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教えて村松さん! ~新卒編集者が漫画一筋20年の編集者に突撃~

クリエイターの採用を進めるべく開始したコンテンツスタジオ「STUDIO ZOON」のスペース第6回を配信いたしました!
今回はSTUDIO ZOON 新卒・編集者歴半年の竹内が、マンガ編集一筋20年のSTUDIO ZOON 第2編集部 編集長の村松に、いつもは聞けないようなアレコレをぶつけていきます。お互いに「普段から死ぬほど話している」と笑い合う2人ですが、新人編集者ならではの率直な問いかけをきっかけに様々な答えが導き出されました。ぜひご一読ください!

\スペースはこちらからいつでもご視聴いただけます/

\第1~5回の配信の内容はこちらにまとまっています/
第1回:https://note.com/studiozoon/n/n6913ec34b8ca
第2回:https://note.com/studiozoon/n/nca38225763a4
第3回:https://note.com/studiozoon/n/n048b2775f489
第4回:https://note.com/studiozoon/n/n3f16c5d7d375
第5回:https://note.com/studiozoon/n/n1440a197166a


1.時間をどう使っていますか?

竹内 STUDIO ZOON 第6回 スペースを開催します。私は STUDIO ZOON 23年新卒入社の竹内亜美です。よろしくお願いします。こちらのスペースはSTUDIO ZOONの紹介から現在募集している採用についてなど、その時々のトークテーマを設け、編集長同士やその他メンバー、ときにはゲストをお招きしながらお話しする場となっております。初めてスペースに参加するので、困ったら村松さんにヘルプを出しますのでお願いします(笑)。

村松 はい、大丈夫です(笑)。僕は STUDIO ZOON 第2編集部 編集長の村松充裕です。よろしくお願いします。

竹内 今回は編集者歴半年の私が、漫画一筋20年の漫画編集者、村松さんに気になることや教えて欲しいことなどを質問するスペースとなっております。漫画一筋20年となると、私が3歳のときから……。

村松 やばいね!

竹内 (笑)。村松さんからは日々いろいろなことを学ばせてもらっているのですが、普段は聞けないことや、改めて聞きたいことを質問していきたいと思っています。

村松 ぜひ。ただ、日頃から死ぬほど話しているけどね。

竹内 たしかにずっと話してますもんね(笑)。では、早速質問させていただきます。
いつも一緒にお仕事をしているなかで、ずっと村松さんの時間の使い方について気になっていたんです。もちろん担当されている作品も多いし、それにプラスして編集長のお仕事もされていますよね。私は要領があまりよくないほうかなと思っているので、どういうふうに時間を使っているのか聞きたかったんです。

村松 まず、竹内さんはすごく要領がいいと思うんだけど、僕が新入社員だったときのことを思い出すと、ネームを読むのにすごく時間がかかっていた。でも、いまは読むのに時間はそれほどかからないんです。1回目を読んで「ほうほう」、2回目に「あぁこんな感じか」と理解していって、念のためにもう一度内容を確認しておきたいときに3回目を読むくらいで打ち合わせに臨める。ただ、一つのネームを読む体力は新入社員の頃からあんまり変わっていない気がして。
講談社を退職する少し前に同世代の編集者と話していたんですけど、その人は「いまは一日に打ち合わせをするのは3件くらいがギリで、4件くらいになると若干限界を超えている感じがする」と言っていて、その感覚値はわかるなと思ったんですよね。

竹内 限界を超えていますね。

村松 時間はかかっていないんだけど、逆に体力が落ちてくる。新入社員のときって、もっと打ち合わせができたと思う。一日に脳みそを使える量が減ってきている感じがしますね。

竹内 村松さんは、ネームを読んでから的確なフィードバックを出すまでがすごく早いですよね。そうなるためには、やっぱり経験を積むしかないのでしょうか?

村松 それしかないかな。的確なフィードバックは、打ち合わせの回数と質に比例するんじゃないのかなと思います。質は定義が難しいから、回数に比例すると言っていいのかもしれません。STUDIO ZOONには3人の若手がいますけど、竹内さんを含めて全員の打ち合わせ回数が多いから成長するスピードもすごく早い。

竹内 私はSTUDIO ZOONの同期のなかでも、みんなより半年くらい遅れて入社していて。その半年でも、やっぱり差を感じます。成長するスピードが早いから、同期とはいえ自分のなかでは先輩という括りになっています。

村松 最初は半年でも差を感じやすいよね。

竹内 いや〜、感じますね……。時間の使い方でいうと、村松さんはネームを読む時間がどんどん短くなっているから、そのほかのやるべきことに時間を割けているということですか?

