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vol.1 けいちゃんのこと

私は中1の頃から暫く、返事のない手紙を書き続けてたことがある。

その宛先がけいちゃん。

ピアノのヤマハ音楽教室「ジュニア専門コース」で一緒にレッスンを受けてた仲間のひとり。

頭が良くて、おしゃれが好きな可愛らしい子。

ピアノに対してもすごく真面目に向き合う子だった。

毎週木曜日がレッスンなのに、火曜日くらいから漸くエンジンがかかって、そこからいそいそと譜読みを始めていたような私とはわけが違う。


レッスンに顔を出さなくなって、学校にも行っていないと聞いて

何かできることがないかと思った時に

手紙を書くしか思いつかなかった。

元気になってね、とかあまり書かない方が良いと分かって

最近のレッスンの様子とか、テレビの話とか

他愛もないことばかり書いていた。

何度か年賀状をくれたことはあったけど

手紙の返事は一度もなくて

返事をくれることを求めてた訳ではないから別にいいのだけど

ずっと一方通行で

よくそんなに書くことがあったなぁ、、、と

今では思う。

ピアノの先生伝手に、

「手紙が届くととても嬉しそうにしてる」

と、けいちゃんのお母さんが話していた、と聞いて

内容はさておき、書き続けることが大事なのかなと思っていて

子どもながらに頭をひねって、ない知恵をしぼって

書き続けてたのかもしれない。

隣の駅に住んでいたから

住所を頼りに、地図を持って

1度自宅に手紙を持って行ったこともある。

インターホンを押しても誰も出てこなくて、

会えなかったけれど、郵便受けに切手のない手紙を投函して帰った。


月1回くらいだった手紙は

少しずつ間隔が空くようになって

最後にちゃんとした手紙を書いたのは私が大学生の時、、、かなぁ。

うろ覚え。

3年前に、先生と一緒にレッスンを受けてた仲間とで

集まることになり

直前に案内を出した時に

けいちゃんの名前を書くのは

何年振りかなあと思ったけど、

その時も最後の手紙がいつだったか思い出せなかった。


でも私が20歳のころに

カゼのうわさで、大検をとって大学に行こうとしてると聞いて

なんか、時は流れたんだなあとしみじみ思った。

あっという間に受かったと思う。

頭良かったもん。


けいちゃんは私よりひとつ下、だから今年で32歳のはず。

今頃どうしてるかな、と時々ふと思う。

他愛のない手紙をまた書こうと思えば

いくらでも書けそうなのだけれど

なんとなく

もう今ではその手紙も必要なくなったような気がしている。


どうか幸せでありますように。

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