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【入居直前!想定外EP】夢の防音室を作るまで Vol.7

どうも、こんにちは。

オーディオライター、音響エンジニアの橋爪徹です。
ハイレゾ音楽制作ユニットBeagle Kickでは総合プロデュースも勤めています。

前回は、売買契約と内見再調査についてお送りしました。詳細な調査を行った結果、まさかの想定外が発覚。仕様・見積もりの変更が発生してしまいました。予算が厳しい私にとって、迅速でベストな判断をできるよう常に集中して取り組んでいたことを思い出します。

このnoteでは私が防音室を作るまでを書き残すことで、オーディオファン・映画ファンにとって部屋を作ることを身近に感じて欲しいと思っています。
「別世界の話」、「金持ちの道楽」といった、ある種突き抜けた行為だと思わないで欲しいのです。連載を終える頃には、その意図が伝わっていたら本望です。

今回は、入居を目前に控えた最終打ち合わせ、自宅に設計スタッフを招いての音チェックなどを取り上げます。2017年5月上旬にはローン審査も通り、いよいよ工事契約も締結する段階に入りました。そんな中、まだまだ想定外はあったのです。
大規模リフォームを行った方なら、誰でも体験したことがあるのではないでしょうか。想定外はリフォームに付きもの。私の例ではありますが、どんな心構えで向き合えばよいのかお伝えできればと思います。

仕様を間違えた!?そもそも投射距離って何?

住宅ローンの本審査が確実に通ることが分かったのは、5/12。
耐震基準適合証明書が発行できることが現地調査で確定し、融資の条件が全てクリアされたときでした。本当にホッとしました。
ここまで到達して私がアコースティックラボに打ち明けたことがあります。それは防音室の名前です。実は、部屋を作ると決めたとき、既にStudio 0.xという名称は決めていました。しかし、もし住宅購入が頓挫したら恥ずかしいので、ずっと言えなかったのです。満を持して名前を伝えて、必ずいい部屋にしましょうと気持ちを高め合いました。

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リフォームを実施するには、マンションの管理組合に事前の許可を取らないといけません。住居スペースは自分の所有ですが、リフォームでは資材の出入りや騒音、エレベーターや廊下の養生など他の居住者への影響があります。そのため、どんな工事をいつまでやるのかといった概要を書いた紙を提出します。
私の場合は、5月中旬にかけて準備し管理組合に郵送しました。必要な書類は全部で5種類。管理組合の書式に則った工事届。平面図。仕様書と工程表。そしてマンションの掲示板に貼る近隣への挨拶文です。これらはアコースティックラボが作成してくれます。

引っ越しをする前に、自分のアパートにアコースティックラボのスタッフを招きたいと思っていました。現状の音の確認と、防音室で実現したい音の方向性を分かってもらうためです。理屈で説明するよりも、今の音を生で聴いてもらって、その上で私はこうしたいと相談した方がコンセンサスは作りやすくなります。
時期的には物件が決まったらと思っていたので、そろそろかと思って打診したところ、その場で工事契約もしましょうとお返事が来ました。時期的に余裕もないので、私もすぐ了解します。

ところがどっこい!
当時、平行して進めていたシネマ用の機材選定で急な変更が発生したのです!
スクリーンやプロジェクター、天吊り金具など、自分であらかじめ購入しておく機材はアコースティックラボにも機種をお伝えしていました。工事契約書や見積書、最新の図面が届いた頃、まさかのプロジェクター変更のお知らせ。私が選んでいたE社のプロジェクターは、投射距離が合わなかったのです。そのため、B社のプロジェクターに変更することになりました。(プロジェクターの天吊り位置をずらすことは難しく、スクリーンを大きくする案が出ましたが、スピーカーをさらに前に出す必要があるため見送りました)
このときは、機材購入前だったので事なきを得ましたが、基本的なことを理解していなくて悔しい思いをしました。B社のプロジェクターに変更すると性能が下がってしまい、かといって他の機種は予算に合わないため、かなりショックだったのを覚えています。

投射距離:プロジェクターの機種(仕様)とスクリーンの大きさで決まる、プロジェクターレンズ面からスクリーンまでの距離のこと。まず、シアタールームに設置するスクリーンの大きさを決めて、プロジェクターを設置する場所を想定。レンズからスクリーンまでの距離を測り、その距離の範囲に対応しているプロジェクターを見つけるのが順当と思われる。防音室を作る場合は、図面上で具体的な距離が出る。

このとき、2回目の内見(現地調査)で分かった内容を反映した見積もりも出ました。廊下が設計図書より狭かった事による入り口ドアの特注金額上乗せ。簡易レコーディングブースの床がベコベコなので、フローリング床の貼り直し金額上乗せ。

プロジェクター変更のイレギュラーが起こったこともあり、一度図面や見積もりなどについて詳しく説明を受けることになりました。これが契約前の最終打ち合わせでした。打ち合わせでは防音室のクロス(壁紙)を改めて選び直したり、簡易レコーディングブースのクロスも大きめのサンプルを見ながら決めたりしました。契約書の説明を受けて、追記して欲しい内容の相談なども行いました。
今後の見通しとして、実際に既存の内装を解体して見たときの状況によっては、また変更が入る可能性があることを知らされました。もうこればかりは見てみないと分からない。リフォームはある意味で生き物なのだと初めて実感しました。

引っ越し前の家庭訪問!今と未来の理想を語る

自宅での音チェックはこの数日後に決まっていました。メールでも密にやり取りが続きます。屋内スピーカーケーブルが当初の予定より太い製品に変わったため、ケーブルを通すCD管(曲げられる合成樹脂製の電線管)が太くなることに。見積もりに費用が上乗せ。スピーカーケーブルや屋内用Fケーブル、コンセント、コンセントプレートなどアコースティックリバイブ製の部材は、工事初日に現場監督に見せて説明することに。

そしていよいよ、自宅での音チェック!
6畳一間のオンボロアパートにアコースティックラボのスタッフをお招きして現在の機材の説明と音を聴いてもらいました。

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まず、契約書に署名捺印と、仕様面の最終打ち合わせ。
天井スピーカーの位置を微妙に変更したり、スピーカーを将来2個から4個に増やすことも出来るように通線口をずらしたり。アコースティックリバイブから調達する屋内配線用Fケーブルと埋込みスピーカーケーブルは安全率を加味して必要な長さを確認しました。
ワクワクとドキドキです。物件が確定すると現実味が一気に強くなりましたし、本当に防音室を作るんだなとジワジワ来る感じが好きでした。契約が終わると、工事準備金として施工費の一部を前払いしました。85万円也。こんな大金振り込んだことありません(笑) 本当にワクワクドキドキです。

事務手続きを終えたら音のチェックです。
普段通りのセッティングで音を聴いてもらい感想を聞きました。

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・和室という事もあるが、家具や物が多いのでかなり吸音されている
・防音室で聴くと、低音の鳴りは大きく変わるはず
・映画ソースでは、フロントスピーカーだけでは低音が足りていない。防音室は容積もあるためサブウーファーは必要だと思われる(当時、サブウーファー未使用)
・サラウンドスピーカー(計6つ)は10㎝フルレンジのためほとんど低域は出せない。全体的なベースマネジメントにおいてサブウーファーは重要

どうやら一般的な住宅では低域の吸音がネックになっているようです。高価な機材を購入しても低域に満足できないのは、部屋(床壁天井)の吸音も影響している訳です。実際に防音室で聴いてみると、低域だけでなく中域もかなり吸っていたんだなと気付きました。ボーカル帯域もずっと肉厚にリアルに変わって、映画の音声もすごく聞き易くなりました。

我が家ではテレビにシルクのカバーを掛けて、窓にはシルクカーテンを使い音響特性の改善を図っていました。テレビのカバーをタペストリー(化学繊維)、バスタオル(木綿)、シルクオーガンジーと変更してその違いも聴いてもらいました。

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化学繊維

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木綿

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シルク(テレビカバーとカーテンの二刀流)

実際の音は、化学繊維は質感も最悪で高域にガサつきが発生。木綿は質感が改善するも吸音し過ぎで平面的な音場に。シルクは質感が有機的になり、周波数バランスの癖も無く奥行きや定位感まで改善します。シルクは高価なので防音室には使えませんでしたが、吸音パネルのカバーは木綿にしてもらいました。

このとき、話したことで近隣への配慮がありました。音漏れは実際どうなるのだろうという話。まず、隣近所への心配はまず要らないだろうとのこと。
騒音には、音の意味が分かる有意味騒音と、特に意味を持たない無意味騒音があると教わりました。防音室の場合、前者は映画のセリフや音楽のメロディーの音漏れ、後者は低音域だけの音漏れが該当します。低音だけが連続あるいは散発的に聞こえても、その意味が分からなければ迷惑に感じにくいってことですね。(もちろん音量が大きければ迷惑)
対して、セリフや音楽が意味の分かる状態で漏れてくるとその音量が小さくても迷惑に感じます。例えるならば、冷蔵庫の駆動音は気にならなくても、わずかに漏れてくる隣の部屋のテレビの音は気になるってことです。
結論として、《深夜の映画鑑賞は爆音にし過ぎないように注意する》。これは常識の範囲ですから、それほどショックではありませんでした。

ということで、長くなりましたが、入居直前でこれほどの変更や修正が発生しました。
見積もり金額も上がっていったので、当時は相当戸惑いもありました。
しかしながら、リフォームには突発的な想定外は付きものです。その想定外にいかに正確でベストな判断を下していくかの方が重要だと私は学びました。
何か事が起こっても慌てず騒がず、できるだけ冷静に、後悔を残さないようしっかり対応していけるといいと思います。分からないことはアコースティックラボのスタッフが相談に乗ってくれます。

ということで、スタッフさんがコラムを寄せてくれました。

出来上がった商品を売買する業態とは異なり、建設業はこれから出来るものに対して契約するので、最終的には出来てからでないとわからない、ということになります。我々業者はどんなものが出来上がるのかを施主にイメージしていただくため、図面や写真、内装サンプルなどを駆使してプレゼンをし、お互いに合意したときに契約が成立します。ここで我々にとって非常に難しいのが、音に関しての約束です。遮音性能は数値で約束をすることは可能ですが、音の良し悪しはどうでしょうか?人により良い音の定義は異なるため、良い音の部屋を作ってほしい、と言われても、実際は難しいことなのです。残響時間を何秒に設定することや、周波数特性をフラットにする、といったことも約束することはできますが、その分コストもかかりますし、そもそもそれが良い音かどうかはわからないのです。良い音かどうかはお客様が評価することですが、少なくとも我々が正しいと信じているのは、防音室はただ防音すればよいわけではなく、機材や楽器などが、その本来の性能をいかんなく発揮できるような部屋であるべきという考えです。その考えに共感いただくため、モデルルームで音を聴いていただいたり、各種イベント等で体験していただいたりして、お互いに共感できたときに契約に至るよう進めています。

さて、次回は入居(引っ越し)から工事開始初日までをレポート予定です。これまでは、壮大な準備の期間。実際に防音室が作られるまで、秘蔵の写真も含め大公開していきます。

どうぞ、お楽しみに!

技術監修:アコースティックラボ


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