見出し画像

アングスト/不安

 <イントロダクション>
本物の《異常》が今、放たれる。後悔してももう遅い。

殺人鬼ヴェルナー・クニーセクが起こした1980年1月、オーストリアでの一家惨殺事件。約8年の刑期を終えて予定されていた釈放の1ヵ月前、就職先を探すために3日間のみ外出を許された際の凶行だった。決して世に放出してはならなかったこの狂人の異様な行動と心理状態を冷酷非情なタッチで描写した実録映画が『アングスト/不安』だ。
1983年公開当時、嘔吐する者や返金を求める観客が続出した本国オーストリアでは1週間で上映打切り。他のヨーロッパ全土は上映禁止、イギリスとドイツではビデオも発売禁止。アメリカではXXX指定を受けた配給会社が逃げた。

映画『アングスト/不安』公式サイト

2020年7月25日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷で鑑賞。

83年に初公開の作品でありながら、映画の内容的に今回が日本初公開のシリアルキラーに焦点を当てた作品。
殺人で投獄され、出所後にまた殺人を犯してしまう主人公を、主人公のナレーションと共に一人称で描かれている。少し前に公開されたラース・フォン・トリアー監督の『ハウス・ジャック・ビルド』という同じくシリアルキラーに迫る作品もあるが、印象的にはハウス〜よりも殺人鬼の様子を客観的に描いている。そのため、主人公の殺人鬼 K.の行動に不可解な部分が多いのだが、その様子を淡々と映しているため、より「殺人をしたときはこんな雰囲気なのかもしれない」というリアリティがある。

この作品がそもそも上映禁止になり、今日まで日の目に当たらなかった理由は映画のテーマから読み取れるが、殺人鬼を生々しく描き、心の声(ナレーション)を入れることで殺人を幇助するような印象受けることが個人的には一番の問題だったのではないかと思う。
だが、一番恐ろしいのは主人公がなぜ殺人を犯すのか?という最大の問いに自分自身でも理解ができていないという点だ。

そんな問題作を監督したジェラルド・カーグルはこの作品が唯一の長編映画であるが、撮影監督のズビグニェフ・リプチンスキのカメラワークは独創的で一見の価値あり。(ジョンレノンやペットショップボーイズのMVも担当している。)
特に演者自身にカメラを装着して人物を撮るシステムは、殺人鬼 K.が常に誰か(何か)に追われている様子を見事に表現していると思う。今ではGoProで簡単に撮れるとは思うが…。

理解や共感などを超えた、劇薬のシリアルキラームービーである。

( Y.K )

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?