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四国の怪奇現象「古杣(ふるそま)」


『絵本集艸』より「古杣」


レナは、軽い心拍とともに森の静寂を楽しんでいた。四国の山々は、彼女の故郷、チャビリンスクの厳しい冬景色とは違い、柔和な緑と湿気満ちた空気が新鮮で心地良かった。
彼女はジャーナリズムを志す奈良の女子大生で、この夏休みに四国を旅して、地元の自然と文化を体験することにした。

山で過ごす最初の夜、レナは夜空を見上げ、星の光が木々の間を照らし出す光景に感動していた。しかしその時、「カーン、カーン」という木を切るような音が聞こえてきた。

それは鋭く、はっきりとした音で、森の中のどこかで誰かが木を切っているようだった。その音は次第に大きくなり、「バリバリバリッ」「ドーン」と大木が倒れるような音まで響き渡った。

しかし、それがどこから来ているのか、なぜこんなに遅い時間に誰が木を切っているのか、レナには理解できなかった。そして音が止んだ後、静寂が再び彼女を包んだ。彼女は一晩中、その音の謎に思いを馳せ、夜が明けるのを待った。

翌朝、レナはその音が響いていたと思われる方向に向かって歩き始めた。しかし、彼女がたどり着いた場所には、木を切った跡も倒れた木も何もなかった。まるで昨晩のことが幻だったかのようだ。

レナ「あの音は・・・一体何だったん・・・?」

知りたがりのレナが地元の人々に話をしたところ、それが「古杣(ふるそま)」という現象だと教えてもらった。


古杣(ふるそま)


「古杣」は四国地方の伝説で、山で暮らす人々が体験する、音だけの妖怪の一つだという。

"古杣(ふるそま)"は、四国地方に伝わる怪音現象で、音のみの妖怪ともされます。主に山を生活の場としている地方に伝えられており、木を切る音や木を挽く音、大木が倒れる音が夜間や場合によっては日中にも聞こえるといわれています。

その一方で、音が鳴った後に具体的な物的証拠(例えば、切られた木や倒れた木)が存在しないという謎があります。これは、聞こえる音が人間の作業によるものではなく、何らかの超自然的な現象であることを示していると解釈されます。

名称の「杣」には樵(木を切る人)という意味があり、いくつかの伝承では、この現象は倒れてきた大木の下敷きになって死んだ樵の亡霊、または盗伐中に死んだ者の霊、さらには山神の仕業とされています。

また、樵が山中に置き忘れた墨差し(木を切る際の印をつける道具)に魂が宿るという伝承もあります。この墨差しの霊が山仕事を続けることで「古杣」が起こるとも言われています。いくつかの地方では、墨差しや黒壷(墨を入れる器)の霊、あるいは山中で突然死した者の霊が一緒になって古杣を引き起こすとの伝承も存在します。

古杣 - Wikipedia

レナはその話を聞いて驚き、更に興味を持った。

レナ「音鳴らすだけの妖怪がおるんか? 何の意味あるねん!おもしろ」

レナはロシア出身で、自然と山と怪奇を愛する学生である。神秘的な現象に対する興味が尽きない彼女は、この「古杣」の謎を解き明かそうと決意した。四国の山に残るこの不思議な現象と、その背後にある可能性のある伝説や文化、そして彼女自身の体験を組み合わせて取材し、YouTube動画にまとめることにしたのだ。

こうして、レナの奇妙で興味深い「古杣」の探求が始まった。

「続く」


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