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教えて村松さん part2!~新卒編集者が漫画一筋20年の編集者に突撃~

コンテンツスタジオ「STUDIO ZOON」のスペース第7回を配信いたしました!
前回の配信では、マンガ編集一筋20年の「STUDIO ZOON」 第2編集部 編集長の村松に、新卒社員&編集者歴半年の竹内が普段から気になっていることを質問し、「マンガづくりをするうえで大切にすべきもの」を胸に刻みました。
『教えて村松さん』と題してパート2をお届けする今回は、前回よりも視野を少し広げ、マーケットの動向をベースにした質問や回答なども投げかけられ、Webtoonづくりに携わる醍醐味や面白さも再確認できました。ぜひご一読ください!

\スペースはこちらからいつでもご視聴いただけます/
https://twitter.com/zoon_studio/status/1739921098987422055

\第1~6回の配信の内容はこちらにまとまっています/
第1回:https://note.com/studiozoon/n/n6913ec34b8ca
第2回:https://note.com/studiozoon/n/nca38225763a4
第3回:https://note.com/studiozoon/n/n048b2775f489
第4回:https://note.com/studiozoon/n/n3f16c5d7d375
第5回:https://note.com/studiozoon/n/n1440a197166a
第6回:https://note.com/studiozoon/n/n501cc773afeb


1 今後、日本でWebtoonという存在はどのように変化していくと思いますか?

村松 こんばんは。「STUDIO ZOON」第2編集部 編集長の村松です。

竹内 同じく「STUDIO ZOON」第2編集部所属の新卒社員、竹内亜美です。よろしくお願いします。

村松 今回は第7回目のスペース配信です。このスペースは「STUDIO ZOON」の紹介から現在募集している採用についてなど、その時々のトークテーマを設け、編集長同士やその他メンバー、ときにはゲストをお招きしながらお話しする場となっております。

竹内 前回の第6回は私が普段気になっていることを村松さんに質問させていただく企画をお届けしましたが、今回は続編となるパート2をお送りします。前回のスペースでは一日で1,000人の方が聴いてくださったみたいで、びっくりしました!

村松 すごいですよね。

竹内 今日も質問をいろいろ用意してきたので、早速質問させていただきます! 
私はWebtoonに携わってから数ヶ月が経ちますが、この機会に初心に帰ってみたら気になったことが出てきたんです。日本でもWebtoonの作品が増えてきているなか、今後は国内でその存在はどのように変化していくと思いますか? 

村松 なんでもそうだと思うのですが、YouTubeのような変化をたどるのではないかと感じています。新しいものって、最初は必ず「下から」くるんですよね。

竹内 「下から」とは、どのような意味でしょうか?

村松 YouTubeが登場したのは20年くらい前で、最初は一つの動画が約10〜20秒だったんです。いわゆる低クオリティのものがほとんどでした。
でも、時間をかけてどんどん人が集まってくると、結局は人間がそれだけでは飽き足らなくなる。はじめは、人が転ぶだけの6秒くらいの動画で笑って満足していたけれど、YouTuberとして収入をもらえる仕組みが整えられたことによって、高クオリティ化していくんです。
たとえば、動画1本を作るなら「スライム風呂に入る企画を1分にまとめたほうがいいらしい」という流れがあっても、人間が飽き足らなくなっていくから、動画の質がどんどん高クオリティなものに仕上がっていく。
その証拠に、今のYouTubeにアップされている動画って、テレビ番組との質の差がそれほどない状態じゃないですか。

竹内 そうですね。

村松 YouTubeの例のように、新しく登場したコンテンツって、なんでも下からきて上に上がっていくんです。それはWebtoonもたぶん一緒で、今は上に上がっている途中なんですよね。
Webtoonって、クオリティの面ではすでにレベルがめちゃくちゃ高い。はじめは「こんなの面白くない」と思われていたとしても、利用する人間が現状のレベルでは飽き足らなくなってくるから、Webtoonもどんどん成熟していくと思います。YouTubeだって、今では1時間の教養動画が当たり前に受け入れられているし、受け入れづらかったものが徐々に生活に馴染んでいくのは、普通にあり得ること。
あとは、アニメなどへの映像化が実現できれば、Webtoonも受け入れられやすくなるんじゃないでしょうか。今のところ、Webtoonでアニメの映像化がヒットした実績はないんです。それが大きくヒットすると、風向きがガラッと変わるかもしれません。

現状、日本でのWebtoon市場は伸び続けている一方で、Webtoonの発祥国である韓国では、読者人口の天井にぶつかっていることもあって、伸び率が鈍っているんですよね。でも、日本はまだぶつかっていないので、ここ数年でいえば市場全体はますます大きくなっていくと思います。

竹内 私がWebtoon作品を読んでいても、ジャンルを含めて可能性がもっと拡大していくんだろうなと感じます
今のWebtoon作品は「異世界転生」とか「恋愛系のロマンスファンタジー」などに集中していますが、日本の人たちが実際に読んでいる横読みのマンガって、もっとジャンルが幅広いですよね。そこにこそ、日本で制作するWebtoonは広い可能性があるなと思うんです。

村松 そうなんですよね。個人的には、新しい領域が立ち上がってきて模索しているタイミングが1番面白いんです。「みんなナメてるでしょ、実はこんなこともできるんだよ!」ってタイミングが1番面白い。
マンガでも電子が登場し始めた頃に「こうすればヒット作品が出るな」という兆しが見えているけれど、「みんな気づいてないからやっちゃおう」っていうタイミングがあったんですが、あれは楽しかったですね。

竹内 そうですね。どのコンテンツも広がっていく過程は変わらないから、Webtoonが日本で「当たり前」になるのも、あとはタイミングを待つのみということですよね。Webtoonの変化を一番感じられる時期は、今なのかもしれないなと思いました。

村松 僕は「STUDIO ZOON」に所属してちょうど1年くらいになりますが、転職した当初にいろいろなWebtoon作品を読んで、ある程度の市場を把握したときに「次はこれがくるな」って思ったジャンルがあって。まだ少ないけど、実際にきているんです。あまり人に言えないのが辛いけど(笑)。「必ずくる」っていうジャンルにアンテナを張るのも、面白いです。

竹内 私も市場を予測できるようになりたいです!

村松 市場を予測している感覚もないのですが、これをそう言うのかな。

竹内 「このジャンルの作品が増えはじめている」という感覚なのでしょうか?

村松 そうですね。僕の中で「人間はいずれ飽き足らなくなる」って原則があるし、Webtoon作品を見ていると「このジャンルは、こういう人が、こういうふうに楽しんでいるんだな」という人が想像できるじゃないですか。
それをもとに考えれば「その人はそろそろこれに飽きてきているんじゃないかな」とか、「この人が他に読みたい作品ってこういうものだろうな」っていうのが分かってくる。
なぜそれが特に想像しやすいのかというと、マンガの市場が参考になるからなんです。マンガでは「この作品を読んでいる人は、この作品も読んでいるよね」という紐付けがあるので。だから「このジャンルが受け入れられているってことは、これもくるよね」と想像しやすいんですよね。
竹内 その視点でWebtoon市場を見るのは楽しそうですね。Webtoonはまだ成熟しきっていないところがあるから、市場の流れが目に見えて捉えやすいのかなと思いました。

2 日本でメガヒットが少ないのはなぜですか?

竹内 現在、日本発のWebtoonが増えているものの、ヒット作は出たとしても「メガヒット」と言えるところまでは達していないような気がしています。でも、Webtoonが発祥した韓国ではメガヒットしている作品がたくさんありますよね。
そんななか、日本でメガヒットしている作品が少ないのは何が要因だとお考えですか? また、どうやって韓国に追いつくのか、韓国と日本のWebtoonは今後どんなふうに変容していくと思いますか?

村松 日本発のWebtoonに関しては、たしかにメガヒットは出ていないけど、スマッシュヒットは出ているじゃないですか。横読みのマンガ市場の感覚で考えると、10万部ヒットに匹敵するような数字はすでに出ていますが、100万部ヒットしたようなWebtoon作品はまだ出ていないという感覚に近いです。
ただ、それは単純に参入してからの時間が短いからだと思っています。時間を重ねれば、メガヒットする作品がどんどん出てくると思います。
今、Webtoon作品をつくっている僕らも、作品づくりをするうえでのキャッチアップに時間がかかりますよね。それができれば、メガヒットは生まれやすくなる。クリエイターはたくさんいるので、実現できると感じています。

竹内 時間の問題ということですね。

村松 そうですね。僕は長くマンガ編集に携わっているので、マンガづくりのことは大体一通り経験してきましたが、それが今の Webtoonづくりに活きていて、両方を比較することで像を結びやすくなっているんです。
たとえば「クリケット」を知らずにインドで観戦したらルールを理解できないかもしれないけど、似たようなスポーツの野球のルールを知っていれば、相対的に両方の違いがわかるから、「マンガと比べると、Webtoonはこうなんだ」という理解の仕方をしています。それが個人的にはわかりやすくて、いろいろな面での違いも把握できる。
マンガは参入障壁がめちゃくちゃ低いんですよ。僕が新入社員だった20年前と比較しても参入障壁が低い。ツールもどんどん良くなっているし、マンガを描いて世に出すことへのハードルはかなり下がっているなと感じます。

竹内 今の時代、SNSの発信起点で書籍化される流れがありますよね。

村松 そう。「Kindleインディーズマンガ」の仕組みを使ってもいいし、自分から発信するのが簡単になっていますよね。でも参入障壁が下がると、当たり前ですが、すごくたくさんの人が集まってくるので、どうしてもヒット確率が下がっちゃう。

竹内 母数が増えるぶん、確率も下がってしまいますよね。

村松 ヒットを目指せるルートは増えていて、以前だったらあり得なかったヒットの仕方も可能なんだけど、母数の増え幅のほうがはるかに大きい。
過去20年間の数字を取り寄せて調べてみたら、やっぱりヒット率がめっちゃ下がってるんですよ。打率がとても低い。
でも、Webtoonに携わってみるとお金はかかるし、人を集めてチームをつくるのも、ノウハウを構築するのも大変。つまり、参入障壁が高いんですよ。

竹内 村松さんは前に「Webtoonは単なるマンガじゃなくて、マンガとアニメの間。Webtoonはチームでつくっていくものだし、そのぶんコストもかかりやすい」とおっしゃってましたよね。

村松 マンガとアニメの中間だからこそ、超えなきゃいけない障壁がたくさんあるんです。たとえば、アニメやゲームをつくったことのない会社が「アニメ作品を1クール分をつくる」「ファイナルファンタジーのような名作ゲームをつくる」となった場合、参入障壁がものすごく高い。
仮にその障壁を超えられたら、それを超えただけの果実は得られるんですよね。その点、マンガは障壁が低くなっているので、超えた先でサバイバルのような大変な闘いが待っている。
ところが、Webtoonは参入障壁を超えるのが大変なんです。難なく障壁を超えられる会社って、少ないだろうなと思う。"超える" というのは、単純にWebtoon作品をつくればいいというわけではありません。作品として面白くて勝負できるものまでに仕上げられるチームを維持できるかどうかなど、全部含めて。
でも今のWebtoon市場を見ていると、さまざまな障壁を超えてある程度以上のものがつくれていれば、マンガよりも売り上げは取りやすいと思います。
10万部ヒットするくらいまでは、マンガよりかなり取りやすいのかなと。マンガで10万部も売るのは大変なことなので。

竹内 「ヒットしにくい」という現状は、母数が多いことと関係しているのでしょうか?

村松 もちろんその理由もありますし、マンガは才能が高度化していることも関わっていると思います。実際、すでに燦然と輝く憧れの作品があって、スターもいる。さらに参入障壁も低いから、たくさんの才能が集まっているんですよ。
その中から頭ひとつ抜きん出るには、異能者じゃないといけないんですよ。
僕は、マンガ市場は才能過剰だと思っているんです。マンガ編集の現場でも、異能ではないかもしれないけど、面白くていいマンガを描く人はいる。でも「今のマンガ市場で売れる作家かどうか」で考えると、必ず売れるとは言いにくいわけです。面白い作品ではあるんですけど、読者も成熟しすぎていて「普通に面白い」だけでは飽き足らなくなっている。マンガ市場では、異能バトルをする大変さがあるんですよね
ただ、今の日本のWebtoon市場は「普通に面白ければ、普通に売れる」。この点はWebtoonのいいところ。もちろん、10年経てばマンガ市場と同じ状態になるかもしれませんが、今のWebtoonは狭間ならではの良さがあると思います。

竹内 たしかに、今のフェーズだからこそ集まっている作家さんもいますよね。参入障壁はすごく高いけれど、それさえ超えてしまえば本場の韓国でつくられているWebtoonとも勝負できるんじゃないかと感じました。

村松 そうですよね。同じやり方ではないかもしれませんが、対抗できるような作品は現状でも出てきているし、今後も出ると思います。

3 作品がヒットする/しないポイントってなんですか?

竹内 私は、村松さんの市場を感覚的につかみ取れるところがすごいなと思っているんです。「このマンガがヒットしそうだな」と思うポイントって、どういったところをチェックしているんですか?

村松 さっきの異能の話にも通ずるのですが、マンガで言えば「異能」とは「新しい作家さん」のことです。「こんな台詞/表現/キャラクター性/設定は見たことがない」という基準は、異能バトルが通常のマンガ市場で勝負するには、一番重要なポイントだと思います。先ほどお話しした「普通に面白い」が勝負になりづらいのは、「新しさがない」ということなんです。

竹内 フォーマットとして面白いものになっているけど、マンガの世界では「新しさ」がヒットのポイントになるでしょうか?

村松 面白さと新しさは、ニアリーイコールなところがあるんです。そして、新しさを突き詰めて考えると、詰まるところ「その人らしさ」だと思う。
たとえば、学校を舞台にした高校生二人の恋愛を描くストーリー…って星の数ほどありますが、作家さんによって「どういうふうな物語を描くのか」「何に注目しているのか」「どういう人として描くのか」は全く違う。
そういった点で「こういうキャラクターの、こういう感情に注目するのか」と思えれば、すでにそれだけで新しいんですよ。

竹内 ストーリーの設定ではなく、作家側の視点ということですよね。

村松 そうですね。その人らしさが表れていれば新しいし、面白いと感じられる。「その人らしさ」が異常に求められているのが、マンガなのかもしれません。
対して、僕らはWebtoonで作品をつくるときは完全分業制ではないけれど、本場の韓国は完全分業制の作り方がメイン。特に、日本にきているWebtoon作品はそういう傾向があるんです。
もちろん、そういう作り方をしていないWebtoonもたくさんありますが、「その人らしさ」がなくなりそうな完全分業制の作品も売れているんです。
完全分業制って、クオリティを追求するには非常にいい。たとえば、一人の作画者が倒れてしまった場合、マンガだったらストップがかかるところでも、代わりがいるから作画を進められる。さらに人数をかけることによってクオリティを上げていけるし、安定したクオリティで仕上げられるという意味では、システムとしてちゃんとしている。
でも、関わる人数が多いほど原則的には作家の個性は出にくくなると思います。それでも完全分業制のWebtoon作品が売れているのは、マンガほど成熟していないからだと思います。

竹内 クオリティで勝負することを意識した作品もあるのでしょうか?

村松 そういった作品もあると思います。「個性で勝負しているマンガ」と「クオリティで勝負しているWebtoon」という構図はあるのかなと感じています。韓国のWebtoonを見ると、クオリティがかなり高いですから。

竹内 たしかに高いですね。今は、クオリティに目が行きがちですが、もしかしたら10年後には、Webtoonでも作家性や、作家の視点が重要視されるフェーズに転換するポイントがくるかもしれませんよね。

村松 人間は必ず現状に飽き足らなくなるので、そういう転換期はやってくると思います。
あるジャンルがマンガ市場でヒットしたとしたら、「じゃあWebtoonでは異世界系のほうが受けますね」となった場合、次に抜きん出る方法として「今はクオリティの高い作品で勝負しよう」という話がさっきありましたよね。
たとえば、勝負したいジャンルや作品が「1」だとすれば、「1.1」「1.2」という小数点の違いのような、極限のラインで勝負をするイメージ。
でも、その勝負方法が全くズレる場合があるんです。小数点じゃなくて、今度は「A」「B」とか、アルファベットで勝負するものがきてしまった、みたいな。
そんな感じで「新しさ」が更新されていくとは思います。更新していくというか、そこを切り拓きたいですし。

竹内 実際に「STUDIO ZOON」で作品をつくるときも「作家さんははどう思っているのか」という点はすごく意識していますよね。

村松 そうですね。新しさの1番の根幹になるのは、その人らしさ。それをWebtoonの市場でどう開いていくのかが課題かな。

竹内 日本にもWebtoonのスタジオはたくさんあって、それぞれがいろいろな考えで作品をつくっていると思うのですが、韓国のWebtoonはクオリティをどんどん高めていくやり方ですよね。
そんななかで、日本のマンガづくりでは作家性を引き出していく文脈があるから、そういったアプローチでWebtoonに挑戦するのは一つの気になるポイントかもしれません。

村松 日本は独自のマンガ文化でやってきたので、クリエイターさんもその考え方に慣れているけど、突然全く違うアプローチで作品作りを迫られたら戸惑うこともあるじゃないですか。そのへんのバランスをうまく取りたいですね。

竹内 そうですね。あとは、良いものをつくっていきたいですよね。

村松 シンプルですよね。「良いものをつくりたい」って。

竹内 その時々で「良いもの」の中身はちょっとずつ変化していくけど、結局向き合うのは「良いものをつくりたい」ってところですよね。

4 キャラづくりで意識していることはありますか?

竹内 実際に「作家さんらしさ」を出していく過程において、キャラクターづくりで意識していることはありますか?

村松 僕がキャラクターをつくるわけではないので、打ち合わせ中に作家さんと相談しながら練り上げていくのですが、担当作品のなかで「キャラクターをどういうふうに描くか」はすごく試行錯誤しているんですよ。苦戦しながら進めている作品もあるんですけど、試行錯誤していてうまくいくときと、うまくいかないときがある。
うまくいかないときは、打ち合わせで「キャラクターの方向性がよくわからないです」「あんまり魅力的じゃないです」「ここは魅力的ですね」というようにフィードバックしていくと、そのうちにキャラクターの正体が浮き上がってくるんですよね。「この話って、こいつがこいつを振り回しているときにみんなが生き生きするね」とか。
キャラづくりは「どういうふうに描いたら、どんな状況だったらキャラクターが生き生きとしているのか」「そのキャラクターの "生き生き" が、この物語で描こうとしていることの軸にちゃんと則っているか」に沿って考えています。
キャラクターが生き生きしていても「そもそも、この作品ってこんな話だっけ?」と、元々のテーマとギャップが生じることもあり得る。作家さんが作品で挑戦しようとしていることを多少は想定して打ち合わせをするけれど、実際に描き進めていくと思っていたものと少し違くなることもあるんです。
お互いの作品への認識も調整しつつ、話の軸の中でキャラクターが生き生きしていれば、そのマンガは面白くなると思うんですよ。

竹内 作品の伝えたい軸に「キャラクターを乗せられているのか」を重視しているんですね。

村松 そうですね。作品の軸とキャラクターの在り方は連動しているので、どちらかを優先するものでもないと思っています。

竹内 フィードバックするときは、マンガを読んでいて純粋に「このキャラクターは好きだな」「ちょっと好きになれないな」といったところから考えていくのでしょうか?

村松 それもあるとは思います。でも、好き/嫌いだけでフィードバックすると、個人の好みになっちゃう部分もあるじゃないですか。
個人的に好きじゃないと思ったキャラクターがいても面白い作品もありますし、「好きじゃない」という感情も含めてそのキャラクターのことが好きな場合もありますよね。
「こいつは好きじゃない」という個人的な感想をフィードバックするのもいいんだけど、パーソナルすぎる接し方になってしまう気がしていて。
竹内さんにちゃんと伝えられるかわからないけど、連載が始まる作品のネームについて打ち合わせするときに使う例えが「惑星直列」なんですよ。

竹内 一度聞いたことがあります。

村松 僕は「惑星直列」になるようにしたいんです。「惑星直列」というのは、作家の心・編集の心・主人公をはじめとしたキャラクターの心・このマンガでやりたいこと・読者の心、全部を一直線に並べてつなげること。それらが一つでも横にズレていると、何かが気持ち悪いんですよ。
「何が横にズレているのか」は、やりながら掴んでいくしかないんですけど。「なんかうまくいかないな」という場合は、惑星直列にしたがって「実は作家さんの心が横にズレているんじゃない?」と考えられて。
こういう話だと思って真っ直ぐ想像してたけど、後ろを振り返ったら作家さんの惑星だけ横にズレていて、「もしかして実はこの作品でやりたいことと少し違うところにないですか?」「実はこの主人公にあんまりドキドキしてなくないですか?」というフィードバックにつながる。そこから話し合いを重ねていくと、「そうか、じゃあ違うところがズレているんだな」と細かいすり合わせもできるんです。
たとえば、作家さんのやりたいことに「いいね!」って反応するんだけど、主人公を動かしていたら、主人公が僕たちの想像していたように動いてくれないときもあるんです。
その場合は「主人公のキャラクター性がズレているな」「じゃあ、主人公像を考え直したほうがいいですね」「実はこのキャラクターが主人公かもしれないですね」と話し合いが落ち着くこともあります。

竹内 そのズレに気づくことにも、高度なセンサーが要るなと思いました。

5 苦手なジャンルの作品づくりではどう対策していますか?

竹内 作家さんのやりたいことと、自分の視点をすり合わせるとき、自分の得意なジャンルよりも苦手なジャンルのほうが苦戦しやすいのかもしれないと思っていて。その場合、村松さんはどのように対策していますか?
そもそも、村松さんに得意なジャンルや苦手なジャンルがあるのかも気になります。

村松 人間である以上、得手不得手は編集者も作家さんもあると思うんですよ。僕の場合は、湯水のように「やってほしいこと」が湧き出てくることがあって。
竹内さんは僕と一緒に打ち合わせしたりしているから知っていると思うけど、そのときは「この作品で、こんな感じのものが見たい!」というアイデアがたくさん出てくる。
それって、おそらく作家さんもそうだと思うんですけど、幼少期の自分が好きだったものがベースになっているんですよ。
幼少期の自分が好きだったもの、影響を受けたもの、もしくは少し大人になった高校生以降の自分が影響を受けたもの、喜んだもの。編集者にしろ、作家さんにしろ、創作に関わる「喜び」を感じるには、今の自分を喜ばせるか、かつての自分を喜ばせるかしかない。それができていると、作品が生き生きするんですよね。
僕が編集として関わった作品で、自分が小中学生のときに大好きだったコンテンツに似たような内容を見せられたら「こんなこともできますねっ! あんなこともできますねっ!!」って、湯水のようにアイデアが出てくる(笑)。

竹内 (笑)

村松 今の自分が思っていることを具現化してくれる作品を描く作家さんと出会うと、そこでもやっぱりアイデアがたくさん出てくる。
僕の場合、80〜90年代前半くらいに小中学生時代を過ごしているので、当時はアーノルド・シュワルツェネッガーやシルヴェスター・スタローンが出演しているような「筋肉アクション映画」とか、怪獣映画が大好きだったんです。その2つが合わさった映画『プレデター』シリーズなんて、もう最高。
そういうことができそうな作品を見せられたら「こんなこともできるじゃん! あんなこともできるじゃん! 夢だ! 夢がきた!」ってワクワクしちゃうんですよね(笑)。

竹内 (笑)。そういう作品を担当するときの村松さんの打ち合わせって、別の作品ともまたちょっと違う雰囲気があるのかなと。

村松 そうですね。テンションは少し上がっているかもしれません。

竹内 「ずっと雑談しているな」と感じるときもあります(笑)。

村松 自分の素なところにかなり委ねている感じですね。

竹内 「この作品を面白いと思うかどうか」って、結局は自分の視点でしかわからない。だからこそ、今まで自分がどんな作品を好きだったのかが大きく関わるのかなと思いました。

村松 作家さんは別として、編集者側から言えば、ある企画を見せてもらったときに、それに対して良し悪しを決めてしまうのは、どこまでいっても個人的な尺度でしかない。
「誰がみてもいい作品/悪い作品」は、客観的に計りようがないので、主観的に判断していくしかないんですよね。
でも、個人の好き嫌いで判断すればいいわけでもない。主観性からは逃れられないんですけど、ただ、その主観性をベースに自分を拡張はできるんですよ。そうじゃないと、僕は『プレデター』と似たような作品しかつくれなくなっちゃうから。『プレデター』専門の編集者って、やばいでしょ(笑)。

竹内 すごく尖っていますね(笑)。

村松 自分の足場のベースは否定できませんが、そこから「こういうこともアリなのか」という可能性を拡張することはできる
たとえば、「ラブコメの面白さがわからないんだよね」だけで完結するのは、嘘をついてないからいいと思うけど、ちょっと努力不足かなと感じます。「がんばって自分を拡張すれば、ラブコメの良さもわかるんじゃないの?」って。
自分の話なんですけど、ラブコメは普段も読まなかったし、あんまり楽しんだ記憶もない。
でも、編集の仕事に携わってから「担当できるようになりたいな」と思って、自分なりにがんばった結果、面白さはわかってきて。「あぁ、こういうのいいな」と感じるようになったんですよね。
とはいえ、さすがに「ラブコメには目がありません」というタイプの人の欲望には、きっと勝てない。ラブコメを心から好きな人のほうが、もっと濃い欲望が湯水のように出てきちゃうと思いますし。ただそういう人は一方で冷静に作品を判断できない弱点もあると思いますが。

竹内 好きな作品の中に含まれている根源的なものから拡張できるかもしれませんよね。たとえば『プレデター』という作品自体が好きな面もあると思うんですけど、作品に紐づいている「バトル要素」のほかにも「人と人の関係性の熱さ」とか。

村松 そうそう。そこからも拡張はできますからね。編集者も、作家さんも、なんでもやってみるのがいいと思うんですよね。やってみたら意外とできることもあるし、やってみないと面白さはわからないから

6 エンディング:未開のフィールドに旗を立てるときが面白い!

竹内 たくさんの質問に答えていただきましたが、今回の感想はいかがですか?

村松 前半部分は「自分の商売人みたいな感じが嫌だな」と思いながら話していました(笑)。でも、市場がどのように動くのかなど、編集者は情報として知っておかなきゃいけない。
そして、目の前には作家さんがいることも忘れてはいけないと思います。「その人らしさ」を作品の新しさ/面白さに落とし込んでいって、その先にある市場とくっつけることが大切「その人らしさ」と市場をどうくっつけるのかは、編集者の頑張りどころです。「この作家さんの個性は、今のWebtoonのあそこの市場に、こういうふうに当てはめられそう」といった感じで。

竹内 そうですね。Webtoonの市場は横読みのマンガほど整っていないし、新興だからこそ考え甲斐はありそうだなと思います。

村松 いや〜、本当に面白いですよね。たぶん今は、マンガ市場の中で誰も触ってないところはないと思う。今ってなんでもマンガにできるから、全てのフィールドは誰かが触ったあとなんですよ。
となると、他の作品との違いを出すために、新しさ/面白さを切り拓くための異常な異能性が求められる。そういう意味で言うと、Webtoonって触られてないところがすごく広いんですよね。当たりそうな市場でヒット作を出そうとするとき、めちゃくちゃ異能である必要がない。
だって、そもそも誰も触ってないから。市場に参入する時点で、新しいわけじゃないですか。そこに旗を立ててヒット作を出したときって、見返りがすごく大きい。それが面白いですよね。編集者にとっても、作家さんにとっても、面白いことだと思います。「そんなのが当たるんだ」って作品があると、「そう思わなかったでしょ、当たるんですよ〜!」みたいな。

竹内 私も体感してみたいです!

村松 たとえば、「未踏の地はもうない」と思われていたところで「どれだけ高くジャンプできるか」に挑戦するのがマンガ市場だとしたら、人の居住区域がまだ狭いWebtoonの場合、策を凝らしながら未踏の地に踏み込んでいく面白さがありますよね。

竹内 まさに開拓ですね!
今回もありがとうございました。まだ聞きたいことがたくさんあるので、また機会があったらぜひよろしくお願いします。

村松 はい、ありがとうございます。

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