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トライアスリートにとってのFTP;Functional Threshold Powerという概念とウエイトトレーニング

●Functional Threshold Powerとは

近年、サイクリストやトライアスリートの間で注目されているFTP(Functional Threshold Power)という概念、指標は書籍「Training and Racing with a Power Meter」の中で、その著者Andrew Coggan(PhD)によって提唱された概念、指標であり「1時間のぺダリング運動において持続可能な最大出力」と定義されていますが、以下の先行研究によれば8分間最大出力テストによって推定されたFTP(8分間最大出力テストで得られた平均出力(W)×0.90)はOBLA(Onset Blood Lactate Accumulation=血中乳酸蓄積開始点=血中乳酸濃度が4mmol/lに相当する運動強度)でのパワーアウトプット(Power Output@OBLA)と同等であることが示されています。

J Strength Cond Res. 2012 Feb;26(2):416-21.
Comparison of a field-based test to estimate functional threshold power and power output at lactate threshold.
Gavin TP, Van Meter JB, Brophy PM, Dubis GS, Potts KN, Hickner RC.

OBLAの生理学的意義は不明瞭な点もありますが、OBLAは無気的エネルギー供給システムの関与も大きい運動強度であるといえますのでFTPを測定することで無気的エネルギー供給能力を含めたバイク能力の評価が可能であるといえるでしょう。

●トライアスロンと無気的エネルギー供給能力

ところで、トライアスロンは持久系競技ではありますが近年のオリンピックディスタンストライアスロンの記録は2時間を大きく下回るほど高速化していることから考えれば、有気的エネルギー供給能力が重要であることは勿論のこと、むしろ有気的エネルギー供給能力よりも無気的エネルギー供給能力が重要であると考えられ、以下の先行研究を踏まえて考えれば特にバイクパフォーマンスに関しては無気的エネルギー供給能力の高さが大きく関与していることが推察されます。

Med Sci Sports Exerc. 2009 Jun;41(6):1296-302.
Distribution of power output during the cycling stage of a Triathlon World Cup.
Bernard T,Hausswirth C,Le Meur Y,Bignet F, Dorel S,Brisswalter J

実際に、スイム能力に劣る選手はバイク序盤に前方の集団に追いつくために一気にペースを上げなければなりませんし、また、折り返しターンのあるバイクコース(以下の動画1:03辺り参照)では折り返し後に集団から離れないよう一時的なスプリントが必要になり、周回コースになれば、そのスプリントを定期的に複数回繰り返さなければならないことから高い無気的エネルギー供給能力が必要になることは容易に推察されます。

●トライアスリートとFTP

これらのことから、特にオリンピックディスタンストライアスリートにおいてはバイクでの無気的エネルギー供給能力を評価することが重要であるといえ、それを評価する上でPower Output@OBLA=FTPを用いることが有効であることが推察されます。

但し、今後、FTPを用いたバイク能力の評価方法を確立するためには、FTPを推定する上で8分間テストを用いた方が有効なのか、20分間テスト(20分間最大出力テストで得られた平均出力(W)×0.95)を用いた方が有効なのかを検証すべく更なる研究が必要であると共にFTPとオリピックディスタンストライアスロン競技パフォーマンス及びバイクパートパフォーマンスとの関係に関する更なる研究が必要であるといえるでしょう。

また、サイクリストの平均的なケイデンスは90-110rpmであることが先行研究(参考文献:1-4)等によって報告されていますが、ケイデンスの違いによって発揮される筋力が異なる可能性があること(参考文献:5)、動員される筋線維が異なること(参考文献:6)、が報告されていることから考えれば、一定の仕事率(例えば200W)でぺダリング運動を行った場合、高回転ぺダリングよりも低回転ぺダリングの方が発揮される筋力が大きく筋疲労が生じやすい可能性があり、トライアスロンにおいてはバイクパートの後にランパートがあることからバイクパートでの下肢の筋疲労を極力抑えるために高回転ぺダリングによってスピードを維持する能力を向上させる必要があるといえます。

ペダリング運動のパワー出力は「トルク(簡単にいえばペダルに加わる回転力)xケイデンス(回転数)」で表されることからハイケイデンス(高回転数)で得られたFTPとローケイデンス(低回転数)で得られたFTPは同じ値でも、その解釈、評価は異なる可能性があり、上述の通りトライアスリートはハイケイデンスによるパワー出力が重要であると考えられることから、ケイデンスを固定・設定(例えば、90rpm)したFTPの測定、評価が重要であるといえるかもしれません。

●FTPの向上とウエイトトレーニング

いずれにしても、トライアスリートのバイクパフォーマンスを評価し効果的なトレーニングを行なっていく上でFTPを活用することは非常に重要であるといえる訳ですが、下記のRønnestadらの先行研究では、バイクトレーニングに併せてウエイトトレーニングを実施した場合、Power Output@OBLAが向上すること、更にいえば自転車競技パフォーマンス(40分間オールアウトテスト)が向上したことが報告されています。

すなわち、ウエイトトレーニングによってPower Output@OBLA=FTP(90% of 8min Power Output)の向上が期待出来るという訳です。

Scand J Med Sci Sports. 2015 Feb;25(1):e89-98.
Strength training improves performance and pedaling characteristics in elite cyclists.
Rønnestad BR,Hansen J,Hollan I,Ellefsen S.

FTPという概念、指標に関してはまだまだ十分な研究が行われておらず現場的視点から生まれた概念であるといえ、生理学的意義、背景については十分に明らかにされていない点もありますが、FTPはバイクパフォーマンスに大きく関与している可能性が非常に高いといえることから、トライアスリート(特にオリンピックディスタンストライアスリート)はFTPを向上させるべくトレーニングする必要があるといえ、上記の研究結果を踏まえて考えればトライアスリートはウエイトトレーニングを実施すべきであるといっても過言ではないでしょう。

(また、ウエイトトレーニングによって下肢の筋力そのものを向上させることでぺダリング運動中に発揮される筋力に余裕が生じトライアスロンのランパートに良い影響をもたらすことが可能になるといえます。)

参考文献:

(1) Hagberg J M,Mullin J P, Bahrke M,Limburg J:Physiological profiles and selected psychological characteristic of national class American cyclists. J Sports Med 19;341-346,1979.

(2) Patterson R P,Moreno M I:Bicycle pedalling forces as a function of pedalling rate and power output Med Sci Sports Exerc 22;512-516,1990.

(3) Sargeant A J:Human power output and muscle fatigue. Int J Sports Med 15;116-121,1994.

(4) Marsh A P,Martin P E:Effect of cycling experience,aerobic power, and power output on preferred
and most economical cycling cadences. Med Sci Sports Exerc 29;1225-1232,1997.

(5)Redfield R,Hull M L:On the relation between joint moments and pedalling rates at constant power in bicycling. J Biomechanics 19;317-329,1986.

(6)Ahlquist L E,Bassett Jr D R,Sufit R,Nagle F J,Thomas D P:The effect of pedaling frequencyon glycogen depletion rates in type I and type II quadriceps muscle fibers during submaximal cycling exercise. Eur J Appl Physiol 65;360-364,1992.


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