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#インボイスRADIO vol.18/日本大学法学部教授・税理士 阿部徳幸さん

2022年8月31日インボイスRADIO vol.18
NHKさんありがとう!そして言い足りないから話しますSP/
日本大学法学部教授・税理士 阿部徳幸さん

――皆さん、こんばんは。「STOP!インボイス」の阿部と申します。毎週水曜日夜8時、インボイスの問題点を深堀りする「インボイスRADIO」、今夜もお聞きいただきありがとうございます。今日で何回目になるでしょうか。春頃から配信を始め、先週は初めて夏休みということでお休みをいただきましたが、今週からまた配信を続けていきたいと思っております。私たちの団体の正式名称は、「インボイス制度を考えるフリーランスの会」と申します。「STOP!インボイス」の合言葉のもと、インボイスに関するさまざまな情報を発信しております。

皆さん、先週の金曜日、NHKラジオ第1の「Nらじ」、お聴きになりましたでしょうか?僕らは政治家への陳情のほかにも、実はマスメディアへの働きかけというのも行っておりまして、大手メディアからの取材も何度か、これまでも受けているのですけども、いずれもお蔵入りになっております。ですがですが、ようやく、しかもあのNHKが先週金曜日に、夕方18時半より「Nらじ」という番組でインボイスの特集を組んでくれました。恐らく今週の金曜日まではネット上でアーカイブを聴くことができると思うので、お聴きになられていない方は、よかったら聴いてみてください。

それでですね、お聴きになった皆さん、こんなふうに思いませんでしたか?「あれ、もう終わり?」「インボイスって、もっといろんな問題あるよね?」「もっと大事な話あるんじゃないの?」
…というわけで、インボイスをラジオで報じることは、僕らのほうが元祖であります。毎週水曜日夜8時「インボイスRADIO」にて、NHKで放送できなかったさらに深い話をやっちゃいましょうということで、本日のテーマは「NHKさんありがとう!そして言い足りないから話しちゃいますスペシャル」です。
「Nらじ」の解説者としてご出演された、日本大学法学部の教授で税理士の阿部徳幸さんを本日はお迎えしました。阿部先生、お話しできますでしょうか?

阿部徳幸税理士(以下、阿部税理士) 皆さん、こんばんは。阿部でございます。よろしくお願いいたします。

――どうぞよろしくお願いします。

阿部税理士 はい、よろしくお願いします。

――まずはじめに、阿部先生の自己紹介をお願いできますか?

阿部税理士 私は日本大学法学部を卒業いたしまして、その後しばらく、OA機器販売会社で営業マンとして仕事をしてました。その後、税理士になり、現在、東京都文京区本郷というところで税理士事務所を開設するかたわら、母校へ戻りまして、法学部でですね、税法の先生というかたちで、教鞭を執らせていただいている次第でございます。

――日大の教授ということで。

阿部税理士 はい、そうでございます。

――私も日本大学出身なので、勝手に親近感を抱いておりました。

阿部税理士 私のほうも親近感を抱いてですね、今日はリラックスしながらお話しできるのかなと楽しみにさせていただいております。

――ぜひともよろしくお願いします。

阿部税理士 お願いします。

――まず冒頭でご紹介したんですけども、先週、NHKラジオ第1にご出演されて、感想があればお聞きしたいんですけども。

阿部税理士 先ほどもお話しいただきました通り、インボイス制度を15分で話せというのは、これは無理な話なんですね。ですので当初、予定していた話の内容の、半分ぐらいしか話ができなかったと。まず一番、ここで皆さんに訴えかけたいところでございます。

さらになんですけども、今回この番組に出させていただくにあたり、担当のディレクターの方と何度となく打ち合わせをして、放送になったわけなんですけども、実はこのディレクターの方っていうのが、皆さんと同じようにフリーランスの方なんですね。そういうこともありまして、いろいろ打ち合わせの段階では私が話す内容がすごくわかると。「そうだよね、そうだよね。」というふうにして聞いていただいたんですが、本番になりましたらば、これ、言っては失礼なのかもしれませんけども、キャスターの方2人いらっしゃったんですけども、この方々はサラリーマンというかたちになっちゃうのかしらと思います。
ですので、サラリーマンという立場ですと、やっぱりインボイスのことについてはよくわからないということでですね、なんか番組も、私の個人的な感想ですけども、味気ないものになったような気がしてならないです。

――我々も取材受けるとき、本当に、現場の記者さんとかは「この問題は大変だ、大変だ」ってなるんですけど、なぜかデスクに持ち帰っていくとお蔵入りになってしまうというような。やっぱりサラリーマンの方は、なかなか実感がわかないんだろう、というところがあると思うんですけども、最初に、インボイス(適格請求書)の解説、これまた難しいんですけども、簡単にしていただけますでしょうか?

インボイス制度とは? インボイスが発行できる事業者とは?

