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昭和63年、僕は「遊び場」作りに夢中になった【Taro's Subject】

 小学校低学年のころ僕は「新しい遊びを生み出す」のが得意だった。もちろん、斬新で誰も見たことのないような遊びを生み出すわけではない。鬼ごっこの進化版だったり、テレビで見たものを子供の遊びに応用しただけだ。それでも新しい遊びを考え出すと、それにどんどん人が参加して多くなっていく。クラスで勉強ができるわけでも、スポーツが得意なわけでも、ガキ大将でもない僕が、昼休みの時間だけちょっぴり目立てるのが嬉しかった。

 きっかけは1988年のカルガリーオリンピックのスキージャンプで大活躍したマッチ・ニッカネンだった。個人70m級、90m級、団体90m級の3種目すべてで金メダルを獲得したニッカネンのジャンプは、大きな感動を僕に与えた。9歳の僕はなんとかして彼のマネをしたいのだが、どうにも周囲に雪がない。そこで注目したのが、滑り台だった。
 なんてことはないのだが、滑り台の上から滑り落ちるときに、尻をつけずにスキージャンプのような体制で靴底で滑っていき、砂場に落ちる前にジャンプする。そんな感じの遊びだった。
 とにかくニッカネンにお熱だった僕は、学校のお昼休みどの遊びにも参加せず、滑り台に行ってはスキージャンプのようなことを繰り返す、ということをするようになった。最初は「あいつ、何やってんの?笑」みたいな目で同級生は見ていたが、僕があまりに楽しく遊んでいたせいか、徐々に人が集まるようになっていった。その輪がドンドン広がり、最終的には他のクラスの知らない奴まで参加するような、人気の遊びにまで発展しただ。
 オリンピックが終わると徐々に僕のニッカネン熱も冷めていき、いつの間にかやめてしまったが、これが僕が遊びを生み出すきっかけになった。

 その後、小学生の男子が夢中になるドッジボールが人気となる。僕も最初は楽しく参加していたのだが、どうも運動神経が良くないせいか、あまりおもしろくない。すぐに外野に飛ばされて、けっこう長い時間をそこで過ごす。せっかくの昼休みなのに、なんで多くの時間をゲームにたいして参加できずに終わってしまうのか…。納得がいかなかった僕は、何度か参加した後、ドッジボールへの参加をやめてしまった。
 とはいえ、これといって何をして遊んで良いのかわからない。僕は一人で鉄棒遊びをしながら、ぼんやりと校庭を眺めていた。なんとなく疎外感を感じながら、校庭を見ていると何人か目につくクラスメイトがいた。彼らも僕と同じようにスポーツが得意ではなく、ドッジボールに参加しておらずなんか所在なさそうにしている。

 次の日、僕は彼らを誘って新しい遊びをはじめた。

 そこまで緻密に設計していたわけではないが、なんとなく「スポーツが得意じゃない奴でも楽しめる遊びにしよう」と思っていたのを覚えている。
 考えた遊びは『安全地帯のある鬼ごっこ』だった。
 滑り台、タイヤの上(地面から3分の1ほどタイヤが出ているあれだ)、そして僕が砂の校庭にかかとで描いた小さい丸と大きい丸。これら4つの中にいれば鬼は手出しができない。みんな鬼に捕まらないようスキをついては、安全地帯の上を移動する。今思えばずっと同じ安全地帯にいれば、ゲームはまったくおもしろくないのだが、当時はそうはならず鬼の注意を誰かが引きつけながら、その間に安全地帯を移動するという風にゲームは設立していた。
 また、このゲームにはもうひとつ僕なりの工夫が施されていた。それは鬼が2人いるということだ。これはいつの日か普通の鬼ごっこをしたときに、僕自身が永遠と鬼になってしまい、なんだか悲しい気持ちになったことに起因している。鬼が一人だと孤独だが、2人でやれば連帯感が出て鬼も楽しい。ペアになる鬼も変わっていくから、退屈することもなかった。
 この遊びは大ヒットし最終的には先生も参加するような昼休みのメインイベントにまで成長する。人気だったドッジボールの参加人数が少なくなり、ゲームができなくなるまでに参加人数はふくらんだ。

 ゲームの人気は衰えることなく、しばらく盛り上がっていたがゲームを作った僕自身が転校することになり、その後、あのゲームがどうなったかはわからない。きっと春休みが終わるころには、みんな忘れてしまったのではないかと予想する。

 僕が小学校低学年の時に通っていた小学校は、どんどん転校生が増えクラスは9つもあり(後に人数が増えすぎて新しい小学校が近くにできた)、先ほど触れたとおりスポーツも勉強も喧嘩も得意ではなかった僕は、目立たぬ日陰の存在だった。そんな僕が「遊びを作り出す」というほんの少しの特技を見つけたことで、クラスの人気者たちと肩を並べて目立てる。そんなある種の快感を覚えたのは間違いない。この遊びゴコロが今にどう影響しているのかは、はかることはできないのだが、あの日のみんなの笑顔は心に焼き付いたままになっている。


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