碧空

小さな飛行機を降り立つと、頭上に広がる濃い青い空。
ここは、東京の島、八丈島。
黒潮が流れる深い青い海の色が映し出されたような、空。

恋人と大げんかをして、やけっぱちのひとり旅。
あんな奴のことは忘れて、美味しいもの食べて、露天風呂に入って、島を満喫し尽くしてやる。
なのに、くさやの匂いに驚いたり、アシタバの天ぷらに感心したり、真昼間に入った温泉で、海を見おろすその景色に驚嘆したりするたびに、アイツの顔を思い出す。

島へ行ってから、もう10年も経つ。
毎日、会社、保育園、家の三角形を走る、島から遠く隔たった忙しい日々。
そんな中、島から持ち帰って生活に欠かせくなったものがある。
それは、刺身に青唐辛子の習慣。
小さな子供との暮らしで、滅多に外食も旅行もできないけど、お刺身に青唐辛子を添えて食べると、あの濃い青い空が蘇ってくる。

そして、お父さんになったアイツは、何も知らないでこの青い辛さを気に入っている。


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