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塚口サンサン劇場とレヴュースタァライト

ムジ7
https://twitter.com/MusikSasanQua18


1.塚口サンサン劇場とは

 塚口サンサン劇場(以下、サンサン) とは、兵庫県尼崎市で今年(2022 年) 創業69 年1) を迎える映画館である。外見はごく普通の“街の映画館” であるのに、私の中で唯一無二のレヴュー体験となったのは何故か。本稿ではまずサンサンとはどんな映画館なのか解説し、その後“塚口のレヴュー” の魅力について語りたい。

 サンサンでまず欠かせない特徴は、その音の良さを求めて全国からファンがやって来る「特別音響上映」だろう。サンサンが音に拘りだしたきっかけは、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015 年6 月公開) 2)。本作とも縁の深い作品である。これは約束?

 「いや、運命――」

 それはさておき、その次にサンサンの音響の方向性を決定づけたのが『ガールズ&パンツァー 劇場版』(2015 年11 月公開)。この作品の音響監督である岩浪美和氏3) のアドバイスによって劇場のスピーカーを一新し、“場末の映画館” (岩浪氏命名) にしてはオーバースペックとも呼べる音響設備を備えるようになった。また、設備を揃えるだけではなく、作品一つ一つの音を試写しながら念入りに調整している。現代のシネコンでは哀しいかな、映写技師は不在で試写もされないまま上映されることも多いそうだ。だがサンサンは腕利きの映写技師がしっかり健在で、「映画館でしか味わえない時間を過ごしてほしい」という思いで作品を届けてくれる映画館なのだ。

2.塚口のレヴュー(設備・装飾編)

 サンサンのスクリーンはシネマスコープサイズ4) (以下、シネスコ)である。『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(以下、本作) のようなシネスコ作品を上映する際は、予告の間はビスタサイズ5) で上映し、本編上映の前に左右の黒いカーテン(=バリマスク) が開き、横長のシネスコスクリーンが現れる。最近の大手の映画館ではバリマスクがそもそもないため、まるで舞台開演時の幕が開くような演出で鑑賞を開始できるサンサンは稀有な映画館だ。上映開始前から「私たちはもう舞台の前」なのである。

 また、サンサンには有志のスタッフによる手芸部6) が存在し、これまで戦車や城が待合室に生成されてきた。そして本作では、キリンとトマト、ポジション・ゼロが待合室に現れた。キリンはたてがみまで細かく再現されており、津田健次郎氏ボイスで「わかります」という台詞が聴こえてきても不思議ではない完成度。ポジション・ゼロからキリンを眺めて、映画鑑賞に向かうことができる映画館は珍しいだろう。

3.塚口のレヴュー(音響編)

 サンサンの特別音響上映の特性は、まず本作のような音楽映画で発揮されるその豊かな音場の構築力にある。ウーハーがスクリーン前にデカデカと存在しているため重低音の強さが目立ちがちであるが、高音域・中音域もくっきりと鳴っており、上映される作品のジャンルを選ばない。それは冒頭か早速体感することができる。劇伴『color temperature』イントロは、劇場全体にオーケストラのフォルテシモが響き渡り、いきなりコンサートに迷い込んでしまったかのように感じさせる音であった。また『世界は私たちの…』の2 分53 秒からのブラス隊や『wi(l)d-screen baroque』のストリングスの旋律は、CD 音源では到底再現できないほど伸びやかにそして荒々しく鳴り響いていた。

 サンサンの特別音響上映のもう一つの魅力は台詞の聴き取りやすさにある。音楽や効果音を派手に鳴らすことで、迫力や臨場感はいくらでも増すことができるが、サンサンの流儀として映画の根幹を成すのは台詞であるという考えがある。

 サラウンドの効きの良さも見どころである。たとえば地下鉄で(舞台装置として) 血の雨が降り注ぎ真矢様が「狼狽えるなぁ!」と一喝するシーン、あるいは『MEDAL SUZDAL PANIC ◎〇●』にてまひるの「あなたがあなたがあなたがあなたが―」と繰り返すシーン。前者では自分自身がその血の雨を浴びたように狼狽え、真矢様の一喝に本気で驚いてしまうし、後者ではまひるに追いかけ回されているように錯覚し、リアルな恐怖を覚える。これはもちろん音響調整の効果もあるが、大手シネコンに比べて小さめなシアターであるため、劇場の壁や天井に反射して届く「間接音」ではなく、スピーカーから耳に届く「直接音」が音の比率を多く占めることもプラスに働いている。

4.塚口のレヴューのすゝめ

 このように、一見ただの街の映画館、されど映画愛に溢れた唯一無二の映画館である塚口サンサン劇場。なお、本稿では詳しく紹介していないサンサンの特徴として「イベント上映」7)もあり、コロナ禍でも無発声での応援上映などを実行している。本作もレヴューに対し拍手で応じる等応援上映が適する見どころを備えていることから、数々のイベント上映で経験を積んでいるサンサンだからこその上映が今後行われることも期待している。

 様々な観点から生の味わいを体感できる場所として、筆者は本作の再演が叶うことを願っている。

塚口サンサン劇場待合室の装飾(筆者が2021年12月4日に撮影)

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