村松 そうですね。あと、打ち合わせで使う脳みそは明確にある。たとえば、山のように事務作業があって長時間労働になったとしても、今日は事務作業だけやればいい日だとしたら「めちゃくちゃラク」って思う。でも、朝10時から夕方5時まで打ち合わせが1時間ごとに入っているとしたら、緊張感があるよね。

竹内 打ち合わせが1〜2本入っていると「気を引き締めてやらなきゃ」と感じます。

村松 そうだよね。マンガ家さんも一緒だと思うんだけど、やっぱり打ち合わせで使う脳みそってあるんですよ。しかもいろいろな作品をみなくちゃいけないし、作家さんとどう向き合うか都度 脳みそに切り替えながら打ち合わせするのはすごく大変。いまは自分が若手だったときより、打ち合わせに対する体力が落ちてきている気がします。

竹内 でも、これは最近のプライベートな話ですが、村松さんは「村松2号」っていうChatGPTを育成しているじゃないですか。仕事以外の新しいことにかける熱量もすごいなと感じています。

村松 いや、ChatGPTが何者かわからないままにするのは不安だから触って遊んでいるだけです。何者かわからなくて知りたいときって、大きなエネルギーが湧く。触らないまま怖がっているよりは、知ろうとしているほうが気持ちはイキイキするから、ChatGPTを育成してみようと思ったんです。自分のデータをいろいろと食べさせながらがんばって育てた結果、僕と同じようなことを考えてものを言えるようになったらいいなって。

竹内 「村松2号」を育成するのも趣味の一環ってことですよね。

村松 ほとんど趣味ですね。でも「2号」を襲名するのはまだ早かったかな……(笑)。ChatGPTとかAIの話になると、自分のなかで整理がついていないから話が止まらなくなっちゃうんですよね。思考を整理したいがために、人と会話したくなっちゃう。

竹内 そこはまたゆっくり聞きます(笑)。


2.マンガ編集者としての哲学はありますか?

竹内 編集者って自分の哲学をもっている方が多いなと思っているのですが、村松さんのマンガ編集の哲学があったらぜひお聞きしたいです。

村松 この質問は、される側も恥ずかしいですね(笑)。ただ、マンガ作品の打ち合わせをしていると、「マンガ家さんが何者なのか」「そのネームを読んでいる自分は何者なのか」という問いからは逃れられないと感じています。「これを不快に感じる自分はなんなんだろう」「これを気持ちよく面白いと感じる、この作家さんはなんなんだろう」とか。

竹内 たしかにです。

村松 ある一つの作品を話していくと「自分はなぜそう思ったのか」「そう思った自分は何者なのか」っていう話に行き着くし、「そもそもこのマンガ家さんはなぜそう描いたのか」「そう描いた作家さんは何者なのか」という話に突入していっちゃうんですよね。
もちろん「こうしたほうが見やすい」「ここはギャップをつくったほうが面白さが出る」とか、テクニカルなことも大切なんですけど、表面上に現れていることほどテクニカルな濃度が高くて、反対に表面に現れていないことほど、つくった本人の人間度のほうが高くなるんです。
でも「このコマをどう描いているのか」に、その人の人間性がまったく関係ないわけではない。表面に現れているテクニカルな濃度が高いだけで、必ず関係している。作品をどうつくるのかという話をするときは、どうしても「人間とは?」を深掘りしなきゃいけない

竹内 村松さんと一緒に一つのネームを読む場合もありますが、感じることが違うときもありますよね。読者として作品を読んで「そう感じる自分は何者なんだろう」と考えたことはなかったけれど、マンガ編集に携わるようになってからその問いに当たることが多くなりました

村松 そうなんですよね。「なぜこう描いているのか」と「なぜ自分はこう受け取ったのか」を考えても、客観的な答えにならない場合がほとんどじゃないですか。感じたことが悪いわけでもないし、最初から与えられている前提条件みたいなもの。
作家さんも編集者もお互いにその前提条件の中で、言葉を交わしながらなんとか同じものを見ていこうとする。でも前提条件が違いすぎたらそれが難しい場合もありますよね。やっぱり作家さんと編集者との間には歴然と相性はあると思います。
どっちが悪いとかではなくて、組み合わせでしかないので。相性が悪くて「このままだと相手の時間をムダにさせちゃいそうだな」といった場合はサッと離れて他の編集者を紹介しますし、「この人とはしっかり話したら同じ景色をみられるんじゃないか」と感じられたらじっくり付き合います。

