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【鉄道模型】異常なまでのオークション価格高騰の理由は?

最近、たまに見かけるネットオークションにおいて、一部の外国型鉄道模型の価格が高騰しておりますが、そのあまりの高騰ぶりに驚きを禁じ得ません。上がり方が半端ではなく、例えば新品価格が7000~8000円程度だった客車1両が、その倍の15000~18000円にまで跳ね上がっているのです。セットとなると40000円以上、物によっては50000円を超えている商品もあります。これはちょっと尋常ではありません。

ただ、ネットオークションにおける中古品の価格高騰は、別に今に始まった話ではありません。それこそ20年前から、日本最大手のヤフーオークションでは、ファン同士で熾烈な戦いが繰り広げられておりました。商品の状態にもよりますけど、希少価値が高いものほど、値段が高騰するのは今も昔も変わりません。では鉄道模型、とりわけ欧州型鉄道模型における「希少性」とは何が基準になるでしょうか。

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ヨーロッパにおける鉄道模型大国は、今も昔もメルクリンを筆頭に数多くのメジャーメーカーがひしめき合うドイツであることは間違いないでしょう。鉄道趣味人口も多いドイツは、発売される車種も桁違いに多く、昔から手に入らない車両はない、というほどに製品も充実しています。人気の車種は、複数のメーカーから競作で出されることもしばしばあります。それだけに、多くの量産品が市場にあふれ、よほどの珍しい車種や特注品でない限りは、比較的安価に手に入れられました。ドイツ以外では、スイスや英国もファン人口が多く、模型の車種も豊富です。オーストリアには、今もメジャーメーカーの一つに数えられるロコがあり、オーストリア型もそこそこ製品が充実していました。

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その一方で、ファン人口が多く、比較的人気が高いにもかかわらず、かつては模型製品に恵まれなかった国がフランスで、TGVのような人気の車両も、子供向けの玩具のような製品ばかりでした。イタリアやスペインも同様で、イタリアの場合はリマやリヴァロッシといったメジャーメーカーがありましたが、1980年代中頃までリマはトイライク(玩具風)な製品が多く、リヴァロッシは若干オーバースケール気味でした。ラテン系の国々の愛好家は、当時それほど恵まれた環境にはありませんでした。

しかしそれ以上に不遇と言えたのが、ベネルクス三国や現在の中・東欧諸国です。ほとんどの車種が製品化されていなかったり、製品化されていても出来が悪いものが多く、特注品の価格は非常に高価でした。それでも愛好家は、当時慣れない通販や、現地の模型屋で通じない言葉に四苦八苦しながら収集をしていました。

約20年前のネットオークションにおける高額落札商品は、その多くがこうした入手難の地域の製品でした。ドイツなどと比べると、ファン人口が少ないので、入札する人の数は少ないのですが、入手難易度や希少性もあって、その少人数で競り合うというのが日常でした。

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当時、まだきちんとした製品がなく、常に競り合いが発生していたリヴァロッシ製の伊グランコンフォルト型客車は、私も何度か参戦して、だいたい1両8000~8500円程度で落札していたと記憶していますが、一度、同時に競り合っていた知人に尋ねたら、限界価格が100円違いで、だいたいお互いの相場が似通っていたようでした。プラスチック製の客車1両に出せる限度額は、いくら希少価値があると言っても、せいぜい8500円が上限でしたから、私の場合は一度入札して、それでダメなら諦めていました。

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ところが21世紀に入ってしばらくすると、新興メーカーが進出してきました。今ではメジャーメーカーの一員となった、A.C.M.E.やLS Modelsの台頭です。当時はHerisが、これらの新興メーカーをまとめる役となっており、イタリアやフランス、ベネルクスといった、模型業界においてはマイナーな地域の車両を次々とリリースし始めました。ちょうど同じ頃、日本でマイクロエースが出てきて、同じようにメジャーメーカーが手を出さなかったようなマイナー車種を製品化する、という状況に少し似ていました。これまで、あまりにマイナー過ぎて、製品を期待されることなど遠い遠い夢だったような車種までが予告に上がり、それが実際に製品化されると、ファンは狂喜乱舞しました。とりわけ、一般的に見て大量に売るのが難しい食堂車や荷物車、寝台車などがリリースされ、驚きの連続でした。

これらのメーカーは、当初ディティールを適度に省略したような安っぽさが特徴でしたが、それでも製品化されただけマシという状況でしたから、たいていのファンは目を瞑っていました。今しか知らないファンが見れば、「なんだこりゃ」というような出来だと思います。その後、この十数年で精密・高級路線へと舵を切り、今では旧メジャーメーカーの製品よりも細かい仕上がりが特徴となっています。

