遠雷にさよなら! 練習 

まずは、ご挨拶

今回は「声劇」に挑戦いたします

当然、ひとりでは出来ませんので
我が劇団から、素敵なゲストを
お招きいたしました

「サトちゃん」
サトちゃんの挨拶

「本日は、よろしくお願いいたします」

タイトル紹介と
キャストの紹介いたします

まずは、私、「カヲル」くんと言う少年の役
そして、サトちゃんが、「楓」さんと言う女性の役


キュー出し
「3、2,1、」
「遠雷にさようなら・・・・」

3秒ほど、間を置いて・・・・

楓 「夢路には 
    足も休めず通へども・・・

   うつつにひと目
    見しごとはあらず・・・」


カヲル 一年振りだな

カヲル お待たせ。待った?

楓  ううん。いま来たとこ
       なぁ~んちゃって(^^♪

カヲル 今日も暑いなぁ・・・。

   まだ、7月だって言うのに
   蝉も、「ミンミン」うるさいし
   夏到来って、感じだよ

楓 そうだね~。
  蝉触るのは無理だけど、
  鳴き声はそんなに
  嫌いじゃないよ

カヲル あぁ、そういえば
    楓は、ちょっとうるさい方が
    好きだったよね

楓 うん。だから夏はすきなの
  昼も夜も、音がたくさんで。

カヲル ま、こんな田舎じゃ、
   何もないから、寂しいよね。

楓  ほんとだよ。
   はぁーあ、
   隣町のショッピングモールとかに
   買い出し行きたいな。

カヲル デートのときに
    電車で、よく隣の町に行ってたよね?
    何かと派手な街だったし

楓  ちょっと離れてるだけなのに
   なーんであんなに違うんだろね。

カヲル  俺も、なんとか学校を、
    卒業した後は
    町を出ようかなって
    思ったんだけど
    中々ね
    踏ん切りつかなくてさ。

楓   地元に残るってのもいいんじゃないの?

カヲル  まあ、転職とかも今更面倒だし。

楓   まーたカヲルの悪いとこ出てるね
    相変わらず、
    めんどくさがり屋さんだなぁ。

カヲル 人の性格とか癖って、
    どうしようもないんだよね。

    カエデもさ、高校の頃、
    クラスメイトのみんなから
    あんだけ「しっかり者」に 
    見られてたけどさ
    雷だけは
    どうしようもなかったもんね。

楓   あっ、あれは

カヲル ふふふ、
    高1の時だったかな?
    台風がきてたから、
    もちろん夏だったと思うけど

    あたりが急に暗くなってきて
    雨も次第に激しくなってきて
    んでもって
    大きな雷が落ちた時、
    授業中なのに楓が絶叫してさ。

    ははは

楓  仕方ないじゃん!
   怖かったんだもん。

カヲル あからさまに、
    いつもより、声が大きかったから
    みんな鎮まりかえっちゃって。

    そのとき、先生がサ
   「雷より君の方が怖いよ!」って言ったら
    みんな大爆笑してたよね。

楓   もう!
    全然、笑い事じゃないよ!

    私だけ、ずっとびくびくしてて、
    あの日は、一日中、
    授業の内容が、
    ぜんっぜん
    頭に入ってこなかったんだから!

カヲル  思えばあれが初めてだったと思う。
     元々、委員長って感じで
     しっかり者で
     近寄りにくい雰囲気があったけど

     あの時をきっかけに
     身近に感じられるように
     なったんだよね。

楓    カヲル、冴えなかったからね。
     暗かったし

カヲル  でも、おかげで俺からも
     話せるようになって、
     すこしづつ、接する機会が増えてって

     照れくさいんだけど
     気づいたら「好き」になってたんだ。

楓    ちょ、急にさらっと言わないでよ
     なんか恥ずかしい。

カヲル  でさ、楓がいろいろと
     言ってくれたおかげで
     俺は、だんだん変わってきたんだよ
     
     なんで、この人は俺に対して
    ここまでしてくれるんだろう
    って考えてね

     実は、この人
     俺のことが「好き」なんじゃないかって
     ちょっと意識するまでに
     1年もかかっちゃってさ。

楓   ほんと、待たされた。
    こっちは4月に会った時から
    その気があったって
    いうのにね。

    だけどネ、
    待ったかいはあったのよ。

カヲル  学年でも人気があって、
     そして、皆に愛されるタイプの子に
     少しぐらい優しくされたくらいで

     もしかして俺に気があるのかな?
     なんて思うのは、
     それこそダメな思春期男子の
     思い上がりかとも思ったけど
     だけど、もう関係なかったんだ。

     (俺が楓を好きになってたから)
     だから、2年に上がる前に、告白した。

楓   もう、なんとなくオッケーするって
    分かってたのに、
    お互い緊張してたよね。

カヲル だけどさ
    あの時のことを思い出すと
    今でも「ドキドキ」するよ。

楓   でも、私は嬉しかったよ。

カヲル 「俺と付き合ってください!」って。
    それだけだったんだけど
    
    えらく時間がかかっちゃって。

楓   私も、「はい」って答えるだけなのに
    なかなか口が
    上手く開かなかったな。

カヲル  楓の返事が返ってくるまでの間も、
     本当に時間が長く感じたよ

     自分の心臓の鼓動が
     めちゃくちゃ響いてくるのよ
     
     でさ、大げさなんだけど
     桜の花びらがね
     落ちる音が聞こえた気がしたんだ。

     楓の瞳から、目が離せなくて
     まつげが震えてるのが分かって、
     あぁ、楓も緊張してるんだなっ
     て思ったんだ。

楓    カヲルなんて、
     耳まで真っ赤だったじゃない!(笑)
     無駄に背筋がぴんとしててサ、
     もう、緊張してるのが
     まるわかりだったよ。

カヲル  返事を聞いて、安心して。
     二人とも詰まってた息を吐き出した。

楓   長く感じたあの瞬間も、
    ホントは、
    すごく短い時間だったんだろうなぁ

カヲル そして、二人して笑い出した。

楓   だって、なんだか
    急に面白くなっちゃったから。

カヲル 込み上げてくるものを我慢できなくて、
    しばらく二人で笑ってたよな。

   その時思ったんだ。
   この先の人生で、
   こんな風にお互い笑いあえる時が
   たくさんあるといいな。
   ずっと一緒に、居られたらいいなって。

楓  私も、そう思ってた。

カヲル 始めてデートに行ったのは、
    それこそ隣町の
    ショッピングモールだったね。

    せっかくの初デートなのに、
    いつもと変わらない時間、
    変わらない場所で
    待ち合わせの約束だった。

楓   どこでも
   私の行きたいところでいいっていうから。

カヲル 付き合う前にも何度か行った所だったのに
    なんだか妙に緊張しちゃってさ。

楓  カヲルが何回か手を握ろうとして
   タイミング伺ったの、
   バレバレだったよ。

カヲル 結局、俺はやること成すこと
    空回りで、
    全然、カッコつかなかった。

楓  二人とも、なんだか ぎこちなかったね。

カヲル だけど、少しずつ
    そんな雰囲気にも
    慣れていったときに
    気付いたことがあって

  別に、カッコつけなくても、
  ありのまんまの、俺でいいんだって
  分かってさ

楓 その通りなの。
  そんなカヲルだから
  心を奪われたの

カヲル もともと、地味で、根暗で、
    まったく、冴えなくて・・・。

楓  そう・・・。

   出会ったときは、
   地味だったけど・・・、

   だけど、そんな中でも
   素直で、そして、ひたむきで――

カヲル 楓のおかげなんだ。
    最初は、
   「口うるさい女だな」って
    思ったけど・・・。

    たぶん、楓と出会ったから
    俺は、こんなに人と話すことが
    出来るようになったし

    そして、今みたいに
    普通に就職して、
    社会人になんて
    なれなかったと思う。

楓 そんなことないよ。
  きっと私が居なくても―

カヲル それくらい、
    楓との日々が眩しかったんだ。
    俺の歩いてる道は、
    ずっと楓が照らしてくれてた。

楓 ちょっと、言いすぎじゃない?
  嬉しいけど。


(ここで、一旦、停止します)

カヲル だけどさ・・・
    そんな道のりも・・・、
    もう、長くないかもしれないんだ。

楓――え? どういうこと?

カヲル 先日、病院に
    行ってきたんだけど、
    オレ、病気らしいんだよね。

    よく分かんない病気なんだ。

楓  それって、なお―

カヲル 治らないらしいよ・・・。

    全身の筋肉が
    少しずつ、思い通りに
    使えなくなっていくらしい

    もう、余命なんて、
    どうでも良かったよ

楓  嘘でしょ?そんな・・・・。

カヲル 人によって
    経過が違うらしいんだけど、
    早ければ、来年の今頃には、
    入院するかもしれないって。

   だから、
   もしかしたら・・・。

   もう、ここには
   来られないかもしれない。

楓  こ、来なくてもいいよ。
   もう十分だよ。
   諦めないでよ。
   そんなあっさり―

カヲル 医者からは、
    とにかく
    生きようとする気持ちが大事なんだ!
    って、言われたけど・・・。

    俺、その時、思っちゃったんだよ。
    楓が待ってるなら、別にいいかなって。

楓  良い訳ないじゃん!

   私が待ってるのは――
      いや、待ってなんかないの!

   私のことは、もう、忘れて!
   もっと、
   もっと違う人生を――

カヲル ま、こう言うとさ
    楓は怒るんだろうなって
    思ったけど。

楓  当たり前でしょ!

カヲル ふふふ、ほんと、
    楓には叱られてばっかりだったな。

    「もっとしゃきっとして」とか、
    「声を張れ」とか、
     まぁ、あれも、全部、
     俺の為だったんだなって
     今なら理解できるけど。

楓   ち、ちがうのよ。
   
    私が、先にあなたを好きになったの。
    全部自分のためなの・・・・。

カヲル ほんとにさ、凄く眩しかったんだ。

    学校とか日常については
    はっきり言って
    楽しいなんて、
    思ったことなかったし、
    どちらかって言うと
    嫌いなくらいだったけど

    楓と一緒なら
    きっと素敵な毎日が
    送れるだろうって・・・。

    そう思ってたんだ。

楓   もういいよカヲル、
    こんなことしてる場合じゃないよ。

    残りの人生が短いなら尚更――

カヲル 卒業式のあとなんかさ、
    結構、喪失感?みたいなのがあってサ
    自分でもびっくりしてたんだ。 

    朝起きたとき、
    ふと、ハンガーにかかってる制服を見て
    あぁ、もう、
    これを着ることないんだなって
    思ったら、急に、楓を、
    置いてきちゃったような気がして。

楓   違うよ。私がカヲルを
    置いていっちゃったんだよ。

カヲル 楓が居てくれた1年ちょっとの間と・・・。

    楓が居なかった
    残りの学校生活を振り返ってさ・・・。

    もし一緒に居られたなら
    どんなに楽しかったろうって、
    そればっかり考えてたんだ。

楓   私も、カヲルのことを
    思わなかった日なんて、
    1日もないよ。

カヲル  でも、今の俺を創ったのは楓だから。
     俺が何かを思う時に、
     いつだって楓が
     そこにいるような気がしてたんだ。

楓    いるよ・・・・。
     ずっと一緒。

カヲル  でも、どんなにそう思ったって、
     楓はもう思い出の中にしか
     いないんだ。

     やさしい陽だまりみたいな
     思い出をなぞっていっても・・・。

     最期には、道路に駆け出してく
     その背中と・・・。

     そして
     体温を失っていく
     瞳に辿り着いてしまうんだ。

楓    ダメっ―――

カヲル 俺たちのことを
    よく知ってるクラスメイトは、
    慰めの言葉をかけるか、
    そっとしておいてくれたんだけど。

    でも、新聞やテレビは、
    大衆に消費される物語としてしか
    見てくれなかった。
 
    そりゃあ、道路に転がり出た
    ベビーカーを護るために
    代わりに轢かれて死んだ高校生なんて、
    ネタにしないわけがないんだ。

楓   だって、見えちゃったから。

カヲル 皆に頼られる立派な人だったし、
    常に、そうあろうと、
    頑張ってたのも分かる。

    正真正銘、その通りだったのも、
    今じゃみんなよくわかってくれている。

    漫画のヒーローみたいな真似、
  ほんとにやっちゃうんだもんな

    俺も、きっと楓の親父さんとお母さんも、
    そして、
    みんなも、誇りに思ってる。

楓   でも、カヲルに重い荷物、
    背負わせちゃった。

カヲル  だけど俺はそれどころじゃなくて、
     腕の中で冷たくなっていく
     楓の顔が頭から離れなかった。

     何かを言おうとしてるは
    分かったんだけど。
     それさえ、
    聞いてあげることさえ出来なかった。

楓    ごめんね。何も言えなくて。

カヲル  なぁ、ひとつ聞いていいか?
     あの時、なんて言おうとしてたんだ?

楓   もう、喋ることさえ出来なかったの。

カヲル  ずっと、聞けなかったけど
     今になって、やっと聞けたよ・・・・。

楓    特別なことじゃないよ。
     いつも伝えたかったけど、
     普段は口にするのが難しいだけ。

カヲル  俺は、それさえ、
    聞いてあげることが出来なかった。

楓    ありがとう。ごめんね。

     「大好き。」

     それだけ、だったの。

カヲル  いつも、貰ってばかりだったのに、
     最期の最期に、受け取り損ねた。

     せっかく楓に、
     良くしてもらっていたのに、
     パッとしない根っこの部分は
     変われなかったんだ。

楓    関係ないの。
     「あれは、ただの事故。」
     悪い人なんて、どこにもいなくて、
     赤ちゃんも無事だったんだから。

カヲル  おれ、楓から貰ったものが多すぎて、
     だけど、
     なんにも返せなくて。

     これからの時間の中で、
     やっと、返していこうと
     思ってたのに・・・、

     そんな日々は来なかった。

楓    ばか。私だって、
     たくさん貰ってたのよ。

カヲル   最初のうちはやっぱり、
      ずっと、引き摺ってた。

楓    初めてにここに来たときは、
       泣いてばっかりだったもんね。

カヲル  1年経っても・・・、

     2年経っても顔を上げられなかった。

     ただ、ただ、辛いことから
     逃げたいだけで、
     何も考えないようにしてた。

楓    2年目は、何も言わずに
     俯いてるだけだったけど、
     それでも、ここには来てくれた。

カヲル  3年経ってサ、
     楓との思い出が、
     全然色褪せてないことを
     ここに来て実感して、
     やっぱり下ばっかり見てたよね。

楓    あの時が一番泣いてたね。

カヲル  そして、4年目になって、
     やっと楓に謝れた。

楓    謝ることなんてなかったのに。
     でも、やっと話してくれて、安心した。

カヲル  5年経って、
     はじめて今みたいに
     声を掛けられるようになった。

楓    あの時は、嬉しかった。
     昔のことを思い出しちゃった。

カヲル  そうして、今日で13年。

楓    ほんと、立派な大人になったね、
     カヲル。

カヲル  今でも夢に見るんだ。
     並んで歩いて、お互いに笑顔で。

     でも、何かを見つけた楓が
     急に駆け出して、
     手を伸ばすけど届かなくて。

     そして、腕の中で
     冷たくなっていく楓を、
     泣きじゃくりながら見送る。

     目が覚めれば、
     楽しい思い出だって
     たくさん思い出せるのに
     夢に見るのはそこばかりでさ。
     それでも、生きていこうって
     思えたんだ。

     俯いてたら、
     また叱られるって思ったから

楓    知ってるよ。見てたから。
     もがきながら、
     ちゃんと前を向いて生きてたよね。

カヲル  でも、それももう、
     終わっちゃうんだなって。

     だから、ごめんな
     楓の分まで生きたかったけど
     俺の人生、もう行き止まりみたい

楓    だめ、だよ。そんなのないよ!
     生きて!!
     もっと、もっと――

カヲル  中々厳しいよな、運命ってやつは

楓    なんで、こんなことに。

     私は、私は、
     ただ、カヲルに、
     幸せに生きててほしいだけなのに。

     哀しい思いさせて
     ずっと引きずらせたままで
     そんなの嫌なのに
     せっかく、立ち直れたのにっ

カヲル  ソコってさ、
     隣空いてるんだろ?
     俺の墓を、隣に立ててほしいけど、
     ムリだろうな
     楓の親父さん、まだ、怒ってるから

     昨日来たんだよね?
     親父さんたち、元気だったか?

楓    うっ――

カヲル  俺は、まだ、嫌われてるからさ。

楓    ほんとに、ごめんね。
     カヲルは何も悪くないのに。

カヲル  俺が悪いのは
     分かってんだけど、

楓    お父さんも弱かったから、
     誰かのせいにしてないと、
     心が壊れてしまいそうだったから

カヲル  だけど、
     それだけ、楓が親父さんから
     愛されてるってことなんだよね。
     今もずっと。

楓    期待ばかりされててさ。
     それに、応えなきゃって
     いつも、虚勢を張ってたの

     だけど、カヲルだけは
     等身大の私を
     受け入れてくれて。

     そんなカヲルだから
     好きになったのに。
     死んだ後になって、
     お父さんが
     カヲルのことまで苦しめるなんて。

     こんなのもう、呪いだよ。

カヲル  もしも、俺たちの
     出会いがなければ
     こんな結末は、なかった。

     もし、俺と出会わなければ、
     楓はもっと幸せで
     今も生きてたかもしれない

     そして、
     あの時、あそこに行かなければ

楓    そんなことっ―

カヲル  俺でさえも
     何度もそんな風に考えたんだ

     親御さんたちからすれば
     なおさら
     そう思わずには
     いられなかったと思うよ。

     でもな、
     いつまでも、そんなことは
     言ってられないって思った

     別れは、とても辛かったけど
     もし、楓が、
     「俺」と言う
     人生の劇場に登場してなかったら
     今のオレはなかった
     

     例えば、仮に、
     時間が戻ったとしても
     俺は再び、
     楓を好きになっていたと思う。

     そう思ったから
     「前を向いて生きていこう!」
     「精いっぱい、頑張ろう!」

     そう、思った。
     思ったのにね・・・。

楓………カヲル・・・・。

カヲル あれ?
    もう、こんな時間。

カヲル  ひょっとしたら、
     今日で
     最期になるかもしれないから
     話しておきたかったんだ。

     死に別れたことも
     その後、苦しかったことも
     確かだったけど、
     楓と過ごしたあの時間が、
     楓がくれた思い出が
     今日まで俺を生かしてくれたんだ

楓   私も同じだよ。
    私の人生で、
    カヲルと過ごした日々は、
    最高の思い出なの。

    毎年、カヲルが
    来てくれるまでの364日も
    色んなこと思い出してたら、
    あっという間だったよ

カヲル―――実はね
      俺は、楓の思い出には
      なりたくなかったんだ

楓――え?どういうこと?

カヲル  楓はもう、
     思い出の中にしかいないけど、
     俺は、楓の思い出には
     なりたくない。

     ホントは、
     これからも、ここに来て

     思い出話だけじゃなくて
     今の自分の話をしながら、
     楓の新しい思い出を
     創ってあげたかった

楓………

カヲル  たった1年と
     ちょっとだったけど
     俺は、楓と出会って
     世界が変わったんだ。

     楓のおかげで、今の俺があるんだ

楓   カヲルのおかげで、
    あの頃、私は、私で、
    いられたんだよ

カヲル だから、ありがとう。
    さようなら。大好きだよ。

楓 っ―――

カヲル あれれ?
    おかしいな
    もう出ないと思ってたけど

    まだ、出てくるんだな、
    涙ってヤツがさ。

楓  かをる?―――

カヲル  なあ、楓。
     俺、死んだら雷になるよ

楓  え?

カヲル 隣に墓をたてるのは、難しいから

    俺は、死んだら、雷になる。

    楓、雷、怖いんだろ?

    多分、気付くと思うんだ
    どれだけ離れてても
    聞こえるくらいさ
    大きな音を出してやるよ。

    どんなに離れてても
    見えるくらい
    眩しく光ってやるよ。

    だから、もう墓参りには来られないけど
    これが最期じゃない
    きっと、また、会いに来るよ。

    時間が経って、
    色んなものが変わったけど
    俺の中にある思い出と
    楓への気持ちだけは、
    変わらないから。

楓  うん。待ってる。
   何年だって、待てるから。
   カヲルがくれた思い出があれば
   いつまででも。
   だから、長生きしてね。
   最期まで、幸せでいてね

カヲル じゃあ、またね。

楓   うん。またね。

(ここで、一旦 停止します)

時は流れ、1年が経過した
今年の夏も、セミの鳴き声が
うるさいぐらい
よく聞こえていた


楓  はぁ。今年は天気悪いけど、
   蝉が、うるさいくらい
   賑やかなのは変わんないな。
   でも、蝉は話し相手にはならないからな。
   ま、カヲルにも、
   声が届いてたわけじゃないけど。

楓  ほんとに、来ないんだね。
   ほんとに、もう、会えないんだね。
   思い出に、なっちゃうのかなぁ

楓  ねぇ、カヲル
   きっとカヲルのことだから
   最期まで、前を向いて頑張ったんだよね?

   辛いことも、たくさんあったけど、
   心だって折れそうなくらい苦しくても、

   時間がかかっても
   いつか立ち上がるって
   私、知ってるから。

   私の声はもう届かないけど
   カヲルの思い出の中の私は
   ちゃんと最後まで、
   隣りにいたよね?

0―――そのとき、
   遠くに見える曇り空で、雷が閃いた。

楓 あっ、雷だ!

思わず、 遠雷に手を振る楓がいた。

楓  今まで、ありがとうっ!
   さようなら!
   そして
   「好き」でした

   ほんとうに、大好き。

   私、待ってる。
   いつまでも、いつまでも
   カヲル
   会いたいっ――――――


カヲル 「何年ぶりかな」
    「へへ・・・。」
    「お待たせ」

楓  「えっ?!」

カヲル 「待ったかな?」

楓 「――――ううん、今、来たところ」

カヲル「ウソだよね?」
   「ずっと、分かってたよ。」

楓  「ふふふ・・・・。」

0――― 終幕



0――― 台本は終幕まで。
以降後書きになります。
演者さんの為の資料になりますので、
上演時観客に提示する必要はありません
(しても構いません)。
最期のセリフだけ「」が
あるのはミスではなく、
そこだけが会話だからです。

0――― カヲル 享年31歳

0――― 楓 享年17歳
みんなから愛され尊敬される女子高生。
高学歴でプライドの高い親からの
期待は重かったが、
決して親のことを
嫌ってはいなかった。
その期待に応えようと必死で、
周りの知人らからも
信頼されていた。
ただし、カヲルと
出会っていなければ
きっと、どこかで
パンクしてしまっていたような
危うさも持つ。
楓は皆を救うヒーローで、
その楓を救う
楓だけのヒーローが
カヲルだったという構図です。

0――― 織姫と彦星モチーフ。
14歳差は
ベガとアルタイルが
14.4光年離れているから。

カヲルは雷になって、
光の速さで、待ってる楓に
追いついた、というオチ。

0――― 馴れ初め
同い年、高校に
入学をきっかけに出会う。
清廉潔癖、品行方正、
でもお嬢様というよりは
活発快活な少女の楓。

男女ともに人気が高く
(一部女子からは妬まれていたが)
もちろん言い寄る男子は大勢いた。
でも、その表層は
親からの期待に応えようと
懸命に張り続けていた。
そして、
虚勢も含まれていた。

だが、一見パッとしない
カヲルと偶然出会い、
控えめだが他人に思いやりがあり、
素朴で、ありのままの自分を
見つけてくれた
その人柄に恋に落ちた。
楓はまず、カヲルを
磨き上げるところから始めた。

パッとしないだけでカヲルは
磨けば光るタイプの男だったので、
楓はアプローチを兼ねて
何かとカヲルの世話を焼き、
意識改革を行っていった。
次第にカヲルは自身のなさからくる
弱々しさがなくなり、
周囲からも一目置かれる男子に、
一年かけて変わっていった。

そして高校1年の終わり、
楓はカヲルからの
告白を引き出すことに成功する。

カヲルも、惹かれているのとは別に、
そこまで鈍感ではなかったので
男を見せた。

そんな出会ったころと
同じ桜吹雪の下で、
予定調和のはずなのに
胸が高鳴って仕方がない
春を経て、二人は恋人になる。

0――― 夏、二人並んでの家路。

道路脇の歩道を、
車道側をカヲルが、
外側を楓が歩いていた。

片側1車線、楓の視界には、
こちらを向いて楽しい雑談に
笑みをこぼすカヲルと、
その向こう側に
ベビーカーを伴った母親が見えた。
母親が目を離したベビーカーが
道路に転がり出る。

電話に夢中で気づかない母親。
無意識に飛び出す楓!

駆け出し、ベビーカーを優しく突いて
歩道まで押し出したと
同時に轢かれて数メートル宙を舞う。

駆け寄るカヲル・・・・。

楓は頭から血を流し・・・・、

意識はあるが
言葉を発することが出来ない。
救急車が来るまでの間に
ゆっくりと意識を失っていく楓。

何か言葉を残す時間はあったのに、
何も聞いてあげられなかった。
自分が道路側に立っていたのに、
楓の背中を見送る事しかできなかった。
色彩に満ち溢れた日々から一転、
失意に沈むカヲル・・・。

0――― 後悔が絶えずのしかかる13年。

楓の父親には、
「何故、娘を守ってくれなかったのか!」
と責め立てられ、
墓参りも年に一度、
7月7日にしか許されていない。

これは7月6日が楓の命日であり、
その日に必ず両親が墓参りに行くので、
その翌日を指定したもの。

最初の1年目の時にカヲルも
命日当日に足を運び
両親と出くわしてしまい、
父親に胸ぐらをつかまれたり
罵倒されたりしたものの、
カヲルがあまりにも
悲壮な状態だったため、
父親側がその時に言い渡した。
前日に両親の墓参りが済んでいるため、
花は既に供えられ、
墓は綺麗に掃除され、
カヲルがすべきことは何もない。

なるべくカヲルの事を思い出したくない
両親が彼の痕跡を見たくないため、
次に自分たちが墓に参るまで364日の間を
開けたいという忌避の意を表している。

0――― 最初の墓参りは、
何も言葉を発せずに、
蹲って呻くばかりだった。

次の年も、静かに
拝むことしかできなかった。

3年目、想い出が
色褪せていないことを実感し、
嗚咽を漏らした。

4年目、やっと言葉をかけることが出来た。
しっかり者の楓が
必ず先に待っていたデートの待ち合わせ、
二人の時間が
始まる「合言葉」を・・・・。

それから10年。
欠かさず言葉を掛けにやってきては、
思い出を更新していくカヲル。

0――― 墓に縛られる様に幽霊と化した楓。

楓は待ち続けた。

毎年、命日である7月6日にやってくる両親と、
翌日にやってくるカヲルを・・・・。

最初のうちは目の前で咽び泣く、
自分の大切な人たちに
つられる様に泣いていた。

カヲルが5回目にやってきた
5年目の夏、
近況報告を
淡々としてくれる様になった彼に安堵した。

7年目の夏、
もう自分のことを忘れて、
新しい人生を歩んでくれと泣き叫んだが、
もちろんカヲルに言葉は届かない。

9年目の夏、
自分のことを忘れない
彼の頑固なところに音を上げて、
彼の言葉に会話を
投げ返す戯れに興じ始める。
毎年、いつもの言葉から始まるカヲルとの、
会話まがいの偽物の自己満足。

偽りのふれあい・・・・。

「お待たせ、待った?」に
「ううん、今来たところ」と、

生前と変わらず嘘をつく事だけが、
彼女の心のよりどころだった。

0――― 14年目、
カヲルはまだ
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の
重症化前だったので
日常生活を送れていたが、
墓参りに行く道すがら、
奇しくも楓と
同じ死に方をしてしまう。

信号待ちの途中、
反対側で待っていた子供たちが
ふざけてじゃれあっていると
勢い余って車道に飛び出してしまう。

天気は曇天。

視界も良好とは言い難い状況で、
トラックが子供たちに迫る。
想い出の中で
フラッシュバックする
楓の背中を
追いかけるように駆けるカヲル。

子供たちの代わりに轢かれ、
路上で血の海に沈みながら、
小雨が降り始めた曇天に手を伸ばす。

「ちょうどいいや。約束、守れそうだ」

強まる雨脚、淀みを増す鉛色の空。
そこに眩く駆ける、一筋の稲光が奔った。

0――― 楓の父親はそれを聞き、
        ひどく後悔する。

自分の情けなさを嘆き、
カヲルに非などなかったこと。

そして、
「愛した娘」の選んだ男を
信じてあげられなかったことを悔む。
そしてカヲルの墓を楓の墓の隣に立てて、
毎年7月の6日に加え、
7日も墓に参るようになった

0――― 執筆 刹羅木 劃人

「素敵な物語を、ありがとうございました。」

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