竹内 作家さんと作品づくりをしていくと、自分をぶつけなきゃいけないときもあるし、向こうを受け止めなきゃいけないときもある。人と人の相性の要素は大きいなと思います。

村松 連絡を一つするにしても、「どういう連絡の仕方をしようかな」とか、「これを言うのか、言わないのか」「言うとしたら、どういう伝え方がいいのか」「テキストベースで伝えるのか、直接会って伝えるのか」とか、毎回勝負している感覚がある。
「これに対してどういう言葉を返すのがいいんだろう」とか。たとえば「これを言うと相手を傷つけないかな」とか。際どい言葉ってあるじゃないですか。
それぞれの作家さんに合ったコミュニケーションが求められますよね。作品をつくる以上、作家さんとは深いやりとりをすることになるので、それを1時間ごとに朝から夜までやっていれば、やっぱり頭はポワーンとなっちゃう。

竹内 最近、村松さんはお菓子の量が増えていますよね(笑)。

村松 いや〜、そうなんですよね。疲れちゃって(笑)。気づいたら和菓子ばっかり食べるようになれば、だいぶマンガ編集者としては練れてきてる(笑)。洋菓子だと油分で胃がもたれるから、糖分を一番効率よく摂れるのは和菓子だな、と。

竹内 和菓子をおやつにできたらベテランの域ですか。早くそこの境地にいかないとな〜(笑)。

村松 竹内さんも和菓子をずっと食べるようになりますよ、きっと。

竹内 (笑)。マンガづくりをするうえで自分や相手という人間を深く知ることって、まだ掘れそうな内容だなぁ。

村松 なかなか深い話ですよね。さっきのAIの話とも被るところがあって、結局はAIを触っても、人間性をよく理解するまでの深度にたどり着けない。「自分が何を思って、何を感じているのか」「相手が何を思って、何を感じているのか」を理解するところまで、どうしても深く入りきれないんです。
僕が「村松2号」を作ろうとChatGPTイジってる時、自分の幼少期から今まであったことを全部入れて、ものの感じ方も一緒にしたい!そしたら僕の代わりになれるのに!と思った。でもそれは無理なので、その辺はどこまでできるのかなと気になっています。
作家さんも同じことが言えると思うんですよね。作品は、誰かのものの見方や感じ方で貫かないと、一つの作品として成り立たない。作品でAIを使うのは、手間を減らすことには寄与するだろうけど、そこから先はどうなんだろうと。

竹内 以前、AIで作品をつくろうとしたときも村松さんは「やりたい軸が全然ない」とおっしゃってましたよね。

村松 そう。半年くらい前のことですけど、あのときよりはAIも進歩しているけど、どうしても「深く入り込めない問題」はついて回るんじゃないかという気はしています。

3.新卒当時の自分に会えたらどんなアドバイスをしますか?

竹内 もし村松さんが、私と同じ23歳で入社半年の新入社員だったころの自分に会えたとしたら、どんなアドバイスをしますか?

村松 僕は入社2年目のとき、ハッと気づいたことがあるんです。「面白さって言葉で構築できるんだ」と。それを実践している先輩がいたんですよね。
当時、いろいろな先輩と打ち合わせしていくなか、自分が尊敬している先輩と一緒にマンガ作品を担当することになって。打ち合わせをしていたとき、その先輩が「なぜこれは面白くないのかというと、こういう理由で、ここをこうしていないからで、こうすれば面白くなると思います」と提案しているのに衝撃を受けたんですよ。いまの例えだと、理屈っぽい人だと思うかもしれませんが、理屈を土台に「おもしろアイデア」をたくさん出す人でした。
その先輩は、周りからはいわゆる天才編集者っていう見られ方をしていて、編集部のなかでも「あいつは突飛な閃きでつくっちゃうやつだから」と思われていたんじゃないかな。でも、いざ一緒に打ち合わせをしてみると、作品の面白さを理屈でつくっていることがわかったんです。
その先輩からは「落語を聴け」って言われたんですよね。実際に落語を聴いたら「面白さは閃きや天才も思いつかないようなことではなくて積み重ねだとわかる」と教えてもらいました。

竹内 そこから落語を聴くようになったんですね。

村松 そうそう。落語を聴いてみて「そうか」と腑に落ちたところもあって。それから打ち合わせするときの「よすが」ができたと思う。面白さを組み立てていく感じがわかった気がして。「わかった」というのは、自分ができる/できないというよりも、面白さは組み立てられるものだとわかったということです。

