R・I・S・K②

小学6年生の頃、竜次は洋次や中学生の不良グループの連中と一緒に、暴力教師の大瀬を空き地に呼び出し『集団リンチ』した。
その際、大瀬を金属バットで殴り『半殺し』にしてから、竜次は同じ夢を毎晩見てうなされるようになっていた。
暗闇の底から、竜次に語りかけるような、うめくような低い声。自分よりはるかに大きな黒い影。
そして…、
その間、浮かんでは消える、文人の泣き顔…。
「うるさいっ…!」
この日の朝も、竜次は自分の叫び声で目を覚ました。最悪な気分で。
シーツや枕は、身体じゅうにかいた寝汗で、びっしょりと濡れていた…。
ーーまたかよっ…! クソッ、いい加減にしてくれっ…!ーー
竜次はだるそうに起きてから、シャワーを浴びた。

中学生になってから、竜次と洋次は、少しずつ司に対して疑問と不満を持つようになっていた。
前の番長が引退し、当時の2年生が引き継いだ直後、『不意打ち』に遭った事も、
「もしかすると司の仕業ではないか?」
と思い始めていた…。
だが、司の方が1年先輩で、他校の不良グループの間で顔が知られている事もあり、逆らった連中がどういう目に遭うか知ってしまったので、我慢せざるを得なかった…。
ーー一時の恨みや憎しみを晴らす為に人を傷付けると、後で自分にはね返ってくる、かぁ…。まいったな…ーー
好美の言葉が、今頃になって洋次の頭の中で駆け巡っていた…。


1学期終わり近くになったある日、司の知り合いの不良達が、司を尋ねてきた。
「どうした? お前、顔腫れ上がってんぞ…?」
見ると、不良達は皆、あちこち怪我をしていた。
「どうもこうも、街でカツアゲしてたら、髪の長い男と、2人の女が現れてよ〜っ…」
話によると、その不良達がいつものように街でカツアゲしていた最中、3人組が現われ、皆、倒されたらしい。
「…お前ら、10人近くいたんだろっ? それを、たった3人にかっ?」
その話を聞いていた司は、最初信じられず、ゲラゲラ笑い始めた。
「おいっ、司っ! 笑い事じゃないぞっ! 中でも、髪の長い男が、たった1人で半分以上のしちまったんだっ! しかも、司の事知ってるらしくて、文句があるなら、お前に伝えておけって…!」
「何だとっ…?」
司はそれを聞いて、表情が変わった。
「おい、どんな奴等だったか、詳しく聞こうじゃないか…」
「おいおい、司〜。そんな話まともに…」
笑っていた仲間の1人はそう言いかけ、司の表情を見て、ゾッ!とした。

不良達が帰った後、入れ違いに竜次と洋次が司のところに来た。2人は、司の表情がいつもと違うので、周りにいた仲間の1人に、何があったのか聞いた。
「どうやら、司を目の敵にしてるヤツラが現れて、知り合いの不良達を倒したらしいぜ…」
「まさか…」
竜次と洋次は半信半疑だった。だが、司を見ると、何かに怯えている様子だった。


夏休みに入ると、司の知り合いの不良達が、次々と倒されるといった事が続いた。
いずれも3人組の男女で、特に、髪の長い男が、かなり強いという噂が拡がった…。
その男は、背中に虎の刺しゅうが入った青い特攻服を着ていて、獰猛な虎のような鋭い眼つきをする事から、いつしか、『Dark・Tiger』(ダーク タイガー)と呼ばれるようになり、不良達に恐れられる存在になっていた…。

司は、この事態を黙って見過ごすワケにはいかなくなった…。
仲間達を空き地に集め、対策を練っていた。
「そいつら、何か弱点はないのかっ?」
「それが、俺らがナイフ振りかざして向かっても、顔色一つ変えずにかわして、逆にこっちがノックアウトされて…」
「俺も、街で修学旅行生相手にカツアゲしようとしてたら現れたから、近くにいた仲間と一緒に取り囲んだけど…」
3人組に倒された連中が、司のもとを尋ねて来ていたので、司は詳しく話を聞いていたが、弱点は見当たらなかった。
「おい、司っ。お前、もしかして、とんでもねぇヤツに逆恨みされてるんじゃないだろうなっ…!」
「そんなの知るかっ…!」
司は、連中が帰った後、竜次と洋次を空き地に呼び出した。
「お前ら、噂は聞いてると思うが、例の3人組の正体、暴いてこいっ! 場合によっては、再起不能にしてもかまわんっ!」
「あの3人組を、ですか…?」
「そいつら、かなり強いって噂じゃないっすかっ…。俺達じゃ、勝ち目あるかどうかっ…」
「何だっ、お前らまでっ! いいか、このまま野放しにしてみろっ、俺の立場が危うくなるんだぞっ! お前らだけで不安だったら、俺の知り合いにも協力させるから、何が何でも暴いてくるんだっ! わかったなっ!」
竜次と洋次は気が進まなかったが、司にそう命令されたので、仕方なく、3人組がよく出没するという場所で待機する事にした。

辺りが薄暗くなった頃、司の知り合いの不良達が囮になり、地方から来た修学旅行生を取り囲み、カツアゲしようとしていた。
ーー…こんな事やってる風間さん達の方が、よっぽど悪いと思うんだけどな…ーー
竜次は、司の仲間になっている自分や仲間達に、嫌気がさしていた。
ーーあの時、文人の言う事聞いて、やめとけばよかったのかもな…ーー
そう思っていた矢先、仲間の1人が突然、叫び声を上げた。
「おいっ、ヤツラが来たぞっ!」
「えっ…?」
竜次と洋次が駆けつけた時、不良達に立ち向かう3人組の姿があった。
中でも、『Dark・Tiger』と呼ばれている男はかなり強く、1人で十数人近くいた不良達を、あっという間に倒していった。
男は、リーダー格の少年を見つけると、グイッ!と髪を掴んだ。
「いいか、お前ら、いい加減にカツアゲとかやめないと、こっちにも考えがあるって、風間にそう伝えろっ…!」
男は、ドスの利いた低い声でそう吐き捨てると、2人の女と一緒に立ち去ろうとしていた。
「おいっ、待てっ…!」
竜次が、とっさに3人組を呼び止めると、その3人組は振り向いた。
ーー…あれっ…?ーー
2人は、見覚えのある3人組の顔を見て、一瞬、我が目を疑った。
そして、次の瞬間…、
顔からサーッと血の気が引いていった。
ーーまさかっ…?ーー
青い特攻服の男の顔は、好美にそっくりだった。
他の2人も、どこかで見覚えのある顔だった。
「おい、竜次、どうする…?」
「今更、後に引き下がれるワケないだろっ…!」
2人は雄叫びを上げながら、その3人組に立ち向かっていった。
だが…、
一矢報いる事すら出来ぬまま、一瞬のうちに、2人とも男1人に倒されてしまい、気を失ってしまった…。

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