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インボイス制度開始1ヶ月 緊急意識調査 結果報告

「着服」「ネコババし続けるつもりか」 免税事業者への誹謗中傷・一方的な値下げ・取引排除の実態が明らかに インボイス制度開始で会社員含む約7割が仕事の継続を不安視

  • インボイス制度開始により、会社員を含む全アンケート回答者の約7割が 「事業・仕事の見通しは悪い」「廃業を検討」「退職・異動を検討」とマイナスの影響を訴える

  • 2人に1人が「経理事務負担」を感じており、3割超が「説明や交渉の負担」「手取りの減少」を実感

  • 制度について相談先のない人が半数。相談先のない人の7割超が年商1000万円以下の小規模事業者

  • 「登録済み・登録検討中」が5割を占めるも、その内の4割が「登録しなければ 仕事の継続が困難」といった消極的理由で登録、もしくは登録検討中

  • 免税事業者に対する一方的な値下げ、取引排除の事例は200件以上。その中には 「着服、ネコババし続けるつもりか」「脱税の手伝いはできないからちゃんとしろ」など、不当な差別、誹謗中傷の事例が複数、報告される。


インボイス制度を考えるフリーランスの会では、インボイス制度(適格請求書等保存方式)開始1 ヶ月を機にオンラインによる 実態調査を行った。募集期間わずか11日の間に約3000件の回答が寄せられ、その大部分がネガティブな回答であり、 同制度の不具合に対する早急な対応の必要性および切実な課題が浮き彫りとなった。これらの回答から、インボイス制度 開始直後の現場でなにが起こっているのか、その実態を報告する。


●回答者の属性

・年商1000万円以下の事業者が6割、会社員は約3割(図1)
・職種では、経理や経営、財務にかかわる人とクリエイティブ系で回答者の6割を占めた(図2)

●インボイス発行事業者登録状況の実情

・「登録済み・登録検討中」が5割を占めるも(図3)、その内の4割が「登録しなければ仕事が継続できなさそう」という 消極的理由で登録、もしくは登録を検討している(図4)
・「登録しなければ仕事をもらえないと取引先に言われた」「登録しなければ報酬を値下げすると取引先に言われた」と いった、取引先からの圧力を登録(しようと考える)理由として挙げた人はそれぞれ1割超(図4)

自由記入欄では、「『登録は強制しないが、登録しないなら契約は継続しない』と元請けから言われ、事実上の強制だと 困惑」といった声(別紙「インボイス制度開始1ヶ月 緊急意識調査に寄せられた声」、以下「別紙」)に代表されるように、 登録に対して取引先からの事実上の “強制”とも受け取れる交渉の事例が散見された。 インボイス制度を商機と捉えて登録した人はわずか2%にとどまり、登録しなければ仕事を失ってしまう危機感から登録
(または検討)する人が多いことがわかる(図4)。

●マイナスの影響が顕著な取引や業務の変化、見通し

・2人に1人が「経理事務負担の増加」を感じており、3割超が「説明や交渉の負担」「手取りの減少」を訴える結果に(図5)
・「事業・仕事の見通しは悪い」「廃業・退職・異動を検討」「すでに廃業・退職・異動した」を合わせると、回答者全体の約7割がインボイス制度によってマイナスの影響を受けている(図6)
・「免税事業者は使わない」という社内の“お達し”により、静かに取引が消えていく“サイレント取引排除”が多発(別紙参照)
・未登録であることを理由に一方的な値下げや取引排除が行われた事例は200件以上。中には「犯罪者」「着服」「脱税」といった誹謗中傷を受けた事例も散見される(別紙参照)

「経理事務負担が増えた」が、業務変化を聞く設問に対する回答のトップとなった(図6)。先んじて行った経理担当者向けアンケート(※)でも、3割超が「異動・退職・転職を考えている」と回答していたが、本調査でも、「経理職を辞めたい」「すでに辞職した」というコメント(別紙参照)が散見された。インボイス未登録を理由に一方的な値下げを強要された人、取引停止を言い渡された人はそれぞれ約15%で、「下請法・独占禁止法に違反するというのは建前で、殆どの取引先がインボイス未登録の者には仕事を回せないと言っている」といったコメントのように、公正取引委員会などが取り締まれない“サイレント取引排除”の声も多数見られた。また、インボイスへの未登録を理由に一方的な値下げや取引排除が行われた事例は200件以上あり、その中には「着服、ネコババし続けるつもりか」「脱税の手伝いはできないからちゃんとしろ」「犯罪者、脱税などの誹謗中傷を受けたり脅迫めいたメッセージが届いたこともありなぜそんなことをされないといけないのか...という心労に悩まされています」といった誹謗中傷を受けた事例も複数報告され(別紙参照)、由々しき事態となった。加えて、免税事業者からの仕入れが最初の6年間、8~5割控除可能となる経過措置により、かえって経理処理は複雑化。むしろ、インボイス未登録事業者の「取引排除を促進している」との声も見られた(別紙参照)。

「インボイス制度の影響を踏まえた事業・仕事の見通し」についての設問では、約6割が「見通しは悪い」と回答。「廃業・退職・異動を検討中」「すでに廃業・退職・異動した」の回答は合わせて1割強となり、回答者全体の約7割が、インボイス制度の開始によってマイナスの影響を受けていることがわかった(図6)。インボイス制度による消費税の増税負担や値引きによって報酬減となった人が3割超となっていること、経理事務負担で本来業務が圧迫されていることなどが、将来を不安視させる要因になっていると見られる。

「すでに廃業した」「廃業検討中」と回答した人を年商別に見ると、年商1000万円以下の事業者が9割を占めた(図7)。「登録しないことで新規依頼が激減。一方、登録すれば消費税分を納めると赤字どころではなくなり、現状から踏み出せず辛い」「消費税が納められるか不安。納めたら生活ができない」という悲痛な声にあるように(別紙参照)、登録する/しないにかかわらず収入減となる実態が浮き彫りになっている。


●複雑な制度であるにも関わらず相談先は皆無

・相談先のない人が全体の半数を占める(図8)
・相談先のない人の7割超が年商1000万円以下の事業者で、次いで会社員が約2割(図9)

インボイス制度についての相談先がないと答えた人の7割超は年商1000万円以下の事業者で、業界団体や労働組合 などに属さず、税理士といった専門家ともつながりがない実情が明らかになった(図9)。小規模事業者はこれまで 一度も消費税の納税をしたことがない人も多いと見られることから、来年3月の確定申告時期の混乱が懸念される。 自由記入欄では、「顧問税理士ですら疑問点を聞いても答えられない」「税務署の担当者によって言うことが違う」と いったように、税の実務家や行政の相談機関ですら理解不足である現状も明らかになった(別紙参照)。

●総評

事業者と会社員、インボイス登録の有無、年商1000万円超規模の事業者か否かといった立場の違いを超えて、インボイス制度の導入が先行きの不安を生んでいる実態が明らかとなった。今後の見通しについて「問題はない」とした回答者の中でも、「経過措置が終わったあとが不安」という声や、物価高の誘引をおそれるコメントが多数寄せられている。

個人事業主やフリーランスにフォーカスがあたりがちなインボイスの問題だが、会社勤めであっても、「免税事業者との契約は切れと言われ、下請法に引っかからない言い回しや順序をとり、現場的には取引を続けたい相手先を切らなければならなくなった」といった苦しい状況が吐露されている。そうした交渉の手間や事務負担が増えても得られるものがないことに対し、困惑や怒り、嘆きの声も多く寄せられた。

そして、本調査で明らかになった重大な問題として、「脱税」などといったインボイス未登録事業者に対する誹謗中傷が挙げられる。このようなバッシングに加え、一方的な値下げや取引排除の事例が200件以上届いたことからも、公正取引委員会などによる取り締まりが機能していない実態もあらわとなった。

かねてより財務省は、インボイスによる事務負担や取引排除への対応策として、「納入先が簡易課税制度を適用していれば仕入税額控除にインボイスは不要なため、取引排除されることはない」「簡易課税制度によって事務負担は大幅に軽減される」といった内容の国会答弁を度々行ってきた。しかし、今回寄せられた約3000の声の中で簡易課税に言及した回答は10件程度で、その内容も、「簡易課税で助かった」といったプラス面を語るものは見当たらなかった。現状では、簡易課税制度が取引排除の回避にも、事務負担軽減にも寄与していないと言わざるを得ない。

制度開始一ヶ月での本調査では、複雑を極める制度設計と行政による周知不足および相談機能の不全、多くの当事者にとって相談先がない中で開始直後の現場は混乱しており、経済活動や人生の将来設計にまで陰を落としている様が浮き彫りとなった。改めて、現実の商取引や経理の実務にそぐわない現行のインボイス制度は運用停止や中止・廃止を含め、見直しが必要であると考える。

〈調査概要〉
集計期間:2023年10月20日~31日
調査主体:インボイス制度を考えるフリーランスの会
調査対象:フリーランス、会社員、経営者など、インボイス制度の影響を受ける方
調査方法:Webアンケートツールを用いたオンライン調査
有効回答数:2868件※本調査のグラフは小数点以下第2位を四捨五入しているため、必ずしも合計が100とはなりません。



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