見出し画像

恋愛短編小説 「花火空の約束」


六月二六日、高校の帰り道に、一ヶ月後の河川敷で開催される花火大会について、わたしは好きな人を誘うべきか考えていた。

「好きな人を誘うべき」と友達は言うけれど、わたしは断られることを恐れていた。好きな人、それは、カズヤ、もの静かで目立たない存在だけど、わたしには魅力的に見えるかっこいい人。わたしにとっては、話しかけるだけで一苦労の存在だ。


七月十五日、わたしと妹は花火大会のために浴衣を選んでいた。わたしたちの部屋は浴衣や帯でごちゃごちゃになっていて、何だかわくわくする空間になっていた。

「ねえ、お姉ちゃん、これどう?」妹がピンクのキキョウ柄の浴衣を手に取って見せた。その浴衣はたくさんのキキョウが咲き誇る明るいデザインだった。

「かわいいね。でも、もう少し落ち着いた色の方がいいかな。わたしはこれがいいな」と言いながら、わたしはアサガオ柄の浴衣を抱えて見せた。淡い桃地に白いアサガオが涼しげで、どこか懐かしい気持ちにさせる柄だった。

妹はわたしの選んだ浴衣をじっと見て、「お姉ちゃん、それすごくいいと思う!大人っぽい!」と目を輝かせて言った。

その後、わたしたちは帯の色を選ぶことにした。妹は自分のピンクの浴衣には黄色の帯を合わせたいと言って、その組み合わせを手に取った。一方、わたしは自分のアサガオ柄の浴衣には、シンプルな紺色の帯を選んだ。

「これで花火大会、すごく楽しみになってきたね!」妹がニコニコしながら言った。「うん、本当に楽しみだね。一緒に行けて嬉しいよ」とわたしは答え、二人で笑い合った。


七月二六日、花火大会当日。

結局、カズヤを誘う勇気はわたしにはなかった。

わたしたち家族は人混みをかき分けながら観覧場所にたどり着いた。空は徐々に暗くなり、花火が始まるのを心待ちにしていた。それでも、心のどこかでは、カズヤのことを考えていた。

「きれいだね」と妹が言った。その声に現実に引き戻され、わたしも「うん」と答えた。ふえの音が鳴り響いて、大きな音とともに花火の色とりどりの光が夜空を彩りはじめた。

それはまるで、わたしの心の内を打ち破るかのようだった。

その時、ふと人混みの中に見覚えのある横顔が見えた。カズヤだ。彼は仲の良い友達と一緒に、花火を楽しんでいるようだった。わたしは少し遠くから彼を見つめた。彼の笑顔は、花火よりも輝いているように見えた。

わたしは彼に声をかけようと一歩踏み出したが、すぐに止めた。彼が楽しそうにしているのを見て、何もかもがちっぽけに思えてきた。わたしはただのクラスメイト、彼にとっては特別な存在ではないのだから。

でもその時、わたしは決心した。彼にとってわたしが特別な存在になれなくても、自分の気持ちに正直に生きること。それがわたしにできることだと。

花火が終わると、家族と一緒に帰路についた。家に向かう道すがら、わたしは空を見上げた。花火の光はもうないけれど、星は静かに輝いていた。その星のように、わたしも自分の小さな光を放つことを恐れないで生きていく。それが、今夜の花火から受けた教訓だった。

次の日、学校でカズヤとすれ違ったとき、わたしは彼に軽く笑いかけた。彼も何気なく笑い返してくれた。それだけで心が躍る。

これがわたしの片思いの形で、それでいい。今はそれでいいと、わたしは思った。自分の気持ちに正直に、一歩一歩前に進む勇気を持つこと。それがわたしのこれからの目標だ。





時間を割いてくれてありがとうございました。

この記事が参加している募集

私の作品紹介

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?