阿部税理士 令和元年(2019年)には、我が国の消費税というものは、税率が10%になりました。合わせて、食料品などに対しては8%というかたちで軽減税率というものが採用されました。税率が2つできたわけなんですね。今までは1つだったのが2つになったということで、売り手から買い手に請求書等々を渡すときに、10%対象の取引金額はいくらなのか、それに対する消費税はいくらなのか、8%はどうなのか、というものを明確に区分して、売り手から買い手に渡すというペーパーがインボイス(適格請求書)です。まずは。

――はい。

阿部税理士 ただ、特徴的なのが、インボイスを発行できる事業者は、税務署に届けた事業者じゃなければ発行ができないんですね。で、これ、届け出を出しますと、俗に言う「インボイス登録番号」という番号をもらえます。
今までの請求書にその登録番号を記載しなければならないんだというところがまず、(インボイス制度の)事務的なところなんですね。

――はい。

阿部税理士 ただ、「僕にもインボイス登録番号ください」と登録申請した人間、または事業者は、免税事業者であろうと課税事業者であろうと、すべて課税事業者にならざるを得ないと。つまりは、今まで免税事業者でいた方々も、この登録番号を取得すると、課税事業者におのずとなってしまうんだ、という制度です。

――この免税、課税っていうのは、年間売り上げ1000万円でラインが引かれていて、1000万円超の方たちは課税事業者と呼ばれていて、これまでも消費税を納税していた。免税事業者というのは、年間売り上げ1000万以下の方たちで、この方たちは消費税の納税義務が免除されていた。

阿部税理士 そういうことですね。申告と納税が免除されていたということなんですね。それが実質的に、免税事業者というルールなんですけども、これは消費税の制度には残ります。だけども実質的に免税事業者の方々も、今までと同じような取引、お仕事をされていくとするならば、課税事業者にならざるを得ないのではないだろうかと。免税事業者というルールは残したままなんだけども、実質的に免税事業者というルールは無くなってしまうんではないだろうか。そうすると、免税事業者の方々なんですけども、これまでと比べて、大幅に手元に残るお金がなくなる、収入減となる、というところが非常に問題なんではないかしらということなんです。

――これ、免税事業者は(インボイス発行事業者に)登録しなきゃいけなくなる状況になるというのは、どうしてなんでしょうか?

インボイス制度導入で、仕入税額控除のルールが変わる

阿部税理士 これ、NHKでは話ができなかったんですけども、ちょっとややこしくなるん。来年、2023年の10月1日以降、インボイスを発行しますよね。このインボイスってのは、実質的に金券なんです。というのが、このペーパーを持っていれば、消費税が安くなるわけなんです。

――控除って言われるやつですね?

阿部税理士 控除ですね、引いてもらえるという意味でですね。ごめんなさい、ちょっと話が先いってしまいましたけども、消費税そのものの仕組みというものが、売ったものに対する10%。そこからいわゆる仕入れ・経費にかかる消費税として10%、これを引いたもの、引いた残りを国に納めなさい、というルールになっています。
今の法律でいいますと、引いてもらうわけなんですけども、引いてもらうときに、その取引事実を記載した帳簿がなければだめですよと。合わせて、請求書などがないとだめですよというのが今のルールです。

――はい。

阿部税理士 これが来年(2023年)の10月1日以降は、帳簿はそのままつくらなければいかん。合わせて、請求書がインボイスでなければならないよ、というふうに変わるわけなんです。先ほどお話ししましたように、インボイスがあるということは、税金を計算するときにマイナスの証拠になるわけなんです。ですので、先ほど「金券」という言葉を使わせていただきました。
そうすると、これ、誰もが彼もが勝手にやられちゃ困っちゃうわけなんです。ですので、税務署に登録をして、きちんとした事業者なんだよということを明らかにしなければならない。

余談になりますけども、韓国という国があります。あそこも消費税ではなくて付加価値税という名前を使って、同じような制度があります。そこでは、まあ悪い人たち、どこの国にもいるわけなんですけども、このインボイスが売買されてるんですね。そういう事例があるもんだから、きちんと登録した事業者しか、我が国の場合、インボイスを発行できないようにするんだと。

――インボイスが売買されてるっていうのは、偽物の?

阿部税理士 そういうことです。

――どういう仕組みなんですか? インボイス(発行事業者として)登録していない人が、その偽物を買い取るってことですか?

阿部税理士 例えば、私が偽の領収書をつくるわけです。ライターである阿部さんのところに、この領収書を売りに行くわけです。記載されているのが、例えば10万円の領収書で、消費税が1万円ですと。これで勝手な、いい加減な(登録)番号を書いちゃうわけです。で、「阿部さん、こういうのあるけども、5000円で買わない?」っていう話です。

――ほうほう。

阿部税理士 それがかなり韓国では横行していたらしいんですね。

――買い取った私は免税(事業者)なんだけども、それを使って11万円の支払いを受け取ることができる?

阿部税理士 できると。ですので、それに伴って、所得税という話もありますけども、所得税のほうでも経費にしちゃうと。

――偽物のインボイスでなかったら、お客さんからもらうお金は10万円になる?

阿部税理士 そういうことですね。きちんと11万円を、私と阿部さんとの取引の中で、私が阿部さんに11万円を請求し、お仕事も納めて、というのが普通というか当たり前の話なんですけども、どこの世界も悪いやつがいるわけです。で、そういうことが横行したらしいんです。それを懸念してというか、我が国の場合、(インボイス発行事業者に)登録した人間しか(登録)番号を与えないよ、というようなシステムにしてると。

――要するに、これまで免税事業者といわれてた人の請求書や領収書であっても、控除はできていたけども、インボイス制度が始まると、今後はインボイス(発行事業者)登録をした人じゃなければ、その人から発行された領収書や請求書じゃないと、控除ができなくなると?

阿部税理士 できなくなると。それが証拠に、国税庁のホームページにその登録番号が公表されるんですね。

――「全件ダウンロード」と噂になってる。

阿部税理士 はい。それで確認もできるじゃないかと、いうことになってます。

――今、国税庁のホームページの話が出てきたんですけど、これ、私も個人的に伺いたかったんですが、請求書なり領収書を私がもらったときに、一つひとつ国税庁のサイトでこれが本物かどうかを事業者は確認しなきゃいけなくなるってことですか?

