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放送局とAPS

APS(APCとも)…放送自動運行装置のことで、放送局の中核のシステムといってもいい。これがあるおかげで、放送局は決められた時間に決められたCMを放送し、スタジオからの生放送を送出し、録音番組を無人で再生することが可能となっている。しかし近年「APS」を採用せずに開局してしまう放送局が増えていて、割と深刻な問題が起き始めている。なぜAPSが必要なのか。ちょっとまとめてみる。

APSは高い

これがAPSを採用しない最も多いな理由だったりする。国内のコミュニティ放送で多く採用されているのは、SCA社のDADやHarmony、ミウラのOnAir/Allionあたり。あと少数ではあるが藤島放送技術研究所のTinyCAPSなども採用されている。TinyCAPSはそこそこ安価ではあるものの、導入実績の面でやや不安視され、だいたいSCAかミウラのどちらかが第一候補として挙がってくる。しかし、どちらも「ざっくり500万円くらい」かかるので、これは社員1~2名分の1年間の人件費に相当する。これだけ高額だと、必要性を感じていなければたしかに購入を躊躇してしまう理由にはなる。

APSがないとどうなる?

「自動放送ができない程度なら、スタッフが手差しすればいいだけだから問題ない」とタカをくくっていざ開局するとあることに気がついてしまう。曰く「放送スタジオが常にオンライン」になっているという事実。APSがない場合、スタジオ内のミキサーは直接「送信機」とつながっているため、ミキサーの出力=放送になってしまう。番組進行中はまだしも、番組前後のSBなどの時間帯でも、マイクが上がれば容赦なくその声が放送されてしまう。

そして最大の問題が「番組やCMの録音ができない」こと。なにせスタジオ内のミキサーを通った音はすべてそのまま放送に乗ってしまうので、せっかく防音室を作ったにもかかわらず、録音番組やCM放送に使えない。番組が編成されておらず、音楽だけを流している時間帯も、ミキサーはオンラインだからほかの用途に使うことができなくなってしまう。そんなにCM出稿や番組出稿がなければ問題ないのだけど、そもそもそれだと放送局の経営状態は一気に傾く。つまり

CM出稿が少ない・・・スタジオ使用頻度は低いからAPSはなくてもいいけど経営的に詰む
CM出稿が増える・・・CMを録音しなければならないのに録音に使えるスタジオがなくて詰む

という、どちらに転がっても「詰み」という状態になってしまうのが明白だったりする。

APSがあると?

APSは送信機に送るための音声(テレビ局の場合は映像も)を選択してくれる便利な機器で、CMや録音番組など「あらかじめ録音されている音声」はスタジオのかわりに勝手に放送してくれる。このとき、送信機と放送スタジオは論理的に切り離されている(APSがスタジオの音声を選択していない)ため、スタジオでどんな音を流そうが、送信機には届かないのである。つまり、この時間帯は完全に「フリー」な状態になるので、この時間帯を利用して、CMや番組の収録が可能になる。「ミキサーが送信機から切り離せる」のは、実際に現場にいるととてつもなく「ありがたい」状況であることに気づくだろう。

CM放送

CM(や録音番組)は通常「契約によってあらかじめ決められた時刻に放送」が必要である。また、時報や定時情報(ニュースや天気、俗にいう「N天交」)は比較的スポンサーをつけやすいことが知られていて、スポンサーに悩む放送局はまず「この枠」を売りつけに行く。ただし、STLが貧弱な場合、そもそも演奏所まで音声を送るのにタイムラグが発生するので、正確な時報が出せない場合がある。この時でも、「べつにトーンを流す必要はない」と割り切ってしまえばいい。実際もうテレビ局は時報流してないしね。

コミュニティ放送などで交通情報は厳しいかもしれないけど、たとえば天気予報とかニュースは、大きな事件や事故等がない限り、少し前に録音しておいたものを利用しても全く問題ない。(実際私が某民放にいたころは、dねしゃの都合で20:55に放送するニュースは録音だったのだけど、それを19時台に録音して帰ってしまう契約Annがいたもんです)。天気予報も、気象庁発表のものを使うなら、午前午後の、それぞれ5時と11時に更新なので、災害でもない限り頻繁に取り直す必要もないし、これこそ録音で構わない。あ、ちなみにいまOffice Stray Catでは、気象庁のデータから自動的に天気予報の原稿を生成するサービスを無料で提供中です。もちろん放送にも使えます。

送信機とスタジオの間にはなにか挟め

自動放送したいだけなら、スタジオ内のPCにRadioDJあたりを導入すればあっさり解決できるけど、結局「ミキサーがずっとオンライン」の状態には変わりがないので、メンテナンスとかのことを考えても、やっぱりミキサーをオフラインにできるタイミングはあった方がいい。前出のTinyCAPSなんかは本当に安い(らしい)ので、まだ少しでも(経営的な)体力が余ってるなら導入を検討するべきだし、もっと安いのが良ければウチのvMix-APSやRadioDJ-OBSといったAPSモドキもご利用いただけるので、ぜひご相談・ご検討を。(ここまで読んでいただいた賢明な読者ならお判りいただけたと思いますが、これは宣伝でした)

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