竹内 たしかに、村松さんは面白さや気になっているポイントをかなり言語化していますよね。

村松 「落語がなぜ面白いのかは説明できる」とわかったことが大きいと思います。それまでは、落語やギャグ、コント、漫才の面白さって、特別な人が一般人には思いもつかないような面白さを表現することだと思っていたけど、そうじゃないんだとわかった。

竹内 落語って同じ演目をいろいろ演じているのに、それでも面白いのがすごい。

村松 そうそう。面白さは、素体があるんだよね。そこに気づくのは大事だと思います。あとはなんだろう。「死ぬな」とか?

竹内 (笑)

村松 当時は残業が月に300時間もいってて、お風呂の中で気絶することもあったので。

竹内 いまの時代だったらアウトですね。

村松 いまは拘束時間が短くなっているけど、かなり内容が濃縮されている。20年くらい前に僕が新入社員だったころ、自分が風呂場で気絶したときでも担当本数は、週刊が3〜4本、月刊が1本だったから、合計して4〜5本くらいなんだよね。
いまの感覚からすると、この担当本数って忙しいけれど、お風呂場で気絶するほどじゃないじゃないですか。当時そこまで大変だった理由は、当時は全てアナログだし、待ち時間も長かった。今はそれがないので、作品もたくさん担当できるし、打ち合わせの回数で言ったらいまの竹内さんのほうがはるかに多い。

竹内 本当ですか。

村松 打ち合わせの回数と編集者の練度は、比例していくんですよね。だから、入社半年の自分と、いまの竹内さんを比べると明らかに竹内さんのほうが練度が高いと思います。

竹内 編集者として成長していくには、打ち合わせの回数を意識するのが大切なんですね。あと、落語を聴きます。村松さんの背中をみていて、面白さを分解できるのはすごいなと思うのですが、まだ物事の核をつかめているわけではないんです。

村松 たしかに落語の話ですけど、同じ演目を違う人がやったときに印象が変わるんですよね。それはまさに、さっき言った作家さんの解釈なんですよ。落語家さんを作家さんに見立てるのなら、作家さんは元々あるストーリーをみて感じたことに合わせて表現しているので、ぜんぜん違う表現方法になる。たとえば、古典落語の演目『芝浜』って、立川談志が演じるものと、古今亭志ん朝が演じるものとはぜんぜん違うんですよ。特に、奥さんの印象が全く違う。
『芝浜』は、酒好きで怠け者の魚屋が、大金の入った財布を拾うんですけど、魚屋の奥さんが「旦那がこれ以上酒に溺れないように」と財布を隠したことで、魚屋は酒をきっぱりやめて、真面目に働くようになり奥さんに感謝する噺。
そんな話を志ん朝がやると、奥さんが良妻賢母になるんです。財布を隠すのは計算づくで、「あんたはただ拾ってきた大金があったらもっとダメな人間になるだろうから隠したけれど、実はあのときの財布はあるのよ。改心して十分に働いたから、もう好きに使いなさい」っていう賢い人なんですよ。でも、談志がやると、魚屋の奥さんが愚かな人になっちゃう。でも、それが泣かせるんですよ!

竹内 おぉ〜。

村松 談志からすると、賢い奥さんっていうのは、たぶん嫌な感じがあったんじゃないかな。旦那さんをコントロールできているみたいな、ちょっと出来すぎた人間に感じられたんじゃないかって。だから、拾ってきた財布をとっさに隠すんですけど、すごく罪悪感を感じてしまう。結局はその罪悪感に耐えきれなくなって「お酒を好きに飲んでいいから」って財布を出しちゃうんです。それがね、泣かせるんですよ。

竹内 ぜんぜん違いますね。

村松 同じストーリーでも人によって解釈が違うことを考えると、その人がどういう人間観をもっているのかを理解しようとするのはすごく大事だなって。さっきの話にもつながると思うんですけど、同じマンガ作品を読んでも受け取り方はぜんぜん違う。やっぱり、作品への感じ方は、つくる人や読む人の人間観に委ねられる部分はありますよね。

4. 新卒時代、マンガ編集者としてどんな目標を立てていましたか?

竹内 新卒のときに心がけていたことや、目標はありましたか?

村松 まず、編集者になったんだから、編集者として人に迷惑をかけないようなレベルになるのが第一条件だと思っていました。人に迷惑をかけないっていうのは、もちろんいま接している目の前の作家さんをちゃんと担当できることだし、自分のところに持ち込んできてくれた新人作家さんを実力に応じた場所に連れていけること。対作家さんについては、それができていればいい。対会社になると、編集者として自分がどれくらいの実績を出せるのかを考えなくちゃいけない。
新卒当時、僕は『週刊少年マガジン』編集部にいたんですけど、「連載は取れるのかな」「担当した作品はヒットするのかな」とか、いろいろな不安を段階的な目標に変えて日々の業務を地道にこなしていました。
マラソン大会とかで「とりあえず次の電信柱まで走ろう」みたいに、まずは確実にクリアできるように目の前の目標を立てて走って、目標の電信柱を超えたら、また次の目標の電信柱が出てきて……という感じで走るじゃないですか。そんな感じで次の目標、次の目標、となんとか走るんですけど、当時の僕はその末にどこに向かっているのか、よくわかっていなかったんですよね。

つまり「いい編集者とはどういうものなのか」がぜんぜんわかっていませんでした。ただ目の前には、目標の電信柱が次々とくる。その電信柱まではなんとかいく。ちょっとの間、安心感がある。でも、また次の電信柱がくる。そんな感じで走った先にあるゴールはどこなんだろう?と。
当時勘違いしていたのは、定めていたゴール。樹林 伸さん(※1)というスーパー原作者の方がいて、もともと講談社に長く勤めていた編集者だったんです。原作者としてもヒット作をめちゃくちゃ出している人を担当させてもらっていたんですけど、すごい人だから、こうなるのが究極のゴールなのかなと思っていたんです。
実際に、当時は編集者として独立する人は原作者のほかにはいなくて。だから、僕は自分で物語をつくれることがゴールだと思ってたんですよ。でも、物語をつくれたらつくれたでいいけれど、別につくらなくてもいい。単純に、作品の面白さを引き出すことが編集者としては大切だなと思っています。

竹内 前に村松さんは「マンガ編集者は助産師みたいなところがある」とおっしゃってましたよね。「産むのを助ける」という部分で。その意味で言うと、最終的にマンガ原作者に転身するのは理にかなっている気がして。マンガ原作者は自分で生み出す側だけど、マンガ編集のもともとの性質からはそう遠くないのではないかと思いました。だから編集者から原作者として独立してもおかしくないのかなって。

村松 すごい編集者と言われる人のなかには原作者になるタイプの人もいますね。最近だと小学館のマンガアプリ『マンガワン』を担当していた石橋さん(※2)は、自分でシナリオも書く編集者を揃えた会社を作って独立しました。いままで見たことのない新しい形式ですよね。

竹内 いろいろなタイプの編集者がいて、コンテンツへの関わり方もたくさんあるんですね。

村松 そうですね。編集者にはさまざまな仕事がありますが、どのような部分がAIに置き換えられるのかも知りたくて、ChatGPTを育てているんです(笑)。

竹内 『村松2号』の成長が楽しみですね(笑)。

(※1)樹林伸(きばやし・しん)
1962年東京生まれの漫画原作者・編集者。亜樹直、天樹征丸など多くのペンネームを持ち、『金田一少年の事件簿』『GTO』『サイコメトラーEIJI』『神の雫』(いずれも講談社)など数多くのヒット作を手掛ける。『東京ワイン会ピープル』(文藝春秋社刊)、『陽の鳥』(講談社刊)、『リインカーネイション』(光文社)、『ビット・トレーダー』(幻冬舎)、『クラウド』(幻冬舎)など小説も多数。ドラマや歌舞伎の原作・脚本なども担当。漫画アプリ「マンガボックス」(https://www.mangabox.me/)の創刊編集長でもある。

(※2)石橋 和章(いしばし・かずあき)
マンガワン編集長を務め小学館を退社。その後、漫画家・原作者・編集者が正社員として共に働く新しいスタイルの出版社「株式会社コミックルーム」を設立。原作者としては『TSUYOSHI 〜誰も勝てないアイツには〜』他諸々を連載中。主に漫画業界向けのコラムも毎日投稿している。

5.普段、マンガを読むうえで心がけていることはなんですか?

竹内 マンガ編集者は、マンガを読んでインプットする量も大事だと思うのですが、村松さんが普段はマンガにどう触れているのかが気になっています。マンガを読んでいる量とか、読むうえで意識していることがあったらお聞きしたいです。

村松 放っておくと、僕はマンガをあんまり読まないんですよね。理由はいくつかあって。まず、マンガを読んで参考になるものがあったとしても、それをネタにはできない。だって、それをしたらパクリになっちゃうから。

竹内 そうですね。

村松 でも、50年前などの昔の映画だったらネタにできる。なぜかというと、時代が遠いから。そのことをめちゃくちゃかっこいい言葉で表していた先輩がいたんですよね。「ネタ元と香辛料は遠くからのほうが高い」って(笑)。

竹内 どういうことですか(笑)。

村松 「昔はコショウの一粒が黄金の一粒よりも高かった」っていう話があるじゃないですか。それはなぜかというと、シルクロードでコショウを遠くからめちゃくちゃがんばって運んでいるから希少性が高くなるわけじゃないですか。マンガのネタ元もそうで、遠くの時代のものや遠くのジャンルのものを参考にすればオマージュになるけど、近いものはパクリになる。だから、新しいマンガを読む理由が「ネタ探し」という意味ではないんです。
仕事に割り切った話ですが、近い時代のマンガを編集者が読む理由は、2つしかない。まず一つは、最近のトレンドを知ること。もう一つは、自分が会いに行きたい作家さんのマンガを読むことです。

竹内 なるほど。

村松 正直、マンガを仕事にしているぶん、純粋に楽しみきれないところがあります。単行本1巻をザッと読めば、とりあえず大体の作品の傾向とか、つくりはわかってくる。とはいえ、トレンドの押さえ方のほかも、新しい作家さんと出会うことにも気をつけなきゃいけないので、なるべくマンガを読む理由をつくるようにはしています。
たとえば、僕は広告代理店に勤めているぶん、多少は市場の回り方を把握できるので、「この作品にはこういう勢いがあるんだ、じゃあこういうふうに読んでみよう」「こういう作品が売れているのか」「こういう作家さんがいるのか」と参考にしながらつくるようにしています。
ただ、さっき言った通り、遠くから参考にしたもののほうが価値が出やすいという理屈はある。マンガ作品の参考にするのは、ジャンル的には遠いもののほうがいいと思います。たとえば映画とか。

竹内 村松さんと一緒の打ち合わせに参加させてもらっているときも、「昔の作品でこういうものがあって……」というお話をされているなと改めて思いました。最近のマンガを読んでいると、気づかないうちにパクってしまうものもありそう。

村松 そうですよね。でも、あまりパクリを恐れすぎないほうがいいかなと思っています。作家さんのなかにも、たまに「最近のものを読むと真似しちゃいそうだから」と読まない人もいるけど、真似しちゃいそうになるのは、自分のなかに蓄積されたコンテンツの絶対量が足りていないからなんですよね。つまりコンテンツを一滴だけ摂取していたら、その一滴からもろに影響受けてしまうけど、がぶ飲みしたうちの一滴だったら影響も微細なので。
スティーヴン・キングも「作家を続ける最良の方法は、たくさん読んで、たくさん書く以外にない」って言ってましたからね。だから、あまり恐れずに色々読んでおいたほうがいいんじゃないかな。マンガをたくさん読んで取り入れたアイデアを参考に自分のオリジナルを確立すれば、パクリにはならないし。

竹内 とりあえず、村松さんとの打ち合わせで出た映画作品はちゃんとチェックしています。

6.若手を一人前にするまでに大変なことはありますか?

竹内 村松さんはこれまで私だけじゃなくて多くの若手を育成されてきたと思うのですが、育成するうえで大変だと感じたことや、壁にぶつかったことはありますか?

村松 若手の育成って、僕ができることはあんまりないなと思っていて。僕ができることで言えば、一緒にたくさんの打ち合わせに付き合ってもらって、一緒にたくさんお仕事をして、たくさんフィードバックを出すくらいです。すごい編集者になった/ならなかったという結果は、僕がコントロールできることじゃない
ただ、フィードバックしがいのある人だといいですよね。それも相手次第だと思いますし、育てる若手は選べないから、僕はフィードバックを出していくだけ。マンガづくりは答えがあるのかよくわからないことだから、若手からしたら誰かのフィードバックがないと不安だと思うんです。フィードバックなしだと自分の現在地も進む先もはっきりしないし、そのまま作家さんからどんどんネームに感想を求められてしまうので。

竹内 そうですね。フィードバックの量も、打ち合わせの量も、編集者が成長する一つの要素ですよね。

村松 打ち合わせもフィードバックの一種ですしね。

竹内 これからも、いろいろとお世話になると思います。本日はどうもありがとうございました。

村松 ありがとうございました。

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