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【物件購入終盤】夢の防音室を作るまで Vol.6

どうも、こんにちは。

オーディオライター、音響エンジニアの橋爪徹です。
ハイレゾ音楽制作ユニットBeagle Kickでは総合プロデュースも勤めています。

前回は、部屋の音響特性を検討するべく、音声収録を行った模様をレポートしました。声優さんをお呼びした音声レコーディングを通して、自分の部屋ではどの程度の吸音が必要なのかを追求します。さらには演じやすい吸音の程度はどのくらいかという新たな発見もありました。
大金を掛けてつくる防音室です。自分の希望はどこにあるのか、あらゆる面で研究するのが大事になってきます。

このnoteでは私が防音室を作るまでを書き残すことで、オーディオファン・映画ファンにとって部屋を作ることを身近に感じて欲しいと思っています。
「別世界の話」、「金持ちの道楽」といった、ある種突き抜けた行為だと思わないで欲しいのです。連載を終える頃には、その意図が伝わっていたら本望です。

今回は、売買契約と追加で行った内見の模様をお届けします。
いよいよ引っ越しと施工開始が近づいてきましたね。書いている私もワクワクします。

……と、本題に入る前に少し脱線。

実は、私のマンションが大規模修繕の真っ最中なのです。
過去最大規模の修繕らしく、なかなか運のいいタイミングに引っ越したものです。
ところが、この大規模修繕。建物のコンクリート躯体に衝撃を与えるため音が防音室に入ってきてしまいます。カンカン、コンコンといった音。リビングや寝室で聞こえてくる音に比べたらだいぶ小さいものの、明らかに分かる音量です。
ちなみに「防音室を作ったのに、外の音が入ってくるなんて不良品じゃないか!訴えるぞ!」ということにはなりません。なぜならこれは契約時に承知していた内容だからです。
具体的には、上階で人が飛び跳ねたり、雷や地震、道路工事、緊急車両のサイレン。こういったケースは防音室内部でも聴こえる可能性があるという免責事項です。
今回の大規模修繕は、人が飛び跳ねるケースや道路工事に近い内容になります。つまり、空気中を伝わる音ではなく、大地や建造物の躯体を伝わって届く音です。
こればかりは、妥協せざるを得ません。業務用ではないので、そこは割り切って利用するわけです。
2ヶ月以上の大規模修繕は長く感じます。早く終わって欲しいものです。

不動産購入は面倒くさい!?すったもんだの売買契約

それでは本題に入りましょう。
前々回で紹介した設計図書、そして細部の仕様相談を通して、具体的な図面が出来上がってきました。概算の見積もりを作ってもらい、その金額を元に物件購入に充てられる予算を決めていきました。
手元の自己資金、親からの援助金、そして住宅ローンの借りられる上限値(事前審査でMAXがいくらまでか出してもらいます)。これら3つの要素が物件を買い付けできるかを決めます。ここで言う「買い付け」というのは、「私はこの物件をいくらで買いたいです」と売り主に通知することです。
防音室は、全て自己資金から一括で払うつもりでした。仕事のために使う部屋をローンにしたくなかったというこだわり、そして住宅とリフォームを合わせてのローン審査は厳しかったという現実問題。自然と一括払いは確定しました。
あれこれ仲介会社と相談して、どうにか先日内見した物件でいけそうという目処が立ちます。

しかし、ここで新たな壁が。引っ越して防音室を施工して、机や椅子など防音室の家具を買っていくと、自己資金がドンドン減ります。手持ちのお金がほぼゼロで新生活を始めるのはリスクが大きいのは言うまでもありません。
そこで、通帳の残金が最低でもこのくらいは欲しいというデッドラインを決めて資金計画を仲介会社に作ってもらい、それを元に値引き交渉を行いました。結果として、提示されていた価格から50万円の値引きを実現しました。
中古物件というのは、仲介会社を通して売り主(当時の居住者)と交渉するため、テクニックが必要です。交渉が破談しないよう慎重にやってもらいました。100%こちらの要望通りとは行きませんでしたが、まずまずの結果だったと思います。

そんなこんなで売買契約は2017年の3月の下旬に行いました。合わせて住宅ローンの本審査に進みます。書類を揃え、手続きに回してもらいます。
それから一ヶ月ちょっとの間、なかなか本審査の結果が出ませんでした。私の場合、融資実行の条件として、最も大きなハードルは「耐震基準適合証明書」の発行でした。
この証明書は、(ザックリ言うと)築25年を超えた建物において一定の耐震基準を満たしているか、建築士が現場を見て判断し問題なければ発行されます。

これを手配する上で諸事情があり、とてつもなく遅れました。
遅々として結果が出ない融資。本審査に落ちてしまったらどうしよう、もう不安を通り越して「どうにでもなれ」状態でした。売り主は審査結果が出る前に引っ越しをしてましたし。

……不動産購入の思い出話はこのくらいにして。
ともかく、物件購入のゴタゴタがあった場合、その中でアコースティックラボとも緻密な打ち合わせが求められることになります。防音室の工事契約は、同社の場合開始の一ヶ月前に行うのが通例だそうです。イレギュラーがあったときは、常に報告して相談をした方がいいでしょう。

廊下が狭い!まさかの図面と現物が不一致

工事契約には、最終的な見積もりも添付されます。そのため、より正確な情報が必要です。アコースティックラボの担当から「前回は売り主が居住していたので行えなかった詳細な調査を行いたい」と連絡がありました。4月下旬ごろの話です。
本審査はまだ通過してなかった状態ですが、売り主は5月の大型連休で引っ越すという話を聞いていたので、その直後にセッティングしました。

現地では、売り主側の仲介会社と売り主本人も同席しました。
残置物の確認(家具やお皿を残してもらう)、壁紙クロス張り替えの検討なども行います。クロス張り替えは、ヤニ汚れが酷く実施するしかありませんでした。30万円くらい飛んでいきましたね……

アコースティックラボの担当は二人体勢でテキパキと調査をしていきます。
写真を通してその様子を見ていきましょう。

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換気口を利用して壁の厚さを測っています。実際には、この穴からダクトを設けて、床近くの給気口に繋げました。


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引っ越し後のため電気が止まっています。ライトで照らしながらあちこちを測っていました。


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寸法を測る担当者


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ブレーカーの状況も確認します。右上に一個空きがあります。ここにオーディオ専用回線を設けました。


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作成している図面や資料を元にサクサクと追加調査を進めています

写真には撮れませんでしたが、部屋に至る廊下の調査もしていました。

追加調査によって、今までと変更になった箇所があります。
まず、簡易録音ブース。

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ウォークインクローゼットが録音ブースになるのですが、この部屋は壁紙張り替えるくらいでそのままの予定でした。しかし、既存フローリングがベコベコなので床の張り替えと、巾木の補修が必要になりました。
また防音室に入るドア。元々、高さが汎用ドアより低くなるので特注であることは決まっていました。しかし、今回の調査で幅も特注になったのです。
なぜか。
なんと、設計図書における廊下の幅が実際の幅より5cm広いことが分かったのです!
廊下とは、防音室に至るまでのまっすぐな廊下のことです。その廊下が図面より5cmも狭い。つまり、想定よりも実際のドアの幅は狭く作らないといけない訳です。これは驚きました。だって、管理組合に「こういう建物を作りましたよ。図面はこれです」と提出された内容が間違っているのです。考えられません。しかし、建築当時=昭和60年代は、珍しくなかったそうです。
まさかの寸法違いで見積もりに幅特注代金が上乗せ。防音室への入り口が狭くなるし、さすがに凹みました。

ここでアコースティックラボより、防音室の性能保証とその実態についてコラムをいただきました。

本文中にもありましたが、防音室だから音が漏れなくて当然、ましてや外の音が中に入ってくるなんて、と思われるかもしれませんが、確かにまったく聴こえないように造ることもできます。ただし、予算と部屋の内面積を犠牲にすれば、という条件付きです。
当社では契約時に必ず遮音性能の保証をしますが、それはあくまで数値の保証であって、クレームが来ないことを保証するわけではありません。どのような隣人が住んでいるかわかりませんし、オーバースペックのものをお造りしても、結果としてお客様のためにならないからです。その人それぞれにとって必要な性能がどれくらいかを見極め、コンサルティングすることが我々のような業者がやるべきことです。
今回の橋爪氏の場合も、マンションでは標準的なD-65(隣接住戸の居室において)という性能を保証をした上で、音量や時間帯によって聞こえる可能性があるリスクを説明し、ご納得いただいてからご契約に至っています。


ということで、今回は防音室とは関係の無い住宅購入の山場をお送りしましたが、これ実はとても重要なファクターです。予算の厳しい方ほど綿密なやり取りをして、スケジュールが狂わないよう、無理のないよう、コミュニケーションを行う必要があると思います
私も今振り返るとアコースティックラボにはずいぶん迷惑を掛けたと思っています。柔軟に対応いただいて感謝しかありません。

さて、次回は工事開始を目前に控えた打ち合わせや工事契約、旧アパートに担当者を招いたエピソードも紹介します。
夢心地になれる時間と、現実との折り合いを付ける時間が平行して流れていた特別な時期でした。はたして、工事は無事開始されるのか。
お楽しみに!

技術監修:アコースティックラボ

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