阿部税理士 原理原則とすると、そういうことですよね。ですので、逆に言うと、「やってられるんですか?」という話にもなってこようかと思います。

――そうですよね。

阿部税理士 そうするとですね、新規の取引先ですか。今までは「お付き合いがあったから大丈夫だ」という信用、信頼関係があるわけなんですけども、「この人、登録番号を持ってる人なの?」「正規の(インボイス発行事業者の)人なの?」っていうようなことから商談が始まってくるのかなと思うんです。

――そうですよね。

阿部税理士 笑い話になりますけども、ライターの阿部さんが、どっか出版社に新たなお仕事を、というような打ち合わせになったときに、名刺交換ってされると思うんですね。そのときに名刺にインボイス登録番号を書いとくべきなんではないだろうかと。

――なるほどー。

阿部税理士 笑い話ですが。

――いや、でも確かに、確かに。「うちはインボイス登録事業者です」という。なんかやりそうですね。ホームページに記載するとか。

阿部税理士 そういうことになると思います。

――なるほど……。なかなか大変、面倒くさい話ですね、これは。

阿部税理士 はい、面倒くさい話なのかなというふうにも思いますし、ちょっと話は一足飛び、二足飛びになりますけども、これ、「経過措置」というかたちで、当面の間は免税事業者の方々から、いわゆる税法用語ですけども、「課税仕入れ」なんて言葉を使っておりますけども、モノを買った際には6年間にわたって段階的に控除ができなくなるみたいな経過措置ができてるんですけども。

例えば、フリーランスの方々と、免税業者の方々とお付き合いする会社が、「あなたのところは2年間は80%引いてもらえるから、80%うちのほうで計算します」、そんな面倒なことするんでしょうかということです。これ、「経過措置があるから大丈夫」だみたいな、「しばらくの間は大丈夫です」なんていうことをおっしゃる方がいらっしゃいますけども、それは全然違う話なんじゃないかなと思うんです。

――そうですね。

阿部税理士 もうはなから「この人と付き合うと面倒くさい」となってしまうのかなと思います。

――実際、私の知り合いの製造業の社長さん、何人かとお話ししてたら、すべての方が「今後、インボイス(発行事業者)登録していない事業者とはお付き合いできない」って、おっしゃってるんですよね。だから、経過措置がどうのって、そもそも意味がないといいますか。

阿部税理士 意味がないと思います。

サラリーマンの方への影響。そして「益税」問題のクリアが、当事者の理解へとつながる

阿部税理士 ですので、さらに言うと、今、皆さん、アニメーターさんだとか、いろいろお仕事をされてる方々がいらっしゃるかと思うんですけども、先ほどNHKでお話をさせていただいたときの感想として、「サラリーマンだからよくわからなかったようだ」なんてコメントをさせていただいたんですが。

今度じゃあ、サラリーマンの方々ってどういう影響が出るのかっていうとですね、思い返していただきますと、例えば、フリーランスの方々も当然なんですけども、お仕事でタクシーを使うことってあるんじゃないかと思います。

――あります。

阿部税理士 あと打ち合わせで、接待だとかっていうことで、飲食店を使われることもあるんではないかと思うんですね。

――はい。

阿部税理士 そうすると、「個人タクシーはやめとけ」って話になるんです。「飲食店も個人経営の飲食店はやめとけ」って話になるんですね。

――個人ということは、インボイス(発行事業者)登録をしていないんじゃないか、という?

阿部税理士 そういうことです。ですから、会社員の、サラリーマンの方々が経費を精算する、そのときに、インボイスの記載がない領収書を持ってくと怒られちゃうんじゃないかしらとかね。そういった笑い話も出てくると。そうすると、飲食店ですと、のれんにインボイス登録番号を書いとけと。さっきの話の続きになりますが。タクシーのボンネットにインボイス登録番号を書いとけというようなことにもなってしまうのかしらと思います。

――レッテル貼りな感じですね。

阿部税理士 はい。さらに言うと、これ「益税」というようなことで、免税事業者の方々がいじめられてるというかですね、非難を受けてるような様相がどうしてもぬぐえないんですけども。やっぱりここの「益税」問題ということをしっかりとクリアしないと、サラリーマンの方々には、インボイスが問題であるってことは理解していただけないような気がするんです。

――はい。先ほどの「Nらじ」の公式サイト上に、Twitterで視聴者からこんなメッセージが寄せられてたんですけども。例えば、「俺たちは消費税を払っているんだけど、それはどこにいってるわけ?」っていうようなつぶやきですとか、そこが要するに「益税」と関わってくる部分ということですか?

阿部税理士 そういうことなんですね。じゃあ、阿部さん、ちょっとフリーランスという立場を離れてですね、1人の一消費者として考えてほしいんですけども。今日コンビニエンスストアへ行きまして、お弁当を買ってきた、ジュースを買ってきた、なんていうケース、日常の姿だと思うんですけども。で、500円のお弁当を買ってきて、550円請求されるわけなんですね。今の方のコメントですと、「この50円っていうのが消費税だ」って言ってるわけですよね。

――はい。レシートにもそう書かれています。

阿部税理士 なんですけども、これ、その消費者の方々っていうのが消費税を払ってるとするならば、ちょっと横飛びになっちゃうんですけども、本来だったらば、その50円というものをその方が税務署に行って「はい、これ僕の消費税です。」って払わなければならないはずですよね?

