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短編小説 「カエルの日記」


夕方、コンビニでのちょっとした買い物の帰り道、道端にアマガエルの緑色が、アスファルトの灰色に鮮やかに映えていた。

子供のころ、田舎でよくカエルを追いかけて遊んでいた。その頃の記憶が蘇ってきて、何となく、枝でカエルをつついてみたくなった。近くに落ちていた枝を拾い、そっとカエルをつついてみた。しかし、カエルは僕の期待とは裏腹に、ぴくりともしなかった。どうやら、動く気配はない。

「面白くないな」と思いつつ、何とかこの小さな生き物に何か反応を引き出したい一心で、コンビニで買った水のペットボトルを取り出した。そして、カエルに軽く水をかけてみることにした。水滴がカエルの小さな体を濡らすと、ようやく彼は動き始めた。小さな足でちょこまかと逃げる姿に、僕は思わず笑ってしまった。

「動いた動いた」と低く呟きながら、カエルが安全な草むらに向かうのを見守った。ほんの少しのいたずらが、なんとなく彼との小さな交流のように感じられた。

カエルが見えなくなると、ふと我に返った。僕は何をしていたんだろうと。大人になっても、こんな子供じみたことをしてしまうのは、どこかでいつまでも少年の心を持ち続けているからかもしれない。カエルとの出会いが、日常の一コマとして、ふとした新鮮さをもたらしてくれた。なんとなく、心が軽くなる感じがした。

道を歩きながら、自然とのふとした触れ合いが、いかに日常から切り離されているかを感じた。都会の生活は便利で快適だけれど、こうした小さな生き物との出会いはめったにない。

その一匹のカエルが、忘れかけていた感覚を呼び覚ましてくれたようだった。

家に帰る頃には、空がすっかり暗くなっていた。リビングの灯りをつけ、今日の出来事を日記に記すことにした。ペンを走らせる手が止まることなく、カエルとの出会いを詳細に書き留めた。

それはただの日記の一ページに過ぎないかもしれないが、僕にとってはその日の大切な記憶だ。小さなアマガエル一匹が、僕の日常に少しだけ色を加えてくれたのだから。




時間を割いてくれてありがとうございました。

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