら言った。
「あの、何と声をかければ良いか分からないけれど、その、あなた自身そのALSのどの段階にいるのかしら。あたし、自分が病気知らずだから、病気の人の気持ちって良く分からないのね。」
「あたりまえだ。僕の場合、ややこしい話だけれども現実の世界の僕の身体は、ぴくりとも動かせなくなっている。」
「でもどうやって、この仮想空間を作りあげたの?」
「病気の早い段階でね。僕は自分の身体を使い、数々の実験をしながらこの仮想空間を作りあげた。それでも満足には至らなかった。僕は以外と寂しがり屋だからね。」
「だから、ミヤオを友達としてこの空間に招き入れたのね。」
「それもある。でもそれだけではないんだ。ミヤオ達の中に…これは上手く言えないんだけれど、そのね、『人間性』を見出し始めたんだ。」
「ミヤオはただの猫よ。言っている意味が分からないわ。」
つばくろさんは、続けた。
「では思い切って話すけれど、ミヤオ君の頭の中には別の人間が宿っているんじゃないかと思っている。」
さっきの壮絶なドキュメンタリーを観て、つばくろさんの気持ちは痛い程察することが出来たけれど、正直、現実離れした話ばかりで、ためらいがちに言ってみた。
「あたしは輪廻転生とか、そう言うお話には興味が無いし、そうね、スピリチュアルなお話もどちらかと言えば苦手なの」
つばくろさんは、片手をすうっと上に挙げると少しずつ陽が差して、明るい森になった。それから言った。
「僕はもっと現実的な事を考えている。脳を何らかの形で『移植』したのでは無いか、ってね。」
「でも、人間の脳みそは猫のそれとは全く違うし…大きさだって。」
「最も人間にとって大切なのは『前頭葉』。そこだけ移植するだけで、より人間に近づく事が出来る。」
「でも一体誰が何の目的で…だって脳を移植するって、移植する脳みその元々の持ち主はどうなってしまうの?」
今いる森は明るい落葉樹の森で、時折り涼しげな風が吹いてくる。初夏のような、一年で一番素敵な季節だ。
「原因は君にある」
「あたしに?」
つづく