雨模様11
あたしはモノリスに触れてみた。一体あたしは何に巻き込まれたのだろう。このまま、このカオスの中で、沢山の映画を体感して、やがては死を迎える…そんなの嫌だわ。
「要さん」
漆黒のモノリスの上に見覚えのあるグリーンの文字が浮かんできた。
「あなたなのね、変な仕掛けを仕組んだのは」
「つばくろさんがあなたに会いたいとおっしゃっています」
「あたしはミヤオさえこの手に戻してくれたなら、全て無かったことにして静かに去ります。つばくろさんにそう伝えてください。」
「つばくろさんはあなたの言動を常に監視しています。あなたが危機に晒されることのないよう見守っているのです」
「そうは思えないけれど…とにかくミヤオを返して!」
「つばくろさんと直接話す時が来ました。」
モノリスは静かに上昇を始めた。モノリスが上昇すると、裏に隠れていた人物の姿が現れた。インディゴのジーンズにクリーム色のフロントジップのフリース。マッシュルームカットを少し崩したような髪にメガネをかけている。
「やあ」
「あなたは誰?」
何とミヤオを抱いている。ミヤオは瞳を閉じて、眠っているように見える。
彼は静かに近づいてきてミヤオを渡してくれた。
ミヤオ…あたしの大切なミヤオ。ごめんね。
あたしはミヤオを優しく撫でながら、目の前の青年を見て言った。
「あなたがつばくろさん?」
青年は静かに首肯いて、とても穏やかな微笑みを浮かべている。
「悪いけど、ミヤオ君の脳をスキャンさせてもらいました。ミヤオ君は非常に賢い猫です。知能指数が成人男子の平均値を超えている。」
私はまたしても嫌な予感に苛まれながら尋ねた。
「ミヤオを使って何か実験をしたのね。ミヤオにどんな能力があろうとも、もう二度と離さないから。早く元の世界に戻して」
「まあ、そう焦らずに。」
見ると青年もミヤオを抱いている。あたしは自分の抱いているミヤオを見て言った。
「何のつもり?今度はブレード・ランナーの世界のつもり?」
「映画のお遊びはもう終わらせたつもりだけど。でも、当たらずしも遠からず。君が抱いているのはミヤオ君のコピーだ。本物はこっち、悪いけど。」
コピーって…生き物をコピーするなんて不可能じゃないかしら。また知恵熱で頭がクラクラしてきた。
つづく