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勃殺戒洞20211202石垣島@すけあくろ

勃殺戒洞。この不穏な文字列を目撃したのは九月の石垣島で、確かタウンパルやまだ(大型書店)の外壁掲示板に貼ってあったチラシだ。
怖い! 何?
南国リゾート島、石垣でそんな言葉を張り散らかすのは誰で何が目的?
と、俺は恐る恐るそのチラシを凝視することになる。

画像にキャプションが入力できる機能を今初めて知りました。

それは石垣島の歴史あるライブハウス、すけあくろにて、十二月二日に行われるライブイベントのタイトルであると理解る。へーなるほどね。
だが刮目せよ! した? してもらった前提で続けますが、ライブということは当然出演者がいるわけです。演者。演奏する者。
それがなんとまあ
中村達也(ex.Blankey Jet City FRICTION more……)
中尾憲太郎(ex.NUMBER GIRL)
と記載されている! 記載されているからには、本人が来島して演奏するわけですよ。来島もせず演奏もされなかったら問題だ! このチラシ、何? ってことになるわけなので。
いわずもがな。
ブランキーとナンバガのリズム担当が?
日本ロックを代表する二人がセッションを?
え?
え? え? 達也とナカケンが即興で生演奏を?
この二人が石垣島に来島して、えいや、と演奏を……?
そんなことある?
ねえ。
ねえよ。
いや、もしかしたらあるかもしれんが、あったとして、スタジオ内でだろう。しかも都内のだよ。スタジオのミキサーの人だけが体験できるやつだよ。
人前でそれを披露してくれる機会は、今後どれだけあるのだ?
よし、わかった。観る。いや、観るじゃないな、浴びる!
浴びさせていただきます!
と、いうわけで当日が来たわけです。

よいしょ。

JAZZバー すけあくろ

当日だ。
石垣島のライブハウス、すけあくろに、来たぞ。
相変わらず何と読めばいいのかわからない怖い文字列【勃殺戒洞】が掲示されているな。
だが俺はそんな文字列に怯えない。自分の意思で、今回はドラム先輩とベース先輩の音を浴びに来たのだからね。ふふ……。
人々が続々と集まってくる。

惑星上に知り合いがほぼいない俺にしてみれば、誰が関係者で誰が観客なのか判別できない。
俺以外の人間は怖い文字列に怯えていないのだろうか? 知らん。
怯えているだけではライブを楽しめませんよ。
酒をくれ!
アルコールは余計なことを考えさせず、感覚を研ぎ澄ませてくれる神水(かみみず)。
ハイボールをぐびぐび飲むことにより、心細さをうやむやにすることに成功しました。
そんなこんなしている内に観客たちの視線はステージ上に集まり……

ステージ上のドラムセットに人間が鎮座し、その隣のスペースにベースを抱えた人間が居住いを正し。

あっ。

中村達也氏と中尾憲太郎氏だ!

と、既にほろ酔いの頭で認識した頃、中村達也氏が会場に流れていたBGMに対し、会場スタッフに言及を。すけあくろは小さなライブハウスなのでマイクなど介さずに地声だ。

中村氏「(BGMをハミングし)この曲、〇〇〇〇?」
スタッフ氏「〇〇〇〇じゃないです……」
中村氏「あれっ?」

観客たちはそんなほほえましいやり取りを聴きながらくすくす笑う。
そんな和やかな時間が流れた後、事象が発生する。

ベースが先だったか? ドラムが先だったか?

わからん。

いつのまにか、それは始まっていた。

つい一秒前まで、和やかに演者とスタッフが喋っていたじゃない?

でも、今は何だ????????

ベースが音を奏でている。
ドラムが、リズムを刻んでいる。

ベースは、ダウンピッキングだ。
ドラムは、マレットで柔らかな音を奏でている。

ドラムは、マレットで柔らかな音を奏でているはずだった────

あ、轟音。

既に、観客の意識は置いていかれている。

いつの間にかベースとドラムの音は激しさを増しているのだ。

事象が発生した。

それは、ベースとドラムが原因で発生した、嵐、だ。
嵐に、我々は、あっという間に巻き込まれた。
さっきまで晴れていて今日は穏やかなのかな? と思っていたところに、強烈な暴風が殴りつける。

中村達也氏は、ドラムを叩きながら笑う。咆哮する。スティックを持ち変える。
マレットからスティックに。
柔らかい音は終わりだ。
再び咆哮。

中尾憲太郎氏といえば、ダウンピッキングの鬼だ。
鬼。鬼なの。
なんで鬼なんだ? と思う方は独自で調べてくれ。
とにかく鬼なんだよ。

中尾氏はフレーズを奏でながらエフェクターを駆使し、早弾きの良さとコード弾きの良さを交互に繰り出してくる。

この辺りが経験のなせる業だ。

よくあるフレーズ、で観客を盛り上げることも可能であろう。
でも、ナカケンはそれをしない。

皆が知らないフレーズを超高速ピッキングで奏でていく。
そして、それを「もっとやりん!」と煽る中村達也ドラム。
この時点で今回のライブ『勃殺戒洞』に来た俺は正解を確信していた。

一部が終わり、休憩。
休憩直後、中村氏が発した言葉は「お、お水をください……」だった。
ボクサーみたい。

普通ならば演者は楽屋に戻るのだろうが、中村達也と中尾憲太郎は戻らない。
ステージ上にどっかと座り込み、時間が経つのを待つ。
そして地声で話している。まるで楽屋のようだ。

観客のこちらとしてはそれにどうしていいかわからず、演者の二人を見守ればいいのか、それとも無視してトイレに行ったりすればわからなかったので、それぞれに任された。
そして俺は二本目のハイボールを入手した。

中村達也氏が、ステージ壁面に掲げられている遠藤ミチロウ氏のペインティングを差し、「あ! 鍾乳洞が見守っている」と発言した。

鍾乳洞?
もしかしたら、
小入道、だろうか。
大明神、といい間違えた可能性もあるが、これに関しては、誰も確認できないので、以後、鍾乳洞、で通すこととなる。

すけあくろステージ。


中村氏も中尾氏も無事にお水をごくごくと飲むことができ、二部がスタート。
これもまた始めまーす、などの合図も何もなく、いつのまにか音が鳴っており、瞬く間に轟音が炸裂する。
それにしてもこの二人、演奏が上手すぎる。
当たり前だし失礼な意見だとわかってはいるが、実際に生で、即興の演奏を見ていると、他の言葉では言い表せないのです。
中村氏はリズムを自由自裁に叩き分け、中尾氏はそれに合わせて完璧なタイミングでエフェクターで音色を変える。
どういうこと? 脳みそのどの部分を使用したらそんな演奏が可能になるの? 腕八本ありますか? みたいな疑問がステージ上からぶつけられる音の塊に殴られ、結果「う、上手すぎる……」という語彙力ゼロの感想しか出てこなくなるのです。
あとは「あ―もう一生これ続いてほしい」みたいなバカの感想。

曲が終わるやいなや中村氏が「ワンツスリフォー!」と高速カウントを絶叫し、完全に一息入れていた中尾氏を翻弄させるというお茶目な場面も飛び出し、演奏が始まると鬼みたいなオーラを発するが演奏が終わると子供みたいな雰囲気を醸し出す二人に、会場の空気はすっかりピースフルに。

途中中村氏が遠藤ミチロウ氏のペインティングに向かって「天プラ天プラ天プラ天プラ!」と絶叫。スターリンの名曲だ。あわわ。
更に中村氏は「メシ喰うな」のフレーズを口ずさんでくれたりととても楽しそう。観ているこちらも笑顔になってしまう。

二度目の休憩に突入。
中村氏は黒糖ラテを注文し、俺は三本目のハイボールを入手。
中村氏が中尾氏に「今日の演奏は録音できとる?」と確認し、中尾氏が「大丈夫です」と応えたのに対して、本当に嬉しそうにしていたのが素敵だった。
本人たちが嬉しくなってしまう演奏を聴かせてもらえるこちらも大変嬉しい。本当に来て良かった。ライブハウス中のお客さんたちに「本当に来て良かったですね! ね!」とクソデカボイスで問いかけたくなってしまうほどに……(心の中だけでやめました。当たり前)

中尾氏が遠藤ミチロウ氏のことを「お会いできなかったんですよね」と呟き、中村氏が「なによりだね」と返す。
中尾氏は「(二人の)関係性があるからそういうことを言えるんですよ」と笑っていたのが大変微笑ましかった。
あと、中尾氏のことを中村氏が「五十代」といい、「まだですよ!」と突っ込むところも滅茶苦茶可愛かったな。中尾憲太郎47歳。

そしていよいよ最後の演奏が炸裂。
空気の振動による往復ビンタ。
聴いてるこちらは運動していないのに、轟音で筋肉をグイグイ押されるので翌朝筋肉痛になる! なるような気がする!

始めは座っていた観客もいつの間にか立ち上がり、ぐんぐん揺れたりピョンピョン飛んだりブルブル痙攣していたりする。
あ! ライブハウスだ!
ライブハウスとはこういう場所だった!
およそこの二年余り、コロナの野郎のせいで奪われてしまっていた空間が、中村氏と中尾氏による音の暴力によりすごい勢いでこじ開けられた瞬間を体験してしまった。
知らない人たちと同じ空間に集い、全く同じものは再現不可能なパフォーマンスを、同じ時間と共に体験する。
「場」とはそういうもので、「場」を経験するにはやっぱり足を運ばなくてはいけないし、それだけの物は得られる。得たものは宝となって、いつまでも光となる。
悟った。
最後の演奏が鳴り響く中で、俺はそんなことを突然に悟ってしまったのです。酔っぱらっていたからというのもあるが。

それは中村氏が最後の挨拶をした瞬間に完全なものとなる。

「ぼっさつかいどう、ありがとうございました!」

『勃殺戒洞』。
何と読むのかわからなかったこの文字列が、ぼっさつかいどう、と読むのだと知ったその時、悟りは本物となったのでありました。
ありがたやありがたや。

その後、アンコールがあり(といってもステージから去るわけでもないので一息入れた後にすぐ始まった)、本当にこれで終わり、となった後も観客の拍手は鳴りやまず、ダブルアンコールに突入。
中尾氏は「これまででもいつもより長くやっているのに!」と疲労困憊の笑顔で応えてくれたのでした。

『勃殺戒洞』沖縄巡業2021「7日間7番勝負」はまだ続くので迷っている方は絶対に行った方が良いと断言します。
キミも「場」を体感して悟りを得よう!

チラシ表。
チラシ裏。


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