見出し画像

ピアノ組曲 « Cahier d'esquisses » – プログラムノート

四季の印象を綴る — Cahier d'esquisses (2006)

〈現代の音楽展2007 ― 現代ピアノ・ワークショップ・コンサート〉にて初演。第2曲及び第3曲は、それ以前にロシアのグネーシン音楽学校からの依頼で作曲したもので、2006年に第1曲と第4曲を追加して、“スケッチ帖 (cahier d'esquisses)”の表題のもとに組曲とした。

■第1曲「プレリュード・アラベスク」Prélude arabesque

簡素なロンド形式に、典型的なII-V-Iのカダンスを終止に用いつつ、中間部に無調的脱線を絡める。左手と右手がほぼ一貫して異なる連符で動くため、楽曲の印象とは裏腹に正確に演奏することはかなり困難である。

■第2曲「アリア …春風の中で」Air: ...dans le vent du printemps

気まぐれに舞う春風の印象を感傷的な旋律と和声で描く。楽譜はハ調(主音C)であるが、旋法作法のために即座に近隣調の色彩にずれ込み、減五七の和音進行が予期せぬ風向きの変化を生んで足元の裳裾を絡ませる。

■第3曲「シャンソネット …波と夏の海の微風」Chansonnette: ...les vagues et la brise sur la mer d'été

夏の海岸の印象。水平線の彼方から寄せ来る波の飛沫と一瞬通り過ぎる浜辺の微風が中間部で描かれる。

■第4曲「冬のトッカータ」Toccata hivernale

冬の窓辺に見る景色の映像。雪の精の輪舞から微かに聞こえる子守唄。終結部に至り重苦しい空は晴れ、春の陽光を予感しつつ全曲を結ぶ。

これらの表題から推察されるように、実はもう一曲、秋を題材とする小品があった。«Méditation d'automne»(秋の瞑想曲)といった表題のものだったが、全曲を通した場合のバランス(演奏時間の長さや書法の性格、等々もろもろの事情を含む)を考え合わせて、結果的にはこの曲集から独立させた。別の機会に陽の目を見る機会もあろうかとは思うし、何よりも“飽きない(秋ない)作品”なのだから、これはこのままでもよいのかもしれない。

初演の演奏者・石井楓子さんは当時15歳であったが、作曲者のテクニカルな要求にはかなり正確に応えてくれた。特に第3曲で聴かせてくれた躍動感は印象的であった(残念ながらその頃の音源が手元に存在しないため、コンピュータによるデモ演奏による収録となる)。彼女も今や実力派若手演奏家として羽ばたき、内外で将来を大いに嘱望されている。

==============
欧文表題:
Cahier d'esquisses
邦題:スケッチ帖
編成:Piano
作曲:1999年(第2曲)/2000年(第3曲)/2006年(第1・4曲)
初演:2007年3月4日〈現代の音楽展2007 ― 現代ピアノ・ワークショップ・コンサート〉(東京オペラシティリサイタルホール)/石井楓子(Piano)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?