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上記の国々の製品が売れていくと、次に矛先が向かったのは中・東欧地域でした。これまた、今まで製品化に恵まれなかった地域ですが、そもそもほんの数十年前までは鉄のカーテンの向こう側、趣味で鉄道を楽しむような地域ではありませんでしたが、今は自由に旅を楽しみ、鉄道を趣味とする人たちも増え、次のターゲットとして白羽の矢が立ったというわけです。

さすがにこの頃になると、メジャーメーカーもこうした地域を無視できなくなり、メジャーメーカーまでもがかつてのマイナー地域の車両を製品化するようになりました。この辺も、日本のカトーやトミックスがマイナー車種に手を出す図式とちょっと似ていて、非常に興味深いものがありました。

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ただし、昔と今で決定的に違うことがありました。発売された車両の多くが初回きりの生産で、再生産がなかなか掛からないことでした。しかも、1回の生産数があまり多くなく、店頭に並んでいてもすぐに売り切れてしまうため、手に入れる機会を逸してしまうと、当分の間は手に入れられない可能性があるのです。通常、金型を作るのにかなりの金額が掛かるため、1回のロットで大量に生産するのはもちろん、その金型を使って何度も焼き直しの製品を販売するのが一般的で、例えばロコから発売されているUIC-Z型客車は、改良を重ねながらすでに30年近く型を使い続け、今も塗装違いの新製品が発売されています。

ところが新興メーカーは、なかなか再生産をせず、新製品として発売されてから一度も再生産をしていない製品もあるほどです。それどころかメジャーメーカーですら、最近は焼き直しの頻度を極端に下げ、中には一回きりの生産というものもあります。マイナーな車種の場合、確かに売れ残ってしまうリスクがあるため、生産数を少し絞る必要があるのは分かりますが、最近は特に生産数が少ないと感じることが多いです。

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今回のタイトルである、オークション価格高騰の元凶の一つはここにあります。新製品でさえ、うっかりしていると買い逃すリスクがあり、しかも一度買い逃してしまうと、二度と手に入らない可能性すらあるのです。オークションで、軒並み高騰している製品の多くは、確かにしばらくは再生産が期待できないかな、と思うような製品・車種が多いようにも感じます。そういった危機感が、入札者にクリックを促している側面があることは否定できないでしょう。

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しかし、中には「新製品予告が出て、旧製品をオークションに出したな」と思われる製品に入札が入っていることもあります。これはよくあることで、新規金型の完全新設計の新製品が出る、という情報を掴んで、手持ちの旧製品を売りに出すということです。もう昔の話なので良いと思いますが、私もそれで、新製品を普通に買ってお釣りがくるくらいの価格で旧製品の売却に成功したことがあります。今はインターネットが発達し、皆さんも常にアンテナを張り巡らせているでしょうから、余程の情報弱者じゃない限り、こういったトリックに引っ掛かることはないと思いますが、それでもたまにそういう事例があるようです。

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あとは、LS Modelsの金型の一部が使えなくなり、旧製品の再発売が困難になった、というのも理由の一つかもしれません。これは有名な話ですが、同社が生産を委託していた中国の生産工場が倒産し、その際のごたごたで会社の資産である大事な金型が紛失、もしくは破損で使用不能になる、という事態が発生、過去に流通していた製品の再生産が現状では困難になった、というものです。その後の同社の努力で、一部の金型は手元へ戻り、また破損したもので可能なものは修復したそうですが、今も再生産の見通しが立たない製品もあるようです。これはもう、メーカー側は完全にとばっちりですが、金型などの資産管理はきちんとしておかないと大きな損害に繋がる、という例でした。

ともあれ、そんな諸々の事情を知ってか知らずか、今もオークションで一部の製品がとんでもない価格となって流通しています。ただ、希少価値が高いというのは分かりますが、少々熱くなり過ぎていることには、いつも疑問を感じています。

ここからは、人生の8割以上、約40年という長い鉄道模型人生を歩んでいる私の経験を基に、あくまで私見として述べさせてもらいますが、これまで何年かの周期で、手に入れられなかった「あのモデル」が新製品として再び発売される、というのを何度も繰り返してきました。なのでどんな製品であれ、今買い逃したとしても、この先手に入れることができる可能性は0ではないと常に考えています。

オークションで入札するときも、そのことをちょっとだけ頭の片隅に置いて、冷静さだけは失わないようにした方が良い、と助言をしておきます。前述した8500円で落札したあの客車、その数年後に完全新設計で、1両7000~8000円程度(当時)で発売されました。頭に血が上って、もし15000円で落札するようなことがあったら…と思うと、恐ろしいものです。

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ですが、どんな犠牲を払っても、今すぐ入手したいということであれば、それはご自身のお金のことですから、私がとやかく言う話ではありません。そのお金の価値にきちんと見合った、「満足感」を手に入れることができたのなら、落札者本人にとって十分安い買い物と言えなくもないですから。

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