――なるほど、納税っていうことは。

阿部税理士 納税ということでいうんだったらば。

――納税という行為だと、ほかの税金もそうですもんね。

阿部税理士 そうですよね。だけどもこれ、そうじゃなくて、550円、コンビニのおじさんに払ってるわけですよね?

――はい。

阿部税理士 消費税というのはこれ、納税義務者、税金を払わなければならない者を「事業者」といってるんです。消費者に「払え」とはいってないんです。

――納税義務は、消費者にはない?

阿部税理士 ないんです。今までの我が国の消費税の歴史、三十数年にわたる歴史なんですけども、この消費税の扱い方が非常に失敗した。我々から言わせると「失敗した」。国側からすると「まんまとハマったね」っていうような感じなんです。

これまで今のように500円プラス税というふうに表示がなされてました、値札に。ですので皆さん「500円と消費税を払ってるんだ」というふうに思ってるんですけども、これはそうじゃないんですね。消費税相当額の値段なんです。
ですから、阿部さんは550円のお弁当を買ってきたんです。今度、じゃあコンビニとするならば、誰にいくらで売ろうが、それは好きに、自由にしてかまわないわけですよね。コンビニって例が悪かったかもしれませんけども、自由主義経済なんで、「いくらでモノを売ろうが、それはあなたたちの勝手だよ」っていうのがこの国の考え方です。

――例えばなんですけども、私よく行くバーでは「まあ今日は消費税分はおまけでいいよ」って言って、「1000いくらのところ1000円だけでいいよ」って言ってくれるお店とかもあったりするんです。まさにそういうお店って、要するに、いくらで売買しようが、それはその事業者の…。

阿部税理士 勝手なんですよね。

――勝手ってことですよね。で、消費者も、そこで消費税を納税する義務もないし。

阿部税理士 はい。

――もう一つ言えば、事業者も徴収する義務すらないわけですね。

阿部税理士 ないんです。

――私が行ってるそのお店は、じゃあ1000円もらったらその1000円の中から納税をするという。

阿部税理士 そういうことです。1000円の中から、その中の10%相当分を国に納めなさいと。ただし、さっきの、引いてもらえるのがあるけどね、って話なんですね。

――控除の部分が。

阿部税理士 控除の部分があるんですね。ですので、世間で「益税」、先ほどの方も「俺が払った消費税」って言いますけど、これは厳密に言うと税金ではないんです。

――お弁当550円の50円は厳密に言えば「税金」ではないと。

阿部税理士 「税金」ではなくって、「税金相当分の弁当の値段」なんですね。ですから、「益税」ということはあり得ないんです。

例えば、これも面倒くさい話になりますが、フリーランスの方々がお仕事をされると1割の源泉徴収税っていうのを天引きされて、1万円のお仕事をされたとすると、手元にまず9000円が入ってくるわけですね。で、1000円は源泉徴収税ということで、その仕事をくれた会社さんが納めてるわけなんですけども。
この場合ですと、これ、税法に何て書いてあるかっていうと、「フリーランスの方々に報酬を払う際には、10%の所得税、源泉所得税を、会社さんが預かりなさい。」って書いてあるんです。で、「預かったその税金は、翌月の10日までに国に納めなさい」って書いてあるんです。そうすると、この源泉所得税はまさしく「預かり金」なんです。

――源泉所得税はまさに「預かり金」なんですね。

阿部税理士 「預かり金」なんです。だけど、消費税はそういうことを書いてないんですね。さっきと同じ話になりますが、「いくらで売ろうと勝手です」と。「売った値段の中から10%相当額を、国に納めてください」という話になってます。

――税法の話でいうと、東京地裁の判例が有名なところというか、ここが一番正しいとされているところだと思うんですけど、そこには「対価の一部」っていうふうに確か。

阿部税理士 そうです。それをもう少しわかりやすくお伝えすると、さっきの例ですと500円プラス50円ということなんですけども、一般の方々はこれ、【弁当代500円、消費税50円】というふうに認識してるんですけども、実はこれ、【500円の弁当代と、プラス、50円の弁当代】なんです。

――なるほど、50円も弁当代。

阿部税理士 弁当代なんです。ですから、両方とも「対価」プラス「対価」イコール「対価」です。

――先生、私が最近気づいたことがあるんですけども、特にライター業って免税事業者多いんですけども、消費税を上乗せしない請求書で今までやりとりしてたって人がけっこう多いんです。例えば、3万円の原稿料で、消費税(相当分)を請求するんだったら3万3000円なんですけども、3万円で請求していたと。インボイス発行事業者登録をそういう人がして、これまで通り3万円で請求書を出すと。
その人は「俺は3000円の消費税分を請求してないから、消費税を預かってないよ」とその免税事業者が言い張ったところで、インボイス発行事業者登録をしてしまうと、その人は納税義務が発生するってことですよね?

阿部税理士 そういうことです。ですので3万円の中の、すいません、ちょっとすぐに掛け算できないんですけども、3万円の中の10%相当分、これを国に納めろ、という話です。

――だから、どんなに事業者が「俺は消費税とってないし、預かってないよ」って言い張ったところで、そもそもが消費税を預かるということもないし、徴収する義務もない。まさにこれ、一つ証拠な気もしていて、消費税相当額を上乗せしていないといくら言い張ったところで、インボイス発行事業者登録をしてしまえば、納税義務が発生する。

阿部税理士 そういうことです。ですので、今のお話ですと、「いやいや、僕は3万円どうしても欲しいんです」というと、先方に「今度、課税事業者になりましたので、3000円値上げしてください」っていうことが、果たして皆さん言えるんでしょうか?と。

