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クロウリー×アジラフェル二次創作。

走らない約束を、結婚半年目に入ったアジラフェルは夫のクロウリーと交わしたので、どんなに急いでも、競歩レベルのスピードを心掛けている。
その約束を何故かわしてしまったのか、今かなり後悔しているところだ。

「今日に限って、人身事故……。やっぱりタクシーに乗ればよかったかな……!」

大きな回り道になってしまうが、総武線が止まってしまった故に仕方なく、
京浜東北線を使って、秋葉原駅の昭和通り口へ出た。

「クロウリー夫妻、冷蔵庫を買いに行く」


「冷蔵庫が壊れちゃったみたいで、アイスが全部溶けちゃったんだ」

アジラフェルからの着信を受け取ったクロウリーは、ギリギリで納品した3CGアニメデータのコピーをiPad Proにダウンロードしながら「五分で行く」と答え、オフィスから地下駐車場へ降下するエレベーターへ走り込んだ。

金曜の夕方とあって、都内の道路はどこも会社帰りのサラリーマン達で賑わっている。特に渋谷新宿、池袋方面の繁華街はこれからが稼ぎ時だ。
東京に移住するにあたって急遽購入した漆黒のレクサスRC-Fは、英国で乗っていたクラシックタイプのベントレーよりも一回り半はコンパクトなボディではあるが、二人で一ヶ月考慮に考慮を重ねて新車購入を決めた。

F1サーキットでも実戦投入されている481馬力を発生させる大排気量のV8 5.0Lエンジンが搭載され、自然吸気エンジンならではのレスポンスをハイパワーを堪能することができるマシンであり、そして何よりも、六本木や明治通り付近で特に
必要とされる小回りが効く。

新妻であるアジラフェル専用と化しているナビシートで、「この車、やっぱりカッコいいね。スタイリッシュで」と天使が微笑んだ時には、足回りのステアリングラックブッシュ専用チューンドサスペンションと共に、クロウリーの心臓も高揚して跳ね上がったものだ。

秋葉原の某大手電気量販店前に愛車を停めると、いた。

相変わらず遠目からでも目立つ、清楚なプラチナブロンドショートヘアの
女性が、バニラカラーのハーフコート姿で白百合の花のように立っている。

東京エリアも十月中旬に入ると途端に冷たい夕暮れの空気が沈澱するようになり、九月末まではまだまだ、アジア特有の高湿度がまとわりつく暑さに心底弱っていたクロウリーも、やっと持ち前の軽いフットワークを活かし、たびたび外出するようになった。

元々、アジラフェルは人混みを極端に苦手とするので、夏の間は外でデートをする機会もほぼ無かった理由もある。

新宿渋谷より秋葉原を選んだのも、再開発途中でビジネス街へとすっかり変化した千代田区内の方が、酒飲み連中とは遭遇しにくい場所を優先させたからだ。

「エンジェル!」

昭和通り改札口から歩いてきたであろう彼女に、運転席から手を振って呼ぶと、不安げだった小さな顔に安堵が広がる。

この瞬間を目に映すのは、何よりの喜びだ。

「クロウリー、ごめんよ。仕事が大変なのに」
「さっき、納品が終わってな。ちょうどお前をディナーに誘おうと思っていたところだ。今日は何か食べたか?」

彼女の為にわざわざ席を立ってナビ側のドアを開け、愛用するヴァレンチノのサングラスを外すと、少し青白い顔色の愛する妻は、「私も脱稿したばかりだから、昨日の夜から何も食べられなくて」と弱々しい微笑みが溢れる。


「お疲れさんだったな」
「クロウリーこそ」

相変わらず、ノーメイクでも凛とした美貌に内心ため息をつきつつ、その滑らかな頬に軽くキスを落とすと、恥ずかしげながらも同じ場所にそれが返ってきた。

「裏手にパーキングがある。そこに停めてヨドバシの上へ行こう。晩飯は何にする?」
「秋葉原って、最近全然来てないんだ。ガンダムカフェ無くなっちゃったし」
「ああ、街並みもあの頃とはかなり変わったしな」
「ここからだと、神田と……、四ツ谷とか赤坂見附が近いんだっけ」
「赤坂に行くか。あそこなら静かに食える店が色々ある」

冷蔵庫は、料理担当のクロウリーが率先して店員に質問を重ねた。

希望容量とサイズ、野菜室と冷凍室を広く使いたいこと。なるべく、プラズマクラスター対応機種で空間の殺菌が可能だと、なお良し。

日本語での日常会話にはほぼ困らない夫の背後に、ちょこんと並び話を聞いていたアジラフェルは、「新車を買った日もこうだったなあ」とのんびり思い出していた。
 

結婚式を二ヶ月後に控えていた春、クロウリーがアジラフェルの部屋を訪れて
「車を買うつもりなんだが、奥様のご希望は?」とフローリング上に敷かれたボアのラグマットにあぐらをかく。

「ハチロク!!」
「言うと思ったぜ。でもなぁ、残念ながらもう、お前が今連想している黒白のパンダトレノはとっくに生産停止になって市場にはないんだ」
「えっ、そうなのかい!?」

最新型のハチロクはこれ、とクロウリーが自分のiPad Airにて見せてくれた車は、
かつて多くの「頭文字D」ファンが胸を熱くした「藤原とうふ店」のデザインではなく、2023年風に近代的なデザインへとクリーンナップされた車体だった。

「う〜ん、カッコいいんだけど、これは既に私達の愛したハチロクじゃないね」
「俺達が愛したハチロクは死んだ! 何故か!」
「……RX-7も、もう8しか買えないんだよね。ネットで読んだ」

この頃になって、実はアジラフェルはかなりの内弁慶な性格であり、慣れている人間の言動を華麗にスルーするタイプなのだと、クロウリーは知った。

「しかも8はロータリーエンジンじゃあないからなぁ。デザインと足回りの軽さで同じMAZDAなら、俺はロードスターを推す」

ふむむむ、と考え込むアジラフェルは風呂上がりで、桜の花を思わせるふわふわな淡いピンクホワイトのパジャマに、もこもこ生地のカーディガンにソックスを身につけていた。
ちなみに、結婚まではプラトニックを貫こうという意見が一致したのと、アジラフェルは超箱入り娘な上に、いまだに男性に免疫がなく、婚約者であるクロウリーとも軽いキスしか経験が無い。

それでも、クロウリーは幸せだった。結婚まで到達するのに一年半。
ネットでアジラフェルの作品に心を奪われてから、ほぼ七年が経過している。

「お前、今夜は徹夜か?」
「ううん、もうひと段落ついたから。クロウリーは?」
「明日はやっとオフだ。はあ、やれやれ。なぁ、昼過ぎに駅向こうのリニューアルしたスパにでも行かないか?」
 
クロウリーが立ち上がり、キッチンへ行こうとするのにアジラフェルが「あ、私はホットココアで」とオーダーをする。

元々、この部屋はアジラフェルが日本を終の住処と決めた時に、思春期を過ごした京都から移住し、そのまま十年以上ホームとしている低層マンションだ。契約した時に新築だった為に、まだバスルームやトイレもそれほど古くは無いが、ワンルーム故にキッチンがとにかく狭い。

八畳間のリビングも四方をキツキツの本棚に囲まれていて、クロウリーは地震のトラブルを心配している。
下目黒の便利な立地条件から、スペースの割に家賃が高い。

アジラフェルと交際をスタートさせた直後に、クロウリーはすぐ近くの十階建て新築マンションの最上階を賃貸で仮の住処とした。
このマンションとは「スープの冷めない距離」にあり、その言葉通りに、実際暖かな料理を運んでは、徹夜明けでろくに食べずに一日中横になっているアジラフェルに手料理を届けることが多かった。

近々、二人の新居とする一軒家かマンションを見つけなければならないが、思い出深いこの部屋を、しばらくアジラフェルは手放せないだろう。

長身のクロウリーがやっと、一人で立てるキッチンの小さな冷蔵庫を開けると、
クロウリーが買い置きしているビールや食材、フルーツなどが密に収納されている。

そこから低温殺菌牛乳のパックと、駅前の自由が丘ガーデンで入手したスコッチウイスキーを取り出し、それぞれをグラスに注ぐ。

「ねぇ、GT-Rって値段は高い?」

リビングのラグに横になって液晶画面を見つめている婚約者は、創作仕事の疲れが溜まっているのか、既に半分夢の世界に入ってしまっていた。

「そんなに高級車じゃないが、良い車だぞ。なんだ、『湾岸ミッドナイト』か?」
「レイラの車だったでしょ。白いタイプ」
「そうだったな。近々、試乗に行ってみるか?」

レンチンしたミルクにココアを混ぜ、手を差し出してきたアジラフェルに
マグを持たせず「熱いから気をつけろよ」と、クロウリーはそのなだらかな背中を覆うように横になる。
アジラフェルからは、ロクシタンのオスマンサスオイルの香りがした。

「……私、まだ自分が結婚するなんて、全然実感がないよ」
「別に良いさ。まだ三ヶ月あるんだ。それに俺達はまず新車よりも、
新居について話し合うべきだろ?」
「そうなんだよね……」

iPad Airをフローリングに置いたアジラフェルは、クロウリーの痩身の胸の中で反転して、二人は視線を合わせる。色素突然変異症の金色の瞳のクロウリーと、
アジラフェルの空色のそれが深く混ざり合った。

「なんだ? 式を延ばすか? どのみち招待客はうちの会社から三人と、アナセマ夫婦だけだ。お前の気持ち次第だぞ」
「ううん、予定通り六月に挙げたい。だって私はまた、仕事でズルズル延期を重ねそうなんだもの。クロウリーは早く終わらせたいでしょう?」  

不安気に揺れるペールブルーの視線を受け止めつつ、クロウリーは婚約者に優しい口付けをして、リングの輝く薬指へ自分の長い指を絡ませた。

絵を描く作業の邪魔にならないよう、シンプルなプラチナにアクアマリンとダイアを小さくカッティングした物だ。

「俺は……、本音を言えば早く夫婦にはなりたいが、一番はお前の気持ちだ。
急ぐ必要はないんだし、気楽に行こうぜ。俺はお前のスピードに任せる」
「……でも私も二年後には三十だし。子供とかどうしよう」
「おいおい、結婚式もまだなのに。運転の速さは俺の得意技だろう?
そんなに次から次へと問題提議をするもんじゃない」
「そうなの?」
「そうとも。それにしばらくは二人だけで暮らしてみるのも良いだろ?
俺にお前を独占させてくれよ、天使様」

告げる前に、キスで封印された反論と疑問は、そのままアジラフェルの 胸の奥に封印されている。

「なぁ、お前はどっちの色が良い?」
「えっ、」

中型サイズの冷蔵庫の前で、店員とクロウリーがアジラフェルを見つめていた。

「ああ、えっと……。前のより結構大きいね」
「これなら、俺が作り置きした料理を冷凍庫に色々入れられる。
少なくとも、お前が飢え死にしないくらいにはな」  

アジラフェル専用の料理長の判断に、一切の狂いはないだろう。カード一括で代金を支払い家への運搬日を指定して、フロアにいた老若男女の熱い視線を独占していた若い夫婦は、そのまま腕を組んで建物を出た。

「赤坂の、日本料理屋で良いか?」
「うん」



寝不足で半分、意識飛ばしながら描きました〜



 


今回は月曜祝日の締切なので、なんとか間に合いました!! 残念ながら秋の三連休、後半は雨でしたね……。
急激に寒くなったので、楽天マラソンセールのもこもこブランケットと、ロングソックスを買ってしまった。

一人分のおせち、今年はどうしようかなあ。あ、その前にクリスマスケーキだ!予約!


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