――これなんですよね……。

阿部税理士 言えるわけがないですよね。

――そうなんですね。最近、フリーランスなんとか協会というところの原稿があったんです、税理士さんが回答してるものがあって、「今後はインボイス始まったら正しく請求しましょう」、要するに「値上げ交渉しましょう」みたいに書いてあるんですが、いやあ実際…難しいですね。今でも買い叩かれてますので。

阿部税理士 そうなんです、今、いみじくも「叩かれている」というお言葉があったわけなんですけども、国が予定している消費税制度というものは、きちんともらえるべき金額で請求をして、その上10%を上乗せして、という状況のことを予定してるんですね。
だけど、実態を見てみると、(価格を)叩かれて叩かれて叩かれた上で「消費税込みで3万円ですね」っていうのが実態じゃないでしょうか。で、「今後はインボイスが入ってくるから、正しく払いましょうね」って言ったところで、果たしてどうなんだろうか。

じゃあ仮に「わかりました」ということで、「3000円フルに乗っけることは厳しいですから、間をとって1500円だけ乗っけてあげるよ」っていうやさしい人がいたと仮定します。そうするとどうなんでしょうか。1500円(足して)、3万1500円の中で10%ということですから、(消費税額の)半分、約1500円は自腹切らなければならないんですね、皆さんが。そういうことになるわけなんですよね。で、自腹切ると言ってもどうなんでしょうか、ゆとりのある価格の中での自腹なんでしょうか。そうなると、ただただ消費税の滞納というものが増えていくだけになるんじゃないのかっていうことを我々は懸念してます。

――それこそ「赤字でも納めなきゃいけないのは消費税」みたいな話をよく聞きますね。

阿部税理士 はい。消費税の税額計算において、先ほど「売り上げにかかる消費税」から「経費・仕入れにかかる消費税」をマイナスした残り、これを国に納めるんだってご紹介しました。だけども、この経費の中に、いわゆる人件費は入ってこないんです。ですので、いわゆる損益計算書といわれるもので、赤字になったとしても経費の中から人件費を取っ払っちゃうと、黒字になっちゃうんですね。ですので、赤字でも消費税を納めなければならないという、これ、消費税ってのは過酷な税なんです。

――過酷ですね。

阿部税理士 はい、赤字だったら金ないんですね。金ないところへ払えっていうわけなんです。それが証拠に毎年、国税庁が、その年の新規滞納税額(新規発生滞納額)の状況っていうものを報告してます。消費税は平成元年(1989年)に導入されました。その翌年からずーっと、まあ翌年からっていうとちょっとオーバーなんですけども、ずーっとダントツ1位が消費税です。

――滞納している税金の種類としては、消費税が1位?

阿部税理士 消費税が半分ぐらいを占めてます。

――半分もですか。

阿部税理士 はい。とすると、先ほどの「自腹を切って」ということですので、現に今の課税事業者でも力の弱い方々、いわゆる中小零細企業といわれる方々ですね、この方々は自腹切っちゃってるんですね。ですから、滞納になっているんだっていうのが、一つの証拠としてあがってきてるわけです。

――この間も、昨年度(2021年)の消費税の滞納の額が発表されてたような記憶がありますけども、やっぱり昨年度も、消費税が1位?

阿部税理士 もうダントツ1位です。平成の時代からダントツ1位です。

――滞納するとどうどうなるんですか?

阿部税理士 滞納すると、最悪、財産の差し押さえってことになります。

――おお……。

阿部税理士 例えば、いろいろなことで借金で問題を抱えてしまいました、なんて方も数多くいらっしゃるかと思うんですね。そうすると、破産だとか、そういう手段というか方法があると思うんですけども、法律でいうと破産法とかそういった法律になってくるわけですけども、この破産法っていうのは、借金で失敗した方の再生のためのルールなわけです。再起のためのルールですね。

だけども、この税金(消費税)の滞納っていうのは、これは許さないんです。免除は許されません。よっぽど生活に困窮してるとか、そういう一部の例外はあります。だけども、原理原則とするならば、滞納になってしまったらば、これは必ず取るというのが基本姿勢です。
で、これも私、実務もやってますんで、ちょっとご紹介したいんですけども。例えば、来年、2023年の3月、所得税の申告と消費税の申告をしたと仮定しますね。で、消費税がどうしても納められんと、いわゆる滞納になるわけですね。と、税務署といろいろ交渉して、「まあそうは言いながらも、分割でも払ってくれないか」みたいなかたちで納めさせられるわけなんです。まずそこで約束させられるのが、「次の滞納は絶対に起こさないでくれ」って言われるんですよ。でも普通に考えてみてください。今年滞納になってしまいました。来年景気が爆発的に、バブルを上回るぐらい景気がよくなった、なーんていうケースは別でしょうけども、来年もやっぱり滞納になっちゃうんですね。そうするとどうなんでしょうか、滞納地獄というかたちで、破産も許されないと。地獄です。

――地獄ですね。

阿部税理士 地獄です。ですので、このインボイス制度というものは、それを助長する制度になってしまうんではないのかなっていうのは非常に懸念されるところです。

――なるほど。

阿部税理士 やばいです。

――やばいですね……。


インボイス川柳のコーナー

――ここで暗くなったので、先生、ちょっと我々の名物コーナーがありまして、3分ぐらいそれをやって、NHKの、先ほどのラジオにもまたいくつか質問が寄せられてたので、そのお話もお聞きできたらと思います。

阿部税理士 はい、お願いします。

――というわけで、インボイス川柳の阿部さん?

――はい、インボイス川柳担当の阿部と申します。「STOP!インボイス」の中でも一番過激なコーナー、インボイス川柳の時間でございます。あ、1人2役でやっております。1カ月ぶりぐらいでしょうか。「そろそろ川柳やってくれよ」という声も出てきたので、久々にやりたいと思います。テルミーさんからの投稿です。

「インボイス しっかり納税 廃業だ」

――「しっかり納税」からの「廃業だ」が、笑っちゃいけないんですけども、なんか笑ってしまったので選んでみました。続いて、十字野郎さんからの投稿です。

「副業は やめろという インボイス」

――先日、私たちの「STOP!インボイス」のTwitterでアンケート機能を使ってアンケートを実施したんですけども、その中のコメントにも、「サラリーマンだけど、副業を辞めざるを得ない」というコメントがありました。働き方改革ですとか、政府は副業を推進しているんですけども、そういう副業からもしっかり納税、廃業だ、ということで、政府や財務省はいったいどういうつもりなのか、機会があったら聞いてみたいなんて思いながら、選んでみました。もうちょっといきましょうか。

――実は、インボイス川柳マニアの間で、1日、2日だけ流行った投稿がありました。それは「映画タイトルにインボイス」というハッシュタグなんですが、例えばこんなのがあります。

「メン・イン・ボイス」

――この組織は日本にいる小規模事業者を監視し、庶民から税金という名の罰金を絞り取る財務省と国税庁のすっとこどっこいなコンビによるコメディ映画、とか。これはムーファイヤーさんからの投稿です。

「インボイス・アンド・シガレッツ 増税にまつわる短編集」

――トム・ウェイツとイギー・ポップが、インボイスに関してぼやきをするトークが見てみたいなと思い、選んでみました。もう一ついきます。この「映画タイトルにインボイス」なんですが、インボイス川柳ファンの間でアカデミー賞を受賞した作品がこちらになります。

「スターウォーズ編 インボイス4 新たなる絶望」
「インボイス5 国税庁の逆襲」
「インボイス6 免税事業者の帰還」
「インボイス コロナの覚醒」
「インボイス 最後の事業者」
「インボイス 税収アップで岸田政権の夜明け」

――というわけで、ちょっと変則的なインボイス川柳を読んでみましたが、これからもまだまだインボイス川柳募集しておりますので、ぜひともハッシュタグをつけて投稿よろしくお願いいたします。というところで、スタジオの阿部さんにお返しします。

――はい、スタジオの阿部です。阿部先生もよろしいでしょうか。

阿部税理士 はい、お願いします。

――すいません、小ネタコーナーをはさんでしまいました。


国が想定する、インボイス制度の最終的な狙いは「監視社会」?

阿部税理士 今の、すごくおもしろかったんですが、ちょっと気になったことがございまして、よろしいでしょうか?

――はい、ぜひとも、ぜひとも。

阿部税理士 インボイスを国が入れようとしてるわけなんですね。これ、最終的に何の狙いがあるんだろうかと、なんでこんなことするんだろうかと。

――はい、気になります。

阿部税理士 これ、例えばなんですけど、今、ペーパーでインボイスを行ったり来たりするわけなんですね。じゃあこれ、さっき、偽物って話をさせていただきましたけども、税務署の人が見に来ないと、本物か偽物かわかんないわけですね。

――はい。

阿部税理士 じゃあ、どうなんだってことなんですけども、今、電子インボイスってことも言われてまして、実際、条文にも出てるんですけども。いわゆる僕と阿部さんとの間で取引をして、僕が阿部さんにインボイスを発行するときに、今のペーパー、郵便でじゃなくて、みんなメールでやってくださいと。さらに、ccかbccかわかりませんけども、これで国税庁へ送れって話なんですね。

――おお、なるほど、メールのやりとりを。請求書のやりとりを。

阿部税理士 はい。そうすると、データが全部国税庁にたまるわけです。と、番号でマッチングができるんですね。この人とこの人の取引が本当にあったのかどうなのかということが。つまり、事業者間の取引を全部、このインボイスで監視するんだと。これが最終的な目的だと思います。
さらになんですけども、今、事業者は、我々消費者もそうなんですけども、そうなってくると、今まで請求書等々でのやりとりっていうのはそれで全部国はおさえるわけですね、取引を。そうすると、何がおさえられないのかっていうと、現金取引なんですよ。先ほどの例のコンビニで弁当を買ったとか。

――八百屋さんのとか、魚屋さんとか。

阿部税理士 そういうこともあるですよね。ですので、最近、なんとかペイとか、そういった、(オンライン決算サービスなどの)現金取引じゃないものをどんどん推し進めてますよね。そうすると、現金取引も全部おさえられるんですね。ですので、すべての取引が全部おさえられるようになると。で、今度は、消費者レベルの話になりますけども、今日、阿部さんのお宅の夕飯のおかずは何だったのかって全部わかるんですね。

――なるほど。

阿部税理士 さらに、こういう本を買っている、ああいう趣味がある、っていうのも全部わかるんですね。これ、先ほどもご紹介しました、韓国がその通りになってます。

――韓国は今、すべて電子インボイスになって。

阿部税理士 です。電子インボイスじゃないとだめです。ですので、例えば、事業者間で現金取引を行ったとしますね。阿部さんから依頼を受けて、お仕事をして、3万3000請求する。そこで3万3000円、その場で現金でもらっちゃいましたと。そうすると、その領収書は、韓国の場合ですと、FAXで国税庁に送ってます。

――ああ、そうなんですか。

阿部税理士 はい。そうすると、今度、国税庁のホームページを開いて、インボイス登録番号で、たどっていきますと、阿部さんのページが出てくるようになるんです。まあ、暗証番号等々を入れながらですね。そうすると、3月の消費税申告の時期に、その期間にそのページを開くと、阿部さんの消費税の申告書のたたき台ができてます。で、「これでいいですか?」というボタンを押して「YES」と押すと、それで申告になってしまうと。その税金を払えと、いうようなことが今、韓国でまさに行われてます。
(日本も)そういうふうになってくるのかなと。そっちの申告の話は余談かもしれませんけども、もう監視社会に突入というのは、目に見えた話なのかしらと。ちょっと長くなりましたけども、添えておきます。

――DXなんていうふうな言い方もありますけど、電子インボイスを推進したほうが暮らしが便利になるんじゃないかみたいな意見もちらほら聞くんですけども。実際、便利なんですかね?

阿部税理士 便利は便利なんでしょう。その代わり、プライバシーというものはなくなります。どちらを優先するのかということですよね。

――はい。監視が強化されていくということは、例えばどういう弊害といいますか、もちろん本なんかも、エッチな本とか、あるいは思想的な本とか、そういうのを買ったときに、「こいつはこういう人間だ」みたいなマークをされるとか、そんなことが起きてきたりするんですかね?

阿部税理士 可能性とするとあるかなと思います。ですから今、いみじくもコメントいただきましたけども、学校で男子学生には、「お前らそのうちエッチな本買えなくなるぞ」と。「バレちゃうぞ」と、いうような笑い話で紹介してます。

――なるほど。これ、監視っていうことは、逆にいうと、国税庁のほうも徴収がしやすくなっていくってことですか?

阿部税理士 徴収もしやすくなるでしょうし、例えば、すべての取引がオープンになってますので、脱税云々って話もなくなるわけなんですね。もう全部バレてるわけですので。その中で脱税したら、「あ、あなた、やりましたね」と。もう自首してるようなもんなんですね。ちょっと話が横にそれました。

――いえいえ、僕ちょっと不思議に思ってたんですけども、そういう韓国ですら偽造インボイスが横行していたんですか?

阿部税理士 はい。先ほどお話ししましたけども、「していた」という言葉をあえて使わせていただいたのが、そういったこともあって(韓国は)電子(インボイス)に変えたんですね。それまではペーパーインボイスだったわけです。

――なるほど、なるほど。ようやくわかりました。

阿部税理士 すいません、言葉足りなくて。

――いえいえ。じゃあ、そういう監視の社会が待っている可能性があるということですね。

阿部税理士 はい。

――わかりました。

阿部税理士 ですから、ライターの阿部さんとするならば、「ちょっとね、こういう記事を書いてるのは、どういうやつなんだ」ということなんですね。バレてしまうと。

――ああ……なるほど、なるほど。

阿部税理士 そういったリスクも十分あるんだと。

――ああ、確かに……それはちょっと困るところもあります。なるほど、なるほど。わかりました。

消費税と、消費税の事業者免税点制度の成り立ち

先ほど、「Nらじ」のところにこんな質問もあったんです。「消費税の免税措置の合理性がわかりません」。

阿部税理士 先ほどお話ししましたけども、我が国の消費税、平成元年(1989年)に始まりました。そのとき、この免税点っていうのは(適応上限が)3000万円だったんです。

――そうでした。

阿部税理士 で、今、1000万円なんですね。これなんで3000万円の免税点にしたのかっていうこと、これまでは、今もなんですけども、税法用語で「インボイス方式」ではなくて「アカウント方式」、いわゆる帳簿方式なんですね。帳簿で計算、消費税の計算をしなさいと、帳簿をベースにしなさいと。ここまでよろしいでしょうか?

――はい、大丈夫です。

阿部税理士 国税庁、国側、税務署側からすると、年間売り上げが3000万円以下の事業者の帳簿というのは、当てにならないと。そこへもってきて調査をする云々ってことになると大変手間がかかるんですね。だったらば…っていうことで、3000万円で切ったんです。つまり、課税庁側の事務効率のために免税点というものをつくったんです。

――そうなんですか?

阿部税理士 はい。ただ、その後、先ほど来から出てくる「益税」という問題が出てきた。さらに、その頃からインボイスを狙ってたんでしょうね、まあそういったことがあるもんだから、免税点制度(の適応上限)というものを引き下げて、現在1000万円になっていると。

――国会での答弁を調べたんですけど、それこそ昭和の二十何年ぐらいからもう(インボイスの)話はあって、それこそ消費税を導入するときにも話されてるんですね、インボイスは。

阿部税理士 はい。

――だからある意味、当時の大蔵省(時代)から悲願のインボスだったのかな、なんていうふうに。

阿部税理士 と思います。悲願だったと思います。ですので、それが証拠にじゃないんですけども、消費税をとりあえず、まずは入れたかったんですね。入れたかったもんだから、ゆるい制度で入れたわけなんです。で、入っちゃったらこっちのもんだっていうことで、引き締めになってると。このように考えていただいてよろしいかと思います。

――それこそ3%から始まったものがどんどん税率も上がっているし、免税点制度も3000万円のラインだったものがどんどん下がって今1000万円になっている。

阿部税理士 そういうことですね。さらになんですけども、そういった課税庁サイドの事務の効率化というのかな、徴収事務の効率化ですね、簡素化ですね、これをベースに事業者免税点制度というものが始まりました。あれから三十数年経ちました。

――先生、すいません、確認なんですけども。免税点制度っていうのは、事務の効率化っていうのは知ってたんですけども、それは納税する人たちにとっての効率化ではなかったってことですよね?

阿部税理士 なかったということです。

――最初はそうだった。

阿部税理士 そういうことです。そこで始まったわけなんですけども、それから三十数年経ちました。ずっと我が国は不況、不況というようなね、一部ではマスコミ等々は景気がいいとか言ってますけども、我々中小零細事業者からすると、値段を叩かれ、値引き、値引き、値引きということがずっとなされてきたわけですよね。

そうすると、本来だったら、この事業者免税点制度なんていうのはなければいいのかもしれません。いいのかもしれないんですけども、あえて今、そういうこと言ってます。ただ、この事業者免税点制度というものは、三十数年、消費税が動き出してから今日までの間、世の中の移り変わりを見てみるとするならば、先ほどのように自腹を切らなければならないような人たちが多数いるわけなんです、免税事業者。

その人たちのいわゆる生きる権利、これを象徴しているのが、事業者免税点制度ではないだろうか。ですので一部の方がですね、「事業者免税点制度っていうのは、免税事業者の方々の生きる権利を、消費税法上表現したものなんだ」っていうことをコメントされてる方がいますけども、それは違います。そうではなくって、始まりはそういった事務の効率化というところから始まってはいるんです。

だけども、今日現在の実態はどうなってるのかっていうのをよく見てみるならば、これは、きちんとした正常な価格でモノを販売できない、値引き、叩かれる、そういった方々、さらに叩かれた上で消費税相当分のお金ももらえないという方々に対する生きる権利を表現したものなんだっていうふうに、実態が変わってるんじゃないかと。我が国の憲法は、「(すべて国民は)健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と書いてますね。 [日本国憲法 第25条]

つまり、「健康で文化的な最低限度の生活を営む所得に対しては課税してはならない」ってことになるわけなんです。それを所得税法上、具体化したのが、俗に言う「基礎控除」っていうやつなんですね。それの実態とするならば、それの消費税版というものが、事業者免税点制度というかたちで今日、機能してるじゃないかと。そこは間違ってほしくないし、そういうふうに考えるべきなんじゃないかと私は考えてます。

――現状、デフレが続いて、これが今はコストプッシュ型インフレみたいなことを言われてますけど、物価も上がってて、実態として、生きる権利と言いますか。

阿部税理士 そういうふうに、はい。

――実態としてはその役目を、今、現状、免税点制度が担っていると。

阿部税理士 担ってると。だから、維持しなければいかんのだということです。

――わかりました。そろそろお時間が9時近くなってきたので、最後に先生、ここが言い足りないとか、もし補足する箇所とかもしありましたら、お願いします。

阿部税理士 はい、2点あります。まずは、この制度をしっかり理解することだと思います。どういう制度なのか。一生懸命、今、語らせていただいたつもりですけども、理解をまずしてください。
理解した上で、インボイス発行事業者登録をすべきかするまいか、ということの判断を、やっぱりこれ、取引先との力関係ということになってくるわけなんですけども。トータル的にみて、どっちが得なのかということで判断すべきなんではないかと思います。「消費税を払ったほうが得なのかもしれないね」「いやいや、免税事業者で値引きを受けたほうが得なのかもしれません」。これはわかりません。ケースバイケースですので。その上で、登録をするんだったら登録をしてほしいし、「いや、そうじゃない」っていうんだったらしなくてよろしいかと思います。この2点をぜひともご理解いただければと思います。以上でございます。

――わかりました。今夜はお忙しい中、夜分遅くにありがとうございました。

阿部税理士 とんでもございません。

――それこそ、ここで発表してもいいのかわからないんですけど、ちょっと10月後半ぐらい、11月、また何か集会なり、イベントなりを、「インボイス制度の中止を求める税理士の会」の方たちと我々「インボイス制度を考えるフリーランスの会」と、何かしらやろうという話が今進んでおりますので、また阿部先生もぜひともお力添えといいますか。

阿部税理士 はい、当然のこととしてやらせていただきます。あとすみません、1点だけ、私もよろしいでしょうか?

――はい、どうぞ、ぜひとも。

阿部税理士 先ほどから「Nらじ」のお話をいただいておりますけども、実は担当ディレクターから連絡がありまして、話し足りないだろうということで、来月の9月22日、木曜日、同じ番組で、やっぱり15分ですが、お時間をいただけました。
ですので逆に言うと、今日先に皆さん予習していただいたようなかたちでですね、今日のところをまた語ってきたいと思っております。ぜひともインボイス制度の廃止、中止に向けてがんばっていきたいなと、皆さんと力を合わせてがんばっていきたいと思ってます。

――ぜひともよろしくお願いします。

阿部税理士 こちらこそ。ありがとうございました。

――はい。本日はありがとうございました。というわけで、本日のスペースは録音を残し、後日YouTubeでもアップします。TwitterのフォローやYouTubeのチャンネル登録もよろしくお願いします。今後もインボイスに関するさまざまな情報を発信していきたいと思っております。そして、オンライン署名も集めています。こちら今、8万筆を超えていますが、本当にSTOPさせるには30万、40万と集めていきたいと思っているので、まだ署名してないよという方はよろしくお願いします。というわけで、本日もありがとうございました。皆さん、遅い時間までありがとうございました。阿部先生もありがとうございました。

阿部税理士 ありがとうございました。



●この回の音声アーカイブ(YouTube)

●「インボイス制度」反対へのオンライン署名

Change.org のサイトから、簡単に署名ができます。ご賛同頂ける方は、ぜひリンク先からご署名ください。10万筆、20万筆と積み重ねることで、国を動かす大